経営・戦略

2026.03.19 09:41

顧客接点を支配するAIプラットフォームの脅威

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大手ホテルチェーンのデジタル戦略責任者が最近、同社の直接予約率が6カ月で14%低下したと語った。原因はBooking.comでもExpediaでもない。ChatGPTだった。旅行者がAIアシスタントに旅程作成を依頼し、利用者の履歴、嗜好、予算に基づいてAIが代わりにホテルを選び、候補を提示していた。彼女のブランドはもはや他のホテルと競っているのではない。AIのレコメンドに表示されるための「アルゴリズム上の許可」を競っているのである。

Andreessen Horowitz(a16z)は第6版となる「Top 100 Gen AI Consumer Apps report」を公開した。データは、前述の幹部が損益計算書(P&L)で肌で感じたことを裏づけている。AIコンシューマーアプリは、もはや人々が「使いに行く」ツールではない。人々が買い物をし、旅行し、健康を管理し、購買意思決定を下すためのオペレーティング環境になりつつある。ChatGPTの週間アクティブユーザー数は9億人に達し、世界人口の10%以上に相当する。OpenAIは、有料購読者が5000万人いると報告している。同社は広告をテストし、「Sign in with ChatGPT」と呼ぶアイデンティティ層を構築し、コンシューマー向けスーパーアプリのインフラを組み立てている。

ビジネスリーダーが直面する戦略的な問いは、もはやAIが重要かどうかではない。18カ月後も自社が顧客と直接的な関係を維持できるかどうかである。

3つのAIプラットフォームが顧客接点をどう作り変えているか

a16zのパートナーであるOlivia Mooreが執筆した同レポートは、これまで十分に注目されてこなかった分岐を浮き彫りにする。主要なAIアシスタント3社は根本的に異なるエコシステムを構築しており、顧客がどれを使うかの選択が、顧客があなたを見つける方法そのものを作り変える。

ChatGPTは、コンシューマー向けスーパーアプリになるために最も攻勢を強めている。アプリディレクトリには、旅行、ショッピング、フード、ヘルス&ウェルネス、ライフスタイル、エンタメなど13カテゴリにわたり、220超の連携が並ぶ。利用者はAIのインターフェースを離れることなく、Expediaで航空券を予約し、Instacartで食料品を注文し、Zillowで住宅情報を閲覧し、MyFitnessPalで栄養を追跡できる。OpenAIは、ChatGPTを日常生活の起点にしたいと明言している。

GoogleのGeminiは別のアプローチを取っている。すでに数十億人が使う製品群にAIを埋め込むのだ。Geminiは現在、Chrome、Docs、Sheets、Gmail、Meetに組み込まれている。1月には「Personal Intelligence」を開始し、GeminiをGmail、Googleフォト、YouTube、検索に接続した。これによりアシスタントは、利用者から指示されずとも、ホテル予約、購買履歴、写真ライブラリ、視聴傾向を参照できる。Geminiにアプリストアは不要である。史上最大の配信プラットフォームを持つからだ。

AnthropicのClaudeは、さらに異なる第3の道を進む。開発者とナレッジワーカー向けに構築しているのだ。連携先は、PitchBookやFactSetのような金融データ端末、SnowflakeやDatabricksのような開発インフラ、PubMedのような研究プラットフォームに偏る。ChatGPTとClaudeのアプリカタログを合算しても、両者で共通するアプリは41個にすぎない。全体の約11%であり、ほぼ例外なく、誰もがすでに使っている水平型の生産性スタック、すなわちSlack、Gmail、Googleカレンダー、HubSpotといったものに限られる。

a16zのレポートは、AppleとGoogleが異なる哲学のもとで兆ドル規模のエコシステムを築いたモバイルOS戦争になぞらえる。しかし、この比較は破壊の度合いを過小評価している。企業がモバイルに適応したとき、アプリを構築し、ブランドアイデンティティを維持した。AIプラットフォームは違う。消費者がChatGPTに「東京行きのフライトを探して」と頼めば、AIはどの選択肢を表示するか、どう枠づけるか、何を推奨するかを決める。航空会社はインターフェースをコントロールできない。AIの回答内の枠をめぐって競うことになる。

Googleは発見(ディスカバリー)を支配し、Amazonは流通(ディストリビューション)を支配した。AIプラットフォームは、その両方に加えて、推奨、取引、そして顧客関係そのものを支配する立場にある。

最大のAIプラットフォーム転換は、最大の機会でもある

このデータを純粋に脅威として読むのは誤りである。同じレポートは、驚異的な起業家精神の拡大も記録している。Anthropicのコマンドライン開発者エージェント「Claude Code」は、わずか6カ月で年換算売上高ランレート(ARRランレート)10億ドルに到達した。水平型AIエージェントプラットフォームのGensparkは、年間経常収益(ARR)1億ドルを発表し、シリーズBで3億ドルを調達した。LovableやCursorのようなバイブコーディング(vibe coding)プラットフォームは、エンジニアリングのバックグラウンドがない人でも機能するソフトウェアを構築できるようにしている。「OpenClaw」というオープンソースのエージェントは、個人開発者のサイドプロジェクトから、数週間でGitHubで最もスターを集めるリポジトリとなり、その後OpenAIに買収された。

この環境で成長している企業には共通点がある。AIプラットフォーム転換の上に構築しており、それが停滞することを願ってはいないのだ。リスクにさらされるのは、AIアシスタントをチャネルではなく目新しさとして扱う企業である。初期推計では、ChatGPTの利用全体の5〜6%が商業リサーチに充てられている。週間ユーザーが9億人規模であることを踏まえると、毎週数千万件の購買関連セッションが発生している計算になる。これらのエコシステム内で自社の存在感を把握していない企業は、顧客の増え続ける一部に対してすでに不可視になりつつある。

一方で、既存ソフトウェア企業は「発明よりも流通が勝る」ことを証明している。今回のa16zリストは、AIネイティブ製品と並んで「AI強化(AI-enhanced)」製品を初めて含めた。Canva、Notion、CapCut、Freepik、Grammarlyである。Canvaは現在、月間のWeb訪問数がおよそ8億回に達し、DeepSeek、Grok、Claude、Character、Perplexityを合算した数を上回る。Notionの有料AIのアタッチ率(既存契約への追加導入比率)は、1年で20%から50%超へ急伸した。既存勢は基盤モデル(foundation models)を作ったわけではない。人々がすでに依存している製品の中にAIを「見えない形」で組み込んだのである。

いま問うべき4つの問い

a16zのレポートは、利用がどこで伸び、資本がどこへ流れているかを追跡している。しかし設計上、成長データが要請するガバナンスの問いを投げかけてはいない。その問いはいまや、取締役会と経営陣の領域である。

第1はチャネル依存である。顧客の発見、製品比較、購買がAIアシスタント経由で増えていくなら、あなたの事業は自社がコントロールできないプラットフォームに依存することになる。私が話したホテル幹部は、6カ月前までAIプラットフォーム戦略を持っていなかった。売上がその問いを突きつけたため、いまは構築している。消費者向け収益を持つ企業はすべて、同じことを問うべきだ。顧客獲得の何%がいまAI経由になっているのか、そしてその割合が倍になったら何が起きるのか。

第2はデータの非対称性である。消費者がAIアシスタントと交わすすべてのやり取りは、行動データを生み、そのデータをプラットフォームは取得するが企業側は取得できない。AIは、消費者があなたの製品にたどり着く前に何を検索したか、何と比較したか、コンバージョン(成約)したかどうかを知っている。この情報優位は、セッションを重ねるほど複利的に強まる。GoogleとAmazonを強大にした力学と同じであり、より多くのファネルを支配する単一の会話型インターフェースに凝縮されている。

第3はバンドリングのリスクである。レポートは、Midjourneyのような単体のクリエイティブツールが、ChatGPTやGeminiが画像生成を中核製品に取り込むにつれて地位を失ったことを示す。Midjourneyは3年でトップ10から46位へ落ちた。この圧縮のパターンは、他の垂直領域でも繰り返されるだろう。AIプラットフォームが組み込み機能として再現できるサービスを提供しているなら、差別化の窓は急速に狭まっている。

第4はエージェントへの移行である。水平型AIエージェントは、消費者に代わって複数ステップのタスクを実行し始めている。調査し、比較し、予約し、購入するのだ。Metaは、エージェントプラットフォームのManusを推定20億ドルで買収した。AIエージェントが消費者のために交渉し取引するようになれば、ブランドロイヤルティは企業と顧客の関係ではなくなる。アルゴリズムの変数になる。

AIプラットフォーム戦略に企業はどう向き合うべきか

この移行を乗り切る企業は、社内AIツールが最も優れている企業ではない。AIプラットフォームがいま、顧客との関係をどのように媒介しているかを理解する企業である。

第1の手は、自社のAI上の存在をマッピングすることだ。消費者がChatGPT、Gemini、Claudeに自社カテゴリの推奨を求めたとき、製品がどう表示されるかを確認する。表示されない、あるいは不利に表示されるなら、それは10年前にGoogleの3ページ目に埋もれるのと同等の状況である。ただし今回は、消費者は2ページ目を決して見ることがない。

第2は、AIが容易に複製できない4つの堀への投資である。利用とともに改善しフライホイール効果を生む独自のデータ、一貫した提供を積み重ねて得るブランド信頼、アルゴリズムが代替できない人の判断と関係性、そして切り替えが痛みを伴うほど顧客のワークフローに深く埋め込まれた流通。これらの堀を1つでも持つ企業にはレバレッジがある。1つも持たない企業は、中抜きされるのを待つコモディティ投入財にすぎない。

第3は、AIインターフェースに最適化して作ることだ。15年前に企業がモバイル向けに再設計したのと同様に、いまはAIアシスタントが製品を発見し、評価し、推奨する仕組みに合わせて最適化する必要がある。つまり、構造化データ、言語モデルが解釈できる明確な価値提案、そして各プラットフォームが構築するコネクター(connector)エコシステムとの統合である。

第4、そして最も重要なのは、AIプラットフォーム戦略を取締役会の議題に載せることだ。a16zのレポートが明確に示すように、これはマーケティングの問題でもテクノロジーの問題でもない。顧客関係を誰が所有するのかという戦略問題である。この問いは取締役会で扱うべきだ。

AIアプリのチャートは興味深い。だが、それが明かす顧客接点の未来は、企業の存亡に関わる。

forbes.com 原文

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