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2026.03.19 08:16

量子時代の覇権争い──各国が競う「コンピュート主権」とは

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この20年で、クラウドサービスはインフラへのアクセスを一変させた。テックスタートアップ、研究者、公共部門の組織は、もはやサーバーを自前で維持したり、コロケーション・データセンターに設置して運用したりする必要がなくなった。

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世界がオンプレミスからクラウドホスティング型のインフラへ移行するにつれ、データストレージと計算能力は急速に価値が減衰するリソースになった。これにより、SaaS(Software as a Service)、AI(人工知能)、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)のかつてない進展がもたらされた一方で、クラウドには「灰色」の側面もある。

クラウドの集中化

Amazon Web Services(AWS)、Azure、Google Cloud Platform(GCP)、そして規模は小さいがOracleが、クラウドの主要プレイヤーとしての地位を確立した。StatistaおよびSynergy Research Groupによれば、AWS単独で世界のクラウド市場の28〜29%を占め、続いてAzureが20%、GCPが13%となっている。

これは、ごく少数の企業に権力が大きく集中していることを意味する。生成AIの台頭は、この支配構造をさらに強固にした。OpenAI、Anthropic、Google、xAIといった企業が、クラウド事業者を介して世界のGPU容量の大半を消費しているからだ。最近ではこの影響がコンピュータメモリにも波及し、AI大手とそのインフラ提供者からの大規模なバックオーダーにより、消費者向けRAM価格が急騰している。

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以上の企業はいずれも米国に本社を置いており、同国がAIとHPCの疑いようのない強国であることを示している。現在、米国に対抗できるのは中国だけであり、推計によってはAlibaba、Huawei、Tencent、ByteDance、Moonshot AI、DeepSeekによる事業を通じて、急速に差を縮めているという。

これを独占と見るか、複占と見るかは別として、世界の多くが米国と中国の計算インフラに強く依存しているという事実は変わらない。量子コンピューティングの領域では、状況はいっそう偏っている。商用としてアクセス可能な量子コンピュータのほぼすべてが米国に存在するか、米国企業が所有している。

先端コンピューティングにおける主権ギャップ

関税戦争と地政学的緊張が続くなか、欧州、カナダ、中東、インド、極東の国々は、主権あるコンピューティング能力の構築に躍起になっている。とりわけ欧州、カナダ、インドでは、人材とテックエコシステムがありながらも、生成AIのゴールドラッシュに乗り遅れたのではないかという感覚が残っている。量子コンピューティングで同じことを繰り返したくないという強い意欲がある。

この感覚は他国にも共有され、複数の国が国家量子戦略を打ち出し、AIと量子インフラへの大規模投資を進めている。例えばカナダは、国内のAI計算能力の構築に20億ドルを投じ、量子エコシステムにもさらに3億3400万ドルを投資している。インドは、量子とAIの能力構築に、それぞれ10億ドル超6億5900万ドルを投じている。アラブ首長国連邦は、5ギガワットの容量を持つ野心的な300億ドル規模のデータセンターを開発中だ。このように、主権あるコンピューティングは世界のテック業界における支配的なテーマとなっている。

国家戦略

データと計算処理が国内のデータセンターに所在しているだけでは、もはや不十分である。各国は、インフラを所有し運用する主体が、国内で信頼される企業であることを求めている。これは、量子、AI、HPCのスタートアップやインフラ提供者にとって、刺激的な機会を生み出す。インフラがグローバルな統合からローカルな分割へと移るなかで、新たなユニコーンがいくつも誕生すると私は見ている。おそらく最大の機会は、実用に耐えるハイブリッド量子・古典インフラを構築することだ。米国や中国を含め、これをまだ実現した国はない。

また、この14カ月で量子コンピューティングは大きな科学的進展を遂げたが、課題は残る。多くの量子コンピュータは、物理量子ビット(量子データビット)が数十〜数百にとどまり、論理量子ビット(誤り訂正された量子ビット)はさらに少ないため、解ける問題が制限される。

量子ハードウェア企業は、両面の改善に向けて競争している。一方で、量子の実用性に対するより大きなボトルネックは、量子システムと古典システムの相互運用性の現状にある。これはこれまで見過ごされてきた論点だ。あらゆる量子コンピュータの制御システムは古典的であり、実用的なアプリケーションでは計算の大部分を古典HPCデバイスで実行する必要がある。計算を分解し、古典マシンと量子マシンへ配分できるソフトウェア層とハードウェア層の双方が必要である。

ハイブリッド量子・古典統合

NVIDIAは、GTC DC 2025カンファレンスでNVQLinkを発表し、この方向性に向けて重要な一歩を踏み出した。NVQLinkはNVLinkの量子拡張であり、NVIDIAのGPUを多様な量子コンピュータへ接続し、誤り訂正のための遅延を4マイクロ秒未満に抑える。ワークロードを「古典マシンで解くべき部分」と「量子マシンで解くべき部分」に分解する機能は備えていないものの、データセンターへの量子コンピュータ配備という観点では重要なマイルストーンだと私は考える。さらに必要なのは、古典ハードウェアと量子ハードウェアを単一のアーキテクチャとして動作させるプラットフォーム、あるいはOS(オペレーティングシステム)である。

これは、量子コンピュータから大規模に価値を生み出すうえで決定的に重要である。Windows、Linux、MacOSは、CPUとGPUの双方をシームレスに制御し、パーソナルコンピュータやクラウドサーバーの実用性を引き出している。ここにQPU(量子プロセッシング・ユニット)を最初に組み込む者は、明確な優位性を得るだろう。

量子コンピュータが研究室からデータセンターへ向かうにつれ、量子インフラの覇権をめぐる競争が始まっている。コンピューティングの未来はハイブリッドであり、主権あるハイブリッドコンピュートという物語のなかで、革新的な企業が輝く余地は十分にある。

forbes.com 原文

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