食品流通業界は毎年数兆ドル規模の商品を動かしているが、その業務の多くはいまだにスプレッドシート、電話、紙に依存している。AIネイティブのスタートアップ企業が次々と登場し、この非効率性によるコストがついに無視できない水準に達したと見込んでいる。
卸売食品ディストリビューター向けに構築されたAIエージェントプラットフォーム「Anchr」は、純利益率が3%程度という薄利での運営が常態化している業界で存在感を広げるべく、新たな資金調達ラウンドを実施した。幼なじみのTzar TaraporvalaとSmayan Mehraが設立したニューヨーク拠点の同社が挑むのは、多くのディストリビューターが依存するERPシステムの「内部」ではなく、その周辺で発生する煩雑で手作業の多い業務に潜む問題だ。同社はa16zのアクセラレーター「Speedrun」の参加企業でもある。
タイミングも重要である。関税による圧力、人手不足、そして継続的なマージンの圧縮により、食品ディストリビューターはあらゆる方向から締め付けられている。業務効率化ソフトウェアへの投資は、いまや存続に関わる問題となった。
実際の業務が行われている場所
ERP(統合基幹業務システム)は、数十年にわたり卸売流通の基盤として機能してきた。しかしTaraporvalaによれば、「ERPは常に帳簿であり、業務を遂行するためではなく取引を記録するために設計されたもの」だという。発注書の作成から仕入先への支払い調整、入荷在庫の管理に至るまで、事業の実務を支えるオペレーション労働は常に別の場所で行われてきた。メールのやり取り、スプレッドシートのタブ、そしてソフトウェアが学習できなかったことを何年もかけて記憶してきた従業員の暗黙知の中である。
Anchrの初期顧客の1社であるボストン拠点の水産物ディストリビューターは、年間売上高約1億5000万ドルを上げているが、営業担当者チームは毎朝午前3時に出社し、1日の約40%を手作業でのデータ入力に費やしていた。
「これらの卸売ディストリビューターで実際に仕事が進むのは、受注が作成されてから請求書が計上されるまでの間だ」とMehraは言う。「その作業はすべてERPの中では起きない。メールやスプレッドシート、時には紙の上で起きる」
Anchrのアプローチは、ERP、CRM、コミュニケーションチャネルを含む既存システムに接続するAIエージェントを展開し、その「間」の業務を自動化することにある。事業者への提案はシンプルだ。人員を増やさずに事業を成長させる。マージンに余裕のないディストリビューターにとって、この計算は魅力的である。
業界の足かせとなるデータ問題
この機会を見出しているのはAnchrだけではない。食品サプライチェーン全体で、AIツールが最終的に依存する基盤を整備するために動くインフラ事業者がより広範に存在する。食品企業がパートナー間でデータを共有できるよう支援するサプライチェーン・トレーサビリティ・ネットワーク「Starfish」のCEO兼創業者Wiggs Civitilloは、ボトルネックはAIの能力よりもデータへのアクセスにあると主張する。
「食品サプライチェーンにおけるAIの最大の障壁はモデルではなく、取引パートナー間で一貫したデータにアクセスできるかどうかだ」とCivitilloは語る。「ほとんどのサプライチェーンは依然として数千ものシステムに分断されており、AIが実際に見える範囲が制限されている」
Civitilloは、先進的な事業者の間ですでに進行中の変化を指摘する。AIがレポーティングを超え、能動的なオペレーション上の意思決定へと移行しているのだ。仕入先リスクを自動で検知し、調達計画を調整し、リアルタイムの状況に応じて在庫を迂回させる。AI導入で最も成果を上げている企業は、AIに意味のある結論を導かせる前に、まずデータの相互運用性へ投資し、情報が標準化された形でパートナー間を移動できるようにしている企業だとも述べる。
わずかな予測精度の改善でさえ廃棄削減とコスト低下に直結する業界において、これを正しく実現することの経済的なメリットは大きい。だが機会はバックオフィスにとどまらない。店舗の棚レベルでは、フィジカルAIが、ディストリビューターが出荷するものと小売店が実際に陳列するものの間のギャップを埋め始めている。
次に何が起きるのか
InstacartのChief Connected Stores OfficerであるDavid McIntoshは、リアルタイムの棚可視化こそが小売における次の大きなブレイクスルーだと見ている。買い物客のスキャンやカメラデータをライブの棚シグナルへ変換するStore Viewのようなツールを通じて、Instacartは店舗が継続的に観測可能になったときに何が実現できるかを示している。McIntoshの言葉を借りれば、「店舗が観測可能になると、最適化も可能になる」ということだ。
だが、現行のオペレーションを理解しないまま新ツールを導入すること自体が、別種のリスクでもある。米国および世界のアクセラレーターで年間100社超のスタートアップを指導する、事業運営とAIのリーダーであるIrina Kukuyeva(PhD)はこの点を率直に指摘する。「ベースラインのない最適化は、ただの高価な当て推量である。推測をやめ、監査を始めよ。現状を可視化し、工程を定義し、移行の時間を計測し、コストを集計する。これは単なるマップではない。実際に成果を出すA/Bテストの対照群である」
AIインフラへの投資の波が加速するなかで問われるのは、どの事業者が先にその監査を行い、どの事業者がさらに10年、午前3時に手作業で数字を打ち込み続けるのか、ということだ。



