経済・社会

2026.03.19 13:00

イラン戦争で揺れるタンカー市場を独占へ、資産7兆円の「海運ビリオネア」G. アポンテの野望

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あまり知られていない韓国企業が超大型タンカーを相次いで買い集め始めたことで、その背後に海運業界の大物ジャンルイジ・アポンテがいるのではないかとの憶測が広がった。フォーブスの調査で、実際にこれらの船の多くをアポンテが取得していたことが確認された。イラン戦争によってタンカー運賃が急騰する中、この投資は結果的に絶妙なタイミングだった可能性がある。

SINOKOR(シノコー)として知られる韓国の海運会社、長錦(チャングム)商船は昨年12月、ひそかに超大型タンカーを買い集めはじめた。コンテナ輸送を主力としてきた創業36年の同社にとって、これは大きな方針転換だった。さらに1月には、同社がVLCCと呼ばれる最大級の原油タンカーを可能な限り買い集めていると報じられた。

タンカー会社ツァコス・エナジー・ナビゲーションの創業者ニコラス・ツァコスは、フォーブスの1月の取材に、「韓国の企業が常軌を逸した勢いで、あらゆる船を買い漁っている。ここ1カ月は異常な状況だ」と語った。海運データ企業Veson Nauticalの推計によると、1月末時点でシノコーは、25億ドル(約4000億円)以上を投じて35隻のタンカーを取得していた。その後3月までに、少なくとも60隻の取得に総額33億ドル(約5250億円)を投じる規模に拡大した。

ただし、この買収はシノコー単独の動きではなかった可能性がある。同社が買収攻勢で注目を集める中、その背後に海運業界で最も裕福なビリオネアで純資産438億ドル(約7兆円)のジャンルイジ・アポンテがいるとの報道が相次いだ。業界紙Lloyd's Listは1月末、シノコーの購入資金をアポンテが「提供している」と報じる一方で、両者の関係が「依然として秘密にされている」と指摘した。また、シノコーに船を売却した2人の船主も2月初旬、最終的な買い手はアポンテと「関連のあるグループ」だったとブルームバーグに語っていた。

両者は以前から取引関係にあった。アポンテが率いるメディテラニアン・シッピング・カンパニー(MSC)は2025年後半、シノコーから最大30隻のコンテナ船を25億ドル超で購入するための協議を進め、少なくとも11隻を実際に取得したと報じられた。

タンカーの実質的な所有者を特定するため、フォーブスは海運データベース「エクアシス」でシノコー関連船舶の記録を確認し、さらに多くの船の所有会社が登録されているパナマの法人登記も調査した。その結果、アポンテとシノコーの大規模なタンカー購入との関係は、これまで考えられていた以上に緊密であることが明らかになった。

Equasisのデータによると、31隻の船はシノコーではなく、「オー・ブリオン」という名称に番号を付けた複数の企業が最終的に所有している(オー・ブリオンはフランス・ボルドー地方の著名なワインの名称でもある)。この31隻のうち11隻はパナマで登録されており、登記情報によれば、いずれもアポンテのいとこで、MSCで長年さまざまな役職を務めてきたマリオ・アポンテが代表を務めている。

タンカー海運市場を独占する試み

昨年12月24日から26日にかけて、パナマでは18社の企業が設立され、それぞれの社名は「オー・ブリオン」の後ろに1から18までの数字が付けられていた。また、すべての企業の社長は、マリオ・アポンテが務めており、登記上の住所はキプロスにあるMSCの船舶管理部門「MSCシップマネジメント」と同じだった。他の役員はすべて弁護士や名義貸し的な関係者で、シノコーとの関係は確認されていない。

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翻訳=上田裕資

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