シノコーとMSCの積極的な買収によって、他のタンカー関連ビリオネアも利益を得ている。売却側には、ジョージ・プロコピウのDynacom Tankers(9隻)、ジョン・フレドリクセンのFrontline(8隻)、エヤル・オフェルのZodiac Maritime(3隻)、ディアマンティス・ディアマンティデスのDelta Tankers(2隻)、エヴァンゲロス・マリナキスのCapital Ship Management(2隻)、ジョージ・エコノモウのTMS Tankers(2隻)などが名を連ねる。これらの取引によって彼らは数億ドル規模の収益を得ただけでなく、タンカー価格の上昇が保有資産の価値も押し上げ、過去1年で彼らの資産総額は合計1300億ドル(約20兆6700億円)へと50%以上増加した。
少なくともイランでの戦争が続く限り、資金は流れ込み続ける見通しだ。B. Riley Securitiesのアナリスト、リアム・バークは、9日にニューヨークで開催されたCapital Link International Shipping Forumで、「この運賃水準がいつまで続くかは分からない。一時的なものではあるが、この間に生まれるキャッシュフローは確実に残る」と語った。
ただし、これは短期的な動きにとどまらない。すでに新たな取引も進行している。ギリシャに本拠を置く、原油や石油製品などの海上輸送サービスを提供する企業、ツァコス・エナジー・ナビゲーションの創業者ツァコスは、フォーブスに対し、自社のタンカー2隻を1隻あたり約1億1000万ドル(約175億円)でシノコーに売却する交渉を進めていると明かした。他の競合各社も、シノコーとMSCが今後も買収を続け、市場支配力を一段と強めることで運賃の押し上げを図ると見ている。
世界最大のコンテナ船隊を持つビリオネア
エネルギー投資銀行Fearnley Securitiesのディブワドはこう指摘する。「もしそれが実現できれば、業界全体にとって利益になる。ただし私は懐疑的だ。海運業界は非常に分散していて、小規模な船主が数多く存在し、価格や市場をコントロールしようとする彼らの戦略を崩す可能性があるからだ。それでも実現できれば、大きなプラスになるだろう」
今回のタンカー大量取得は、85歳のスイス系イタリア人ビリオネアのアポンテによるここ数年の積極投資の延長線上にある動きにすぎない。アポンテは、妻ラファエラとともにコンテナ海運大手MSCの共同創業者であり、共同オーナーでもある。コロナ禍で運賃が急騰したことで、MSCには数百億ドル規模の資金が流入し、その一部を投じて同社は2022年初頭までに世界最大のコンテナ船隊を築き上げた。
フォーブスの推計によれば、MSCは2022年1月から2025年3月までの間に、追加のコンテナ船のほか、港湾や病院、さらにはイタリアの高速鉄道会社まで、400億ドル(約6兆3600億円)以上を投じて買収してきた。さらに昨年3月には、資産運用大手ブラックロックとともに、香港の複合企業CKハチソン傘下の43港湾を230億ドル(約3兆6500億円)で取得する計画も発表した。しかしこの取引は中国政府の反発に直面し、CKハチソンが中国の「主要な戦略投資家」をコンソーシアムに招き入れる検討を始めたと発表した昨年7月以降、停滞している。
それでもアポンテは動きを止めていない。MSCがここ数カ月でタンカー市場に投じたとされる9億〜17億ドル(約1430億〜2700億円)は、同社にとってこの分野への初の本格的な投資となる。今のところ業界の他社は、シノコーとMSCが船隊を拡大し続けることを容認している。市場全体の収益が押し上げられる限り、それは他社にとっても利益になるからだ。
ギリシャを拠点に海運業を主とする企業、オケアニス・エコ・タンカーズのCEO、アリスティディス・アラフゾスは2月の決算説明会でこう述べた。「彼らは市場を押し上げるうえで非常に大きな役割を果たしている。重たい部分を引き受けるのは彼らで、その成果を市場全体が享受している」


