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2026.03.18 08:06

150万台の機械をつなぐキャタピラーのデジタル戦略、CDOが語るフィジカルAIの未来

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キャタピラーは、建設機械と鉱山機械の分野で世界をリードするメーカーとして広く知られている。しかし同社の事業は、重工業と高度なデジタル技術の交差点での展開をますます強めている。2024年の売上高は約650億ドルに達し、約150のディーラーからなるグローバルネットワークを通じて、190カ国超の建設、鉱業、エネルギー分野の顧客を支えている。

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この変革を率いるのが、キャタピラーの最高デジタル責任者(CDO)であるオギ・レズィッチだ。レズィッチは、世界中のキャタピラーの機械、顧客、ディーラーをつなぐデジタルプラットフォームとオフボード技術(機械本体外で稼働するシステム)を担う組織を指揮している。チームの重点領域は、eコマースやフリート管理プラットフォームから、安全性の向上、ダウンタイム(稼働停止時間)の削減、現場技術者の生産性向上を目的としたAIシステムまで多岐にわたる。

「我々の仕事は、顧客の仕事をより楽にし、ディーラーが現場で顧客を支えるうえで、より成功できるようにすることだ」とレズィッチは説明する。

スケールを前提に構築されたデジタル組織

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レズィッチの組織は、彼が就任して以降、劇的に拡大した。着任当初は約600人だったが、現在はエンジニアリング、データサイエンス、デジタルマーケティング、製品開発を横断する約3000人のプロフェッショナルを擁する。この成長は、デジタル能力に対する需要の拡大と、それを支える基盤プラットフォームを意図的に構築してきた取り組みの双方を反映している。

「大企業では、しばしば能力が『島』のように分断されている」とレズィッチは指摘する。「最初の仕事は、それらを統合し、強固なデジタル基盤を築くことだった。そのプラットフォームが整えば、その上にアプリケーションを構築し、事業部門とその顧客に提供できる」

この取り組みによって、eコマースやフリート管理から、世界中でキャタピラー機器を整備する技術者が使うツールまでを支えるデジタルプラットフォームが形成された。機能が拡大するのに伴い、新しいサービスやイノベーションへの需要も同時に高まっていった。

計画外のダウンタイムを計画保全へ

キャタピラーの顧客が直面する最も重大な課題の1つが、設備のダウンタイムである。鉱業のように機械が遠隔地で連続稼働する産業では、予期せぬ停止が操業を妨げ、瞬く間に莫大なコストにつながり得る。「採掘用トラックが止まれば、操業全体にとって大きな問題になる」とレズィッチは説明する。

キャタピラーのデジタルプラットフォームは、故障が起きる前に保全ニーズを予測することで、こうした混乱を回避できるよう設計されている。現在、同社は世界中で稼働する約150万のコネクテッドアセット(接続資産)を監視している。テレマティクス(車両・機械の遠隔計測)データ、センサーの読み取り、オイル分析、整備履歴、環境情報を活用し、レズィッチが「優先度付きサービスイベント」と呼ぶものを生成する。これらの洞察により、ディーラーと顧客は故障が発生する前に保全を計画できる。

「目標は、計画外のダウンタイムを計画保全に変えることだ」とレズィッチは言う。「一定の時間内に、対処しなければ問題が起きる可能性があると顧客に伝えられる」。成果は顕著で、こうした予兆アラートを発した場合、サービスの解決率は70〜80%に達するという。

イノベーションを支えるデータプラットフォーム「Helios」

こうした能力の中核にあるのが、キャタピラーのプラットフォーム「Helios」である。膨大な運用データを集約し、処理する基盤だ。Heliosは、テレマティクスのフィード、ディーラー情報、オイルサンプル分析、作業履歴、さらには気象条件などの外部データを含む数十のデータソースを統合する。毎日、何百万ものデータパイプラインがこのプラットフォームを通過している。

「我々は20〜30の異なるデータソースを見る」とレズィッチは言う。「そのうえで、AIと機械学習のチームが情報を分析し、ディーラーと顧客に送る推奨事項を生成する」。このプラットフォームは学術界からも注目を集めている。Heliosは最近、MIT情報システム研究センター(MIT Center for Information Systems Research)が、企業がデジタル資産をスケールで構築する方法を検証するケーススタディとして取り上げた。レズィッチは、こうしたイノベーションは、キャタピラーの技術アーキテクチャを簡素化する初期の取り組みなしには実現し得なかったと強調する。

「データが複数のレガシープラットフォームに散在していては、迅速にイノベーションを起こせない」と彼は力を込める。「システムを統合し、データが構造化され、信頼できるものになっていることを担保する必要があった」

産業スケールのeコマース

キャタピラーは巨大な機械で知られる一方で、同社が大規模なeコマースプラットフォームも運営していることを知って驚く人は多い。2024年、キャタピラーは1営業日あたり約1880万ドルのデジタルトランザクションを処理しており、年間では約50億ドルに相当する。購入の大半は、世界各地で稼働する機器の交換部品である。

顧客は約150万種類の部品から選べる。その多くは、数十年前に販売された機械を支えるものだ。「当社の機器は非常に長期間にわたり良好に稼働する」とレズィッチは言う。「つまり、1970年代や1980年代に出荷された機械の部品供給も維持しなければならない」。同社は機械にQRコードも組み込み、技術者が機器をスキャンして適合する部品を即座に特定できるようにした。これにより、本来であれば複雑になりがちな発注プロセスが簡素化される。

AIアシスタントとフィールドサービスの未来

熟練技能職の人手不足も、キャタピラーのデジタル戦略に影響を与えている。多くのベテラン技術者が退職に近づいており、経験の浅い作業者がより早く戦力化するための支援が急務となっている。この課題に対応するため、キャタピラーは最近、機器の点検や修理の際に技術者をガイドするAI搭載アシスタントを導入した。「経験の浅い技術者が機械の履歴と、次に取るべき手順を理解できるよう助ける」とレズィッチは説明する。「時間の経過とともに、スマートグラスのような技術によって、さらに手厚い支援のもとでこうした作業が可能になると見込んでいる」

このアシスタントは、約2万5000の技術マニュアルやサービス文書を含む巨大なナレッジベースから、目の前の作業に最も関連性の高い情報だけを提示する。レズィッチはAIを、複雑なシステムを簡素化し、必要なときに必要な洞察を正確に届けるためのツールとして主に捉えている。「顧客や技術者が、当社のアプリケーションのすべてを深く学ぶ必要がない状態が目標だ」と彼は述べる。「適切な瞬間に必要な情報が手に入るだけでよい」

フィジカルAIの台頭

今後についてレズィッチは、次のイノベーションの波は、多くの技術者が「フィジカルAI」と呼ぶ領域に集中すると考えている。これは、現実世界で稼働する機械や設備そのものに、知能システムを直接組み込むことを指す。キャタピラーはNVIDIAと緊密に連携し、同社の機器に高度なコンピューティング能力を導入している。これらのシステムにより、通信環境が安定しない遠隔地でも、機械がローカルでデータを処理し、指令に応答できるようになる。「当社の機械はより知的になっている」とレズィッチは言う。「環境を認識して反応できるようになり、それがより高度な自律性への扉を開く」

自律機能は、すでにキャタピラーの鉱山事業で広く導入されており、機械は重大な安全事故なく累計で数億kmを走行してきた。レズィッチにとって、目の前の機会は計り知れない。「フィジカルAIを考えるなら、いま、ここ以外にいる理由はない。我々の仕事のなかで毎日それを目にしている」

ピーター・ハイは、ビジネスおよびIT戦略コンサルティング会社Metis Strategyの社長。最新作『Getting to Nimble』を含むベストセラー3冊の著者でもある。Technovationポッドキャストシリーズの司会を務め、世界各地のカンファレンスで講演している。Xでのフォローは@PeterAHighまで。

forbes.com 原文

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