ドミトリー・カサノフは、エンジェル投資家、デジタルマーケティングの専門家であり、Arrow Starsの創業者である。
半導体とソースコードが地政学的資産となった今、各国はAI製品を単に「利用する」段階から、それを可能にするフルスタック(技術基盤全体)を「所有する」段階へと移行しつつある。ソブリンAI(国家主権に基づくAI)への取り組みは、いまやほぼすべての大陸で目に見える形で現れている。中国、アラブ首長国連邦(UAE)、フランスはそれぞれ異なる戦略を示しており、いずれも世界的な競争を作り替え、スタートアップに新たなニッチを開いている。
なぜ「ソブリンAI」が急に喫緊の課題になったのか
先端GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)に対する輸出規制、強まるデータプライバシー規制、そしてサプライチェーンのボトルネックへの懸念により、海外クラウドへの依存はリスクだと見なされるようになった。その結果として進んでいるのが輸入代替の推進である。可能な限り海外製のチップやモデルを国内の同等品に置き換え、機微なデータは国境内に留める。政策立案者にとっては雇用と安全保障、投資家にとっては国内サプライヤーを求めて動く10億ドル規模の予算を意味する。
中国:規模、制裁、そして自給自足
北京は2017年の時点で布石を打っていた。「新世代人工知能発展計画」において、中国は2030年までに世界のAI「イノベーションセンター」になるべきだと宣言した。ワシントンがチップ輸出を厳格化して以降、その誓約は現場の政策へと転化している。
• 国内アライアンス:中国のAI企業は7月に、新たに2つの業界連盟を設立した。目的は、米国のハードウェアとソフトウェアを置き換え得る「国内エコシステムを構築」することだ。
• チップの囲い込み:11月、政府は国費で運営されるデータセンターに対し、海外製AIアクセラレーターの購入を全面的に停止するよう命じた。
• グローバルメッセージ:李強首相は上海の世界人工知能大会を通じて、国際協力機関を提案し、中国が孤立ではなく標準づくりの場を求めていることを示唆した。
すでに国産シリコン向けにモデル最適化を行っている中国国内のスタートアップにとって、この禁止措置は追い風だと私は見ている。昨日までNvidia A100を使っていた政府プロジェクトは、明日には国内製の代替品を必要とするかもしれない。中国国外では、翻訳レイヤー、つまり数百万行のコードを書き換えることなく西側のソフトウェアを中国製チップと対話させるツール周辺に機会が集まる可能性があると私は考える。
UAE:機動力と投資
アブダビの戦略は、潤沢な資金力とアラビア語言語モデルへの集中的な注力を組み合わせたものだ。
• Falconとその仲間たち:5月、UAEはアラビア語の大規模言語モデルを公開し、英語ファーストのシステムが残してきた文化的ギャップを埋めようとした。9月には、高度な推論モデルをオープンソース化した。
• ハードウェア外交:現地の旗手であるG42は中国製ハードウェアを手放し、15億ドルの米国投資を確保した。サプライチェーンの選択が海外資本の呼び水になり得ることを示している。
• 人材パイプライン:モハメド・ビン・ザーイド人工知能大学は、UAE国内外の学生に対し奨学金を給付し、UAEをAIと先端技術のリーダーに位置づけることを後押ししている。
UAEは人口が小さいため、住民1人当たりに割り当てられる計算資源が豊富だ。スタートアップは、より大きな市場では無視されがちなニッチなモデル(アラビア語の法務、湾岸方言チャットボットなど)を学習させるのに理想的なスーパークラスターへの補助付きアクセスを得られる可能性がある。
フランス:欧州の主権実験室
パリはAIを戦略的自律性の問題として位置づけているように見える。2月、マクロン大統領は今後数年で民間のAI投資が1090億ユーロにのぼると発表した。特に重要な節目は2つある。
• ナショナルチャンピオン:9月、オランダの半導体製造装置大手ASMLが、パリ拠点のMistral AIに13億ユーロを投資した。ASMLは11%の株式を取得し、スタートアップの評価額は117億ユーロに引き上げられた。
• 規制面でのヘッジ:EUで導入が予定されるAI法(AI Act)は、「ハイリスク」システムと生成モデルの双方に厳格なガードレールを設ける。
私の見立てでは、いま国産サプライヤーを育てることで、フランスはコンプライアンスの専門性(そして支払われる罰金)を域内に留めたいのだろう。監査、データ来歴(データ・プロベナンス)、またはモデル圧縮技術を専門とする欧州の創業者は、2つのトレンドの双方に乗る形で自社を位置づけられる。すなわち、ソブリンクラウドに向けた国家支出と、AI法対応を求める企業需要である。
ローカルスタックが世界の競争をどう変えるか
各国が独自のAI基盤を調整することで、技術競争は大きく4つの点で形を変える。第1に、政府が先端チップを購入できる主体を制限すれば、国産工場やデータセンターへの資金投入が進む可能性が高い。その結果、ローカルプロセッサー、冷却機器、あるいはオープンソースのチップ向けツールキットを設計する企業は、突然顧客を増やすかもしれない。
第2に、より厳格なデータ所在地(データレジデンシー)規制は、データを収集した国の内部にあるサーバーでモデルを学習させることを強制する。これは、地域特化の基盤モデル(ファウンデーションモデル)や、学習の過程で個人情報を秘匿するためのアドオンを構築するチームに有利に働く。
第3に、安全性要件は現在、地域によって異なる(例えば、ブリュッセルで規制当局の承認を得られても、北京やドバイでは別の安全策が必要になるかもしれない)。そのため、複数のルールブックに同時に対応するのを支援するツールは不可欠になる。
最後に、大規模言語モデルは依然として小さな方言や文化的ニュアンスに苦戦しており、ニッチなモデルを作成し合成学習データを生成する専門スタジオに道が開かれる。
スタートアップにとっての「機会領域」
私の見立てでは、創業者が今後活用できる機会がある。
• アダプターレイヤーとミドルウェア:ハードウェアが分岐していくにつれ、米国のAIフレームワークを中国や欧州のチップに合わせて変換する企業は、継続的に需要を得る可能性がある。
• ローカルのデータ運用(Data Ops):アラビア語の法務文書であれフランスの医療記録であれ、国の外に出ない高品質のラベル付きコーパスは、プレミアム資産になりつつある。
• エッジ最適化モデル:クラウドの囲い込みを恐れる国は、ノートPC、スマートフォン、あるいは小規模データセンターで動作するモデルを必要としている(UAEのFalconの推論エンジンを他言語へ展開したものを想起するとよい)。
• AI向けレギュレーション・テック:モデルの挙動を各規制当局のチェックリストにマッピングするツール(例:EUのAI法、中国のアルゴリズム登録制度、UAEの倫理AIガイドライン)は、市場ごとの販売が可能である。
• グリーン計算資源サービス:欧州のAI法は持続可能性の保護を目指している。カーボン追跡や省エネ推論を提供するスタートアップは、受け入れられやすい市場を見いだすかもしれない。
競争を減速させ得るもの
主権をめぐる野心は、リソグラフィー(露光)工程のボトルネック、電力網への負荷、AI研究者の世界的不足といった「物理法則」の壁にぶつかり得る。一方で、ルールブックの分岐はオープンソースの勢いを分断しかねない。パリで「安全」とされるコードベースが、深圳ではデータ規制に抵触したり、ドバイではコンテンツフィルターに触れたりする可能性がある。コンプライアンスを損なわずに相互運用性を実現する企業は、高いプレミアムを得るかもしれない。
結論
私が考えるに、AIにおける輸入代替は、孤立というよりレバレッジの問題である。次のAIの勝者は、最大でも最安でもないかもしれない。最も文脈に強いプレイヤーである。そして、文脈が国ごとに異なる世界では、適切なパスポート、あるいは適切なAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を持つ新規参入者が頭角を現す余地は十分にある。



