日本企業の打ち手
日本はエネルギー資源に乏しいことを嫌というほど理解した上で、化石燃料の安定供給を前提とした強靱性を高めてきた。
端的な例として、石油備蓄は官民合計で250日分に迫る。それにもかかわらず、企業活動に不可欠なエネルギーはコモディティー品(差別化しにくく、ありふれた品)のように扱われ、安定供給が当然視されてきた。他方、発電施設や石油精製設備の多くは老朽化が進み、減価償却費が減少している状況は資本更新力の低下を示唆する。加えて、再エネについては、系統・調整力・蓄電、設備・重要鉱物の調達まで含めた安定供給の仕組みが十分ではなく、投資が後回しになりやすい。
日本のエネルギー安全保障に関する不確実性が増しリードタイムも長い環境下で、(エネルギー需要家としての)日本企業が意識するべきは、燃料・電力・設備・重要鉱物の一極依存を避け、供給途絶や価格変動への耐性を高める「戦略的自律性」と、再エネ・系統安定化・省エネ・高効率機器・制御で代替しにくい価値を提供する「戦略的不可欠性」の二つの軸で整理できる。企業の業態や資産状況、立地などによって対応すべき範囲や規模は異なるものの、燃料だけでなく装置・素材まで含めた依存度の棚卸しと調達の分散、再エネ導入や省エネ・電化投資を「環境対応コスト」ではなく「安全保障と競争力の投資」と捉える発想転換、サプライチェーンと事業継続計画(BCP)の再設計、トップダウンでシナリオ分析を回すガバナンス強化が求められる。
日本企業は比較的長期間にわたり安定したエネルギー供給の下で事業を展開してきた故に、足元の環境下においてもなお、エネルギーを単なる「安く安定的に調達すべきコモディティー品」と捉えてしまっていないだろうか。現状に鑑みればエネルギー供給不安が発生する蓋然性は低くない。強靱性を高めるための投資を「コスト」と捉えてしまえば、判断が後手に回りがちになる。エネルギーを「地政学リスクと産業競争力に直結する戦略資源」として捉え直し、調達・投資・BCP・ガバナンスを中期課題として具体化できるかどうかが、多くの企業にとって持続的成長の成否を左右する。
「地経学ブリーフィング」(2026.02.18)から転載 ※本記事の内容や意見は著者の個人的見解であり、公益財団法人国際文化会館及び地経学研究所(IOG)等、著者の所属する組織の公式見解を必ずしも示すものではないことをご留意ください。
著者|佐々木 明彦◎地経学研究所(IOG)プログラムコーディネーションマネージャー。慶應大学理工学部卒、物質化学専攻修士課程卒。昭和シェル石油株式会社入社。取引先経営指導、統合管理システム導入プロジェクト、BPRプロジェクトに参加、ロイヤルダッチシェルにて企業構造改革プロジェクトに参加。全国昭和シェル石油労働組合専従(書記長、執行委員長歴任)。内閣府政策統括官(防災担当)付企業向け「事業継続ガイドライン」策定、企業によるBCP導入促進事業に従事、PRプランナー。2024年6月より現職。


