脱炭素サプライチェーンを巡る中国の戦略
エネルギー安全保障は「どこから燃料を買うか」だけの問題ではない。脱炭素化が進むほど、再エネ設備、蓄電池、インバーター、重要鉱物といった「転換を支える装置と素材」のサプライチェーン維持が課題となる。供給不安は燃料だけでなく、設備調達、保守部品、サイバーセキュリティーを通じて、電力の質と量に波及する。
この点で、特に注目すべきなのが中国のエネルギー安全保障戦略である。
中国は風力発電と太陽光発電の導入を国家主導で積み上げ、設備容量の規模では風力・太陽光の合計が1TW(テラワット)を超える水準に達したと整理される。中国は国内の供給安定を高めるだけでなく、エネルギー転換を支える装置・部材の供給国としての地位を同時に強めてきた。太陽光モジュールや蓄電池などの製造で中国企業が世界市場の大宗を担い、重要鉱物の精錬・加工でも高いシェアを持つという構図は、各種統計が概ね示すところである。すなわち中国は、「国内の戦略的自律性」を引き上げながら、「世界市場での戦略的不可欠性」を獲得することで、エネルギー安全保障と産業競争力を一体のものとして組み立てている。
このような中国の戦略は、隣国である日本のエネルギー安全保障政策にも大きな影響を及ぼす。また日本企業にとっては、脱炭素投資を進めるほど新たな対中依存が生まれ得るというリスクと、競争環境が一段と組み替わるという機会・脅威という両面がある。調達面では、設備・部材・素材などの依存度の見える化が不可欠であり、事業面では日本企業が強みを持つ高効率機器、電力制御、系統安定化、信頼性といった領域を、他国にとって代替しがたい価値へと転化できるかが問われる。
日本のエネルギー基本計画が示す課題
エネルギー安全保障が重要となる中で、多くの諸国にとって安定した電力供給は喫緊の課題であり、それは日本においても例外ではない。
第7次エネルギー基本計画は、DX(デジタル化)やGX(脱炭素・持続可能化)の進展による電力需要増加が見込まれる中、それに見合った脱炭素電源を国際的に遜色ない価格で確保できるかが産業競争力に直結すると明記している。生成AIの普及で拡大が見込まれるデータセンター、戦略物資として位置づけられる半導体はいずれも国際的に遜色ない価格で安定した品質の電力を必要とする。電力広域的運営推進機関(OCCTO)の需要想定も、データセンター・半導体工場の新増設等により、電力需要が増加に転じ得るとしている。猛暑や厳冬による需給ひっ迫が現実に起きている中、AI需要が上振れすれば、ピーク時の供給余力が想定以上に薄くなることを忘れてはならない。
一方で、こうした危機感が実装の速度と規模に直結するかはなお不透明だ。エネルギー政策は投資回収やインフラ整備に長い時間を要するのに対し、政治は選挙サイクルの影響を受けやすい。2月の総選挙では短期的な物価対策が与野党共通の争点の一つとなる中で与党が圧勝した。しばらくの間、政府が腰を据えて取り組める環境が整った今こそ、基本計画に記載されている中長期的課題について、具体的な行動として実行に移すことを期待したい。


