暗号資産

2026.03.17 15:11

ステーブルコインはいかにして危機的経済圏の「並行通貨」となったか

maurice norbert - stock.adobe.com

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アルジェリアでは、米ドルにペッグされたステーブルコインを買うために、公定為替レートより97.4%高いコストを支払う必要がある。ボリビアではプレミアムは70.5%、ベネズエラでは40.6%だ。これらは次のトークンを追い求める暗号資産トレーダーが生み出した投機的な上乗せではない。価値が、使うよりも速いペースで目減りする通貨から逃れるための代償である。Orbitalの「Stablecoin Premium/Discount Index」(2025年第4四半期)によれば、人々がデジタルドルに支払う金額と、そのドルが本来あるべき価格との乖離は、各国通貨が実質的にすでに機能不全に陥っている場所を浮き彫りにしている。

ステーブルコインは静かに、発展途上国全域で並行通貨となりつつある。ステーブルコインの取引量の99.9%以上は米ドル建てである。実店舗の銀行支店が一度も開設されたことがなく、現地通貨が信頼できる価値保存手段を提供できない経済圏にまで、米ドルはその影響力を拡大している。2025年には、小口のステーブルコイン取引(1万ドル未満)が約10倍に増加し、3億1600万件から32億件に達した。その成長の大部分は新興市場からもたらされた。BNB ChainやPolygonなどのチェーンでは1件あたり0.05ドル未満の取引手数料で済み、最寄りの銀行までのバス代よりも安い。

プレミアムが示す世界地図

プレミアムは、GDP統計やインフレ率ではしばしば見えてこない実態を物語っている。アルジェリアの97.4%という購入プレミアムは、通貨の下落と厳格な資本規制が組み合わさり、公式ルートでドルを入手することがほぼ不可能な状況を反映している。ボリビアの70.5%というプレミアムは、経済を崩壊寸前にまで追い込んだ数年にわたる通貨危機の結果である。2025年にボリバル建ての米ドル価格が約480%上昇したベネズエラでは、既存の資本規制に加えて40.6%のプレミアムが上乗せされている。

中東・北アフリカ地域の平均購入プレミアムは16.3%であった。中南米は7.6%で、ボリビアとベネズエラが平均を押し上げている。アジアは平均4.2%だったが、タジキスタン(19.6%)やトルコ(約18%)といった例外的な国々はこれを大きく上回った。欧州は2.3%で、先進的な金融市場の効率性を反映している。コロンビアは中南米で唯一、-0.34%のディスカウントで取引されていた。

ステーブルコイン決済企業Orbitalの共同創業者であるルーク・ウィングフィールド・ディグビー氏は、プレミアムが規制の厳しさと直接相関していると説明する。「ステーブルコインや暗号資産がグレーからブラックゾーンにある市場では、プレミアムがはるかに高くなります。銀行がその活動を禁止している可能性が高いため、ステーブルコインの購入が非常に困難だからです」と同氏はインタビューで語った。「規制の明確化が始まると、そうしたプレミアムは急速に縮小していきます」

メキシコとブラジルがその傾向を示している。両国はデジタル資産に関する規制整備を進めており、現在ではウィングフィールド・ディグビー氏が言うところの「非常に効率的な市場」となっている。ステーブルコイン取引のプレミアムは、従来の外国為替スポットレートからわずか数ベーシスポイントの差に収まっている。

誰が使っているのか

新興市場における典型的なステーブルコイン利用者は投機家ではない。労働者であり、商人であり、仕送りをする家族である。

取引件数ベースで世界のステーブルコイン取引の約40%を処理するBNB Chainでは、ステーブルコイン送金の82%が1000ドル未満だ。実に99%が1万ドル未満である。平均取引コストは約0.05ドル。加盟店へのステーブルコイン決済の3分の2は取引所アカウントから発生しており、新興市場の暗号資産ユーザーの50%以上がBinanceまたはOKX経由で参入している。

BNB Chainの成長担当ディレクターであるニーナ氏は、同チェーンの取引件数が総額に占めるシェアに比べて圧倒的に多い点こそが、実際の利用者層を反映していると述べた。「私たちの利用者は必ずしも機関投資家ばかりではありません。少額決済や個人ユーザーが大半を占めています」と同氏は語る。「一般の人々です」

数字は地域レベルでも積み上がっている。Venturebloxxが2026年2月に発表したレポートによると、中南米のステーブルコインフローは2021年から2024年の間に9倍に成長し、約270億ドルに達した。

送金市場の問題

送金市場は、従来の金融における最も顕著なコスト面の欠陥の1つを露呈している。競争力のあるフィンテック企業の1つであるWiseを通じてコスタリカに40ドルを送金すると、約8ドルの手数料がかかる。最もシンプルな送金に対して20%の手数料である。

Polygonの最高経営責任者(CEO)であるマーク・ボワロン氏は、ステーブルコインこそがその解決策だと主張する。「私たちには、これを根本から変え、国境を越える支払いを国内送金と同じ感覚にする機会があります」と同氏はインタビューで語った。仕組みは単純だ。「世界中のすべての決済で1つのグローバルな台帳を共有するのです」

Polygonは最近、Walmartを含む小売店舗で現金からの入金サービスを運営するCoinMeの買収を進めた。利用者はレジで現金を渡し、バーコードをスキャンすれば、数ドルの手数料でステーブルコインを受け取ることができる。ボワロン氏によると、2026年1月にはPolygon上のアプリケーションで20億ドル以上の決済が処理された。

より長期的なビジョンは、安価な送金にとどまらない。ボワロン氏は、受取人がステーブルコインを現地の法定通貨に換金しなくなる未来を描いている。代わりに、デジタルドルを保有し、加盟店で直接使用するか、分散型金融プロトコルに預けて利回りを得るのだ。換金手数料が消えるのは、換金そのものが不要になるからである。

コンプライアンスの課題

決済コストが下がっても、監視が弱まるわけではない。暗号資産カード企業Rainに勤務し、以前は米財務省で6年間勤務したケビン・カー氏はForbesに対し、ステーブルコイン決済におけるコンプライアンスには「最高水準の原則」と呼ぶものが必要だと語った。あらゆる管轄区域から最も優れた規制要件を取り入れ、それをグローバルに適用するというものだ。

しかし、この原則は実務上の障壁に直面する。たとえばコスタリカには標準化された住所体系が存在しない。同国ではWhatsAppの位置情報ピンが使われている。それを前提に顧客確認(KYC)プロセスを構築するのは不可能に思えるが、カー氏はこの問題は今に始まったことではないと主張する。

「コスタリカの住所が標準化されていないというだけで完全に対応できなくなるようでは、私たちは大失敗していることになります」と同氏はインタビューで語った。米国の規制はすでに、標準的な住所を持たない地方の郵便局にも対応していると同氏は指摘する。同じ精神がグローバルにも適用される。

カー氏はKYCを一度きりのチェックではなく、ライフサイクル全体を通じたプロセスとして捉えている。顧客を特定し、財務プロファイルを構築し、そのプロファイルに照らして長期的に行動を監視することが仕事だ。取引がプロファイルと合致しなくなれば、それが審査のトリガーとなる。

一方で同氏は、フィンテック特有のリスクも指摘した。「フィンテックには、エンドユーザーとの関係をその端から中抜きしようとする傾向があります」とカー氏はForbesに語った。「そして、その中抜きには明確なリスクが存在します」。コンプライアンスチームと実際の顧客との間に介在するレイヤーが増えるほど、問題を発見することが難しくなる。

デジタル・ドル化のジレンマ

ステーブルコインの99.9%がドル建てであることは、その強みであると同時に政治的な脆弱性でもある。ウィングフィールド・ディグビー氏はForbesに対し、ドルの優位性は実務的に理にかなっていると語った。「そうした経路での国際貿易のほとんどは、いずれにせよ米ドル建てで行われています」

しかし、発展途上国の中央銀行は、たとえデジタルであっても、すべての金融活動が米ドルに移行していくのを平然と見ているわけにはいかない。ウィングフィールド・ディグビー氏は、今後展開されるであろう一連の流れを概説した。オンチェーン商取引が需要を生み出し、それが現地通貨建てステーブルコインにつながり、それには現地銀行の支援が必要となり、ひいては現地規制が必要になるというものだ。

「これらの市場は、自国通貨での国内発行者を可能にする規制を整備していくでしょう。そしてそれが米ドル建てステーブルコインへの導管となるのです」と同氏はForbesに語った。

すでに米ドル以外で成功例が1つある。ユーロ建てステーブルコインのEURCは2025年に10倍成長し、月間取引件数が5万件から44万5000件に増加した。Orbitalの第4四半期レポートによると、現在では米ドル以外のステーブルコイン取引の99%を占めている。しかし、ユーロ建てステーブルコインの時価総額は約5億ユーロと依然として小さく、米ドル建てステーブルコインの3110億ドルとは比較にならない。

ステーブルコイン市場におけるユーロとドルの格差は、従来の外国為替市場よりもはるかに大きい。新興市場の通貨が独自のステーブルコイン市場を切り開けるかどうかは、各国の規制当局がどれだけ迅速に動くかにかかっている。

架け橋か、壁か

ウィングフィールド・ディグビー氏は現在の状況を俯瞰してこう語った。「米国市場が開放されるまで、この技術は周縁部で使われていました」

周縁部こそ、人々が最も必要としている場所である。アルジェでデジタルドルに倍の金額を払う労働者は、投機的な賭けをしているのではない。貯蓄を守っているのだ。ラパスで70%のプレミアムを支払う家族も、利回りを追い求めているわけではない。週末を越えて価値を保てないかもしれない通貨に対するヘッジである。

今、中心部が注目し始めている。StripeがBridgeを11億ドルで買収した。Visa、Worldpay、Revolutがステーブルコインの決済基盤を統合している。米国は2025年7月にGENIUS法を可決し、ステーブルコイン発行に関する連邦レベルの枠組みを整備した。この注目が秩序ある規制をもたらすのか、それとも利用をさらに地下に追いやるのか。その結果が、ステーブルコインが正規の金融システムへの架け橋となるのか、それともその傍らを走り続ける並行システムにとどまるのかを決定づけることになる。

forbes.com 原文

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