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2026.03.18 12:15

どこまでが人間か? 脳インプラント、AIとの意思結合━━「人体拡張」が書き換える人類の限界と倫理

写真左から本荘事務所代表 本荘修二氏、エルシオ代表取締役CEOの李 蕣里氏、15th Rock Founder & General Partner の中島 徹氏、そしてデジタルハリウッド大学 学長の杉山知之氏(スクリーン)。杉山氏は遠隔操作した分身ロボット「OriHime」を介して参加

写真左から本荘事務所代表 本荘修二氏、エルシオ代表取締役CEOの李 蕣里氏、15th Rock Founder & General Partner の中島 徹氏、そしてデジタルハリウッド大学 学長の杉山知之氏(スクリーン)。杉山氏は遠隔操作した分身ロボット「OriHime」を介して参加

「今、脳にインプラントをするというと、すごく遠い未来の話のように思われる方が多いかも知れないですが、そんなことはありません。もうすでに上場しているスタートアップがあります」

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そう話すのは、ヒューマンオーグメンテーション(人体拡張)を主戦場とするベンチャーキャピタル、15th Rockの中島 徹氏だ。2026年1月27日〜29日、名古屋市で開催されたグローバル・イノベーションフェスティバル「TechGALA Japan」では、同氏を始め、阪大発スタートアップ、エルシオCEOの李 蕣里(り・じゅんり)氏、デジタルハリウッド大学学長の杉山知之氏が、人体拡張の最前線や人類の未来について語り合った。

ファシリテーターは、経営コンサルタントの本荘修二氏が担当。ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う杉山氏は、遠隔操作ロボットの「OriHime(オリヒメ)」に登壇を託し、視線入力で打ち出したテキストを、AIで生成した自身の声で読み上げる方法でセッションに参加。人体拡張の実践者として「人間の生」のあり方を問いかけた。

てんかん用「脳インプラント」、多くの米病院で治療に使われる

 「想像してみてください。意識はいつものように活動している。目も見え、音も聞こえる。匂いも味も感じる。全身の触覚もあり、暑さ寒さも感じる。ただ、全身の筋肉が動かせない。手足はもちろん、食べ物も飲み込めない。喋れない。呼吸さえできない。それでも生きようと思いますか」

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杉山氏の声がステージに響くと、会場の空気は静まり返った。日本ではALS患者の7割が人工呼吸器の使用を選ばず死を迎えるといわれている。しかし杉山氏は「テクノロジーとともに生きる選択をすると、日本の手厚い福祉制度のおかげもあり、それほど不自由なく暮らせています。まだ人類の一員として存在している幸せを感じています」と語った。

ALS患者へのソリューションをはじめ、「脳」「五感」「身体」「存在」と、人体拡張の主要4分野でスタートアップを支援する中島氏は、約6年前に15th Rockを創業し、これまで国内外の約40社に投資してきた。同社が描く人体拡張領域のカオスマップには、世界で200社を超える企業が存在するという。

人体拡張の主要4分野
人体拡張の主要4分野
15th Rockが描く「人体拡張領域のカオスマップ」2025年版
15th Rockが描く「人体拡張領域のカオスマップ」2025年版

特に中島氏が強い関心を寄せるのは「脳の拡張」だ。「やはり脳が一番分かっていない領域で、興味深い。その分、ビジネスになるのかが一番難しいところだと思います」(中島氏)

脳の拡張技術は、大きく3タイプに分けられる。 脳内に直接器具を埋め込み、脳機能を回復したり補完したりするタイプ(BCI:ブレイン・コンピューター・インターフェイス)と、ヘッドバンドなどで体外から脳に電気刺激を与えたり、脳の状態を測定するタイプ。そして、主にスマートウォッチなどのウェアラブル機器やスマホアプリに搭載され、睡眠・メンタルの改善を行うタイプがある。

中島氏はBCIのスタートアップとして、イーロン・マスクが創業したNeuralinkや、2000年代初頭からヒトの脳への臨床研究用インプラントデバイス(Utah Array)を提供する業界の老舗、Blackrock Neurotech、15th Rockの投資先であるParadromics(いずれも脳に直接インプラントを設置するタイプ)に加え、Synchron(首の血管からカテーテルでインプラントを脳まで運ぶタイプ)の米4社が業界をリードしていると説明。

脳の拡張領域の主要スタートアップ4社(出典:各社ホームページ、Pitchbookなどより15th Rock作成)
脳の拡張領域の主要スタートアップ4社(出典:各社ホームページ、Pitchbookなどより15th Rock作成)

中でもParadromicsのインプラント「Connexus BCI」は、脳の特定部位に設置することで、その人が「どんなことを話したいのか」に関する脳の信号を解読し、データを無線通信で体外に送信する。それをAIで解析し、その人が話したい言葉を画面に表示したり、その人の声に変換して音声で再生できる仕組みだという(2026年第1四半期に臨床試験開始)。

その人が頭で考えるだけでパソコンのマウスやキーボードなどといったデジタル機器を操作できる脳インプラントを開発しているNeuralinkに対し(2024年人体実験開始)、Paradromicsはコミュニケーション能力の回復にフォーカス。杉山氏のように障害で発話能力を失った人々が、思考をそのまま言葉にできるシステム構築を目指している。

Paradromicsが開発するインプラント「Connexus BCI」は、10セント硬貨(直径約1.8cm)より小さく、指先に載るコンパクトサイズ
Paradromicsが開発するインプラント「Connexus BCI」は、10セント硬貨(直径約1.8cm)より小さく、指先に載るコンパクトサイズ
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文=真下智子 編集=大柏真佑実

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