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2026.03.18 12:15

どこまでが人間か? 脳インプラント、AIとの意思結合━━「人体拡張」が書き換える人類の限界と倫理

写真左から本荘事務所代表 本荘修二氏、エルシオ代表取締役CEOの李 蕣里氏、15th Rock Founder & General Partner の中島 徹氏、そしてデジタルハリウッド大学 学長の杉山知之氏(スクリーン)。杉山氏は遠隔操作した分身ロボット「OriHime」を介して参加

 さらに中島氏は、すでに実用化され、アメリカの多くのてんかん専門医療センターで治療に使用されている脳インプラントとして、米NeuroPace社が開発した「RNSシステム」を挙げた(日本未承認)。

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「てんかん患者の脳に機器を埋め込んで、脳の電気活動を監視し、てんかん発作の兆候を検知すると微弱な電気刺激を送り、発作を止める機能があります。2013年にFDAに(医療機器として)承認され、2021年に同社は(NASDAQ)上場。時価総額は現在、およそ800億円になっています」(中島氏)

NeuroPace社のRNSシステム。同社YouTubeより     
NeuroPace社のRNSシステム。同社YouTubeより

 目の限界に挑戦、阪大発「ピントが自動で切り替わる」メガネ

 李氏が創業したエルシオでは、ピントを自動で調整するメガネ「オートフォーカスグラス」の開発に取り組んでいる。同製品は大阪大学が開発した、透明な基板の中に多数の液晶分子を封入し、電圧変化を加えるとピントが切り変わる「液晶レンズ」を採用。目の動きをリアルタイムで検出・解析するアイセンサーと組み合わせることで、見る対象物に合わせてレンズの度数を自動的に調整する。

エルシオの「オートフォーカスグラス」(スライド)
エルシオの「オートフォーカスグラス」(スライド)

創業のきっかけは、李氏が大阪大学の博士課程に在籍しながら液晶レンズの事業化を検討していた時に、小児弱視と知的障害を併発し、視力検査を受けるのも難しい状態にあった女の子と出会ったこと。不安を抱えていたその子の母親にオートフォーカスグラスの構想を話したところ、商品化を熱望されたことで覚悟を決めたという。

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「現在はプロトタイプの段階ですが、近く・遠く・中距離に対応した度数の切り替えや、オートフォーカスする機能を実現しています」(李氏)

今年中に老眼、2027年には近視・乱視の視力矯正を可能にするほか、2030年までにはそれらの予防、小児弱視や斜視の治療に貢献するという計画を、李氏は示した。さらに同社のロードマップには、その先のビジョンが描かれている。

エルシオの製品開発タイムライン
エルシオの製品開発タイムライン

アイセンサーを用いて日常的にユーザーの目の状態を記録し続け、データを蓄積。それを解析することで、緑内障などの目の病気の兆候があればいち早く捉え、ユーザーを受診へと導く予防医療のシステムを構想している。

「将来的には、我々のメガネでちゃんと目の病気を治せるようにしたいと考えています。目の病気を持つ多くの方々に、救いにしていただけるようなメガネにしていきたい」(李氏)

人類はすでに「引き返せない」地点にいる 

人体拡張の技術がこのまま進化を続けると、人類にとって生きることはどのように変わっていくのか━━。死生観へと話が移ると、杉山氏は自身の現状を重ね合わせ、生きることを諦めなくてはならないレベルが大きく変化し、一般的な医療技術を使えば、重度の障害があっても仕事をして暮らしていける現実があることを挙げた。

そして、杉山氏のように失われた機能を取り戻すという使い方だけでなく、人体拡張の可能性は無限であること。昨今では、人体を改造して宇宙環境に適応させようとする流れや、意識をサイバースペースにアップロードして不老不死を実現しようとする研究者たちがいることに触れ、「どこまでを生命体と呼ぶのか、その境界が広がり続けている」と問題提起をした。

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文=真下智子 編集=大柏真佑実

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