超巨大レーザー
磁場を利用して水素燃料を閉じ込めて融合させる目的で、様々な方法が試みられている。今も前途有望な方向に進んでいることに変わりはないが、まだ実際に期待の成果を上げるには至っていない。この代替案として、強力な光ビームで水素原子核に圧力をかける方法がある。すばらしいアイデアだが、レーザーを使わないと正しく機能しない。1960年代に発明されたレーザーは、光源から放射される光の波がすべて揃っているため、非常に高い輝度とエネルギーを持つことができる。
だが、核融合を起こすには本当に大型のレーザーが必要になる。どのくらい大型かというと、私が研究グループに所属するレーザー研(LLE)のレーザー装置が収容されている建物はサッカー場ほどの大きさがある。レーザーを照射するたびに、約30兆ワット(W)のエネルギーがターゲット(標的)に伝えられる。出力を比較すると、猫じゃらしに使うレーザーポインターの約10億倍のさらに10億倍に相当する。LLEのターゲットチャンバー(格納容器)内では、この光エネルギーのすべてを燃料の水素が封入された微小なカプセルに照射して、原子の急激な圧縮(爆縮)を引き起こし、核融合に近い状態を作り出す。
ここで核融合に近い状態という表現を用いているのは、核融合発電所の実現には、いわゆる「ブレークイーブン」状態が不可欠だからだ。すなわち、ターゲットに投入する量以上のエネルギーを、核融合反応から取り出さなければならない。そういう理由から、米国はLLEを超越した、国立点火施設(NIF)と呼ばれるさらに巨大なスーパーレーザーを建造した。NIFは米カリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所内にある。出力はLLEのレーザーの30倍で、サッカー場3面分の大きさがある。2022年には科学者チームがNIFを用いて、極めて重要な節目であるブレークイーブン超えを成し遂げた。数十年に及ぶ核融合の研究と明るい見通しの結果、人類はついに地球上で輝く恒星を現実化できることを証明したのだ。
核融合の前途
ブレークイーブンから、商用の核融合発電所の稼働までの道のりはいまだ遠い。NIFでは、レーザーを1日1回程度しか照射できない。実用的な核融合炉では、レーザーを1秒間に何度も繰り返し照射する必要がある。すなわち、目標に到達するには今よりはるかに多くの科学的な知識と技術が必要になるわけだ。幸いにも、LLEのレーザーは1日に約15回照射できるため、ブレークイーブンを達成するには小型すぎるとしても、核融合発電所を実現するための新たなアイデアを検証する作業の大きな部分を占めることに変わりはない。さらにLLEでは、太陽系外惑星のスーパーアース(地球より大きく内部圧力も高い岩石惑星)の中心核の状態を調べるなどの興味深い科学プロジェクトも行っている。
この記事で述べてきたことからわかるのは、人類の想像力が驚くほど豊かであることだ。
太陽のエネルギーを利用するというのは、極めて壮大な目標だ。そこに到達するには、科学者が光の性質やレーザーの可能性などの宇宙の本質に関する基本的な研究成果の数々を取り入れ、その規模をどんどんと拡大していく必要がある。
世界初のレーザーの発明から、サッカー場ほどの大きさのレーザー装置を建造して恒星の中心部でしか見られない条件を再現するに至るまでに要した時間は、ほんの数十年にすぎない。
LLEに行くたびに私は、このような想像力と壮大な目標について思いを巡らせている。いつの日か、おそらく数十年以内には、誰もが自分の暮らす町に電力を供給している地元の核融合炉の近くを車で通る際に、同じことを考えるかもしれない。


