ロドリゴ・エスポンダ・カスカハレスはロスカボス観光局(FITURCA)のCEOである。
長年にわたり、旅行・観光は比較的予測可能なグローバル環境の中で機能してきた。国際関係は安定し、旅の意思決定は主として安全性、価格、そして目的地の魅力といった要素を軸に行われていた。
しかし、その環境は根本から変化した。ここ数年だけでも世界の情勢は劇的に変わり、旅行はいまや地政学と経済的不確実性に深く左右されている。かつては揺らぐことなど想像しがたかった米国とカナダの関係でさえ、業界に直接影響するかたちで緊張が高まっている。今日、旅行の意思決定は、より広範な地政学的な空気感と経済への信頼感をますます反映するようになっている。
商取引と政治が行き先を左右する時代
最近の米国の政策転換に注目が集まっているが、これは米国だけの話ではない。中国、カナダ、英国の関係が変化する中で、新たな緊張が生まれている。南米ではメルコスールが長年待ち望まれてきた欧州連合(EU)との貿易協定を最終合意し、すでに域内の商取引と移動に新たな扉を開きつつある。
同時に、為替変動が人の流れのパターンを塗り替えている。米ドルは複数の主要通貨に対して下落し、国際旅行の採算を変え、割安感に対する認識にも影響を与えている。
旅行者がある目的地の政治・経済環境に不確実性を感じれば、多くはその候補を単純に外してしまう。これはレジャー旅行に限らず、結婚式や企業ミーティング、コンベンションでも同様である。プランナーは今や、経済の安定性、貿易関係、地政学的な整合性といった要素を含む、はるかに広い視野で目的地を評価している。その結果、世界の旅行フローは組み替えが進み、この傾向は今後何年も続く見通しだ。
この動きはデータにもすでに表れている。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の最近の調査では、入国手続きの厳格化、コスト上昇、政治的配慮を背景に、2026年に米国を訪れる計画を潜在的な海外旅行者の約3分の1が見直していることが示された。2026年7月の欧州発米国行き航空券予約は、ワールドカップという大規模な国際イベントが予定されているにもかかわらず、前年同月比で14%以上減少している。
一方で、他の目的地では大きな変化が見られる。2025年、メキシコは国際旅行者9820万人を記録し、前年比13.6%増という歴史的な伸びとなった。世界の地政学的な再調整が進む中でも、訪問需要が持続していることを示している。2025年上半期(最初の6カ月)にはカナダからメキシコへの訪問も13%増加しており、外交・経済の力学が旅行需要の行き先を変え得ることを浮き彫りにした。
目的地はいかに適応できるか
この新たな環境の下では、目的地は古い定石に頼れない。適応には、より戦略的で長期的なアプローチが求められる。第一の優先事項はブランドの評判である。目的地は自らがどう認識されているかに継続的に投資する必要があり、その認識はもはやビーチや有名なランドマークにとどまらない。サステナビリティ、労働の公正さ、地域コミュニティがどう扱われているかが、ブランドの魅力度を形づくる中心的要素となる。旅行者やプランナーが重視するのは、目的地がどう見えるかだけではなく、どう振る舞うかである。
第二の重要戦略は、航空会社との長期的パートナーシップを通じて航空ネットワーク(コネクティビティ)を強化することだ。政治リーダーと航空会社幹部の単発の会談で、新路線がほぼ一夜にして生まれるという誤解が根強い。実際には、路線開発は高度に技術的で、需要予測、貿易の流れ、地政学的条件に左右される。航空会社の路線計画チームとの分析と関係構築には、何年も要する。
ロスカボスでは、これを身をもって経験してきた。冬季に週1便運航されるフランクフルト〜ロスカボスの直行便は、当目的地における欧州市場を一変させた。また、パナマ経由でロスカボスと南米を結ぶ新路線は、すでに新市場へのアクセスを開き、観光オペレーションの多角化を進めている。いずれの路線も、データに基づく計画と継続的な協働に何年も要した。これは、目的地に求められる戦略的な忍耐の好例である。
新路線は座席数を増やす以上の意味を持つ。長期的な市場の信認を示し、需要の偏りを分散させるシグナルでもある。私たちが目的地として進化し、異なるタイプの旅行者や嗜好に応えることを可能にする。航空ネットワークの強化は単なる量の問題ではなく、目的地のビジョンと成長戦略に沿った、持続的なパートナーシップを築くことにほかならない。
第三の柱は、内側の足並みをそろえることだ。目的地は、公的政策、ステークホルダー、地域のリーダーシップが、旅行・観光の重要性を理解している状態を確保しなければならない。内部コミュニケーションは華やかではないが、不可欠である。足並みの乱れがあれば、目的地の評判を守ることも、旅行者に一貫したメッセージを届けることもできない。
テクノロジーと新しい意思決定の旅路
テクノロジーは、旅行者の意思決定のあり方を根本から変えた。かつては検索エンジンと基礎的な調査がプロセスの中心だった(旅行ガイドブックを覚えているだろうか)。デジタルトランスフォーメーションとAI駆動ツールの加速は、意思決定までの時間を短縮し、質の高い情報への需要を高め、目的地の評判に対する監視の目を厳しくしている。
加えて、情報環境はますます断片化している。SNS、ニュースサイクル、AIが同時に認識に影響を及ぼすためだ。だからこそ、明確さの重要性はいままで以上に高い。目的地は、内外に向けて明快に発信し、雑音を乗り越えて、旅行者が真に重要な要因へ集中できるようにしなければならない。
地政学的サイクルは今後も変化し続ける。通商政策は動き、外交関係は再調整され、それに伴って旅行フローも変わる。この環境で成功する目的地とは、戦略的な明晰さをもって運営できるところである。地政学は国境や政策に影響を与えるかもしれないが、旅行は経済と文化、そして人々をつなぎ続ける。今日の目的地リーダーシップには、この2つの力を理解し、短期的な反応ではなく長期的なビジョンでそれらを乗りこなすことが求められる。



