気候・環境

2026.03.16 19:17

カリブ海の小国ドミニカが世界初の気候レジリエント国家を目指す理由

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カリブ海の小さな島国ドミニカは、ここ数年で複数の極端な気候事象に見舞われてきた。2015年の熱帯暴風雨「エリカ」と2017年のハリケーン「マリア」はいずれも住宅、インフラ、農業に広範な被害をもたらし、復旧と再建には長い年月を要した。

世界銀行グループの防災グローバルファシリティ(GFDRR)によれば、ハリケーン「マリア」だけでドミニカ全土の被害額は約9億3090万ドルにのぼった。

被害には、電力の100%喪失、建物の90%が損壊または倒壊したことなど、インフラへの深刻な影響も含まれる。農業部門も甚大な打撃を受け、その結果、2万4000人を超える人々が深刻な食料不安と脆弱な状況に直面した。

加えて、土砂崩れの増加、干ばつ、洪水、気温上昇といった継続的な気候課題も島を痛めつけている。

こうした状況を受け、ドミニカは2030年までに戦略を実施することを目標に、世界初の「気候レジリエント国家」になると公に誓った。

この目標に向けた初期の取り組みの1つが、ハリケーン「マリア」後の復旧と適応の戦略を策定・実施する「気候レジリエンス実行庁(Climate Resilience Execution Agency)」の設立である。

マルチハザードのリスク評価や地形・インフラ調査といった手法も、将来の自然災害リスクを可視化し、計画策定に反映することで、レジリエンスをさらに高めてきた。

世界銀行の2500万ドル規模のプロジェクトである緊急農業生計プロジェクトも、農業生計の回復を目指している。

これらの取り組みにより、気候レジリエンスに対する姿勢はより能動的なものとなり、とりわけカリブ海の島嶼国など、他国にとっての重要な教訓が示されつつある。

レジリエンスはあらゆるものに組み込まれなければならない

2017年のハリケーン「マリア」による甚大な被害を受け、ドミニカは気候レジリエンスに対してマルチセクターのアプローチを採用し、政策、インフラ、そして経済全体にわたる大規模な改革を実施してきた。

「国家レジリエンス開発戦略2030」と「気候レジリエンス・復興計画」は、経済の多角化、災害リスク削減、レジリエントなインフラを、マリア後の国家再建の主要目標として位置づけ、この戦略を示している。

それは実務上、何を意味するのか。

ドミニカはいま、「住宅復旧プロジェクト」を通じて、レジリエントな新築住宅5000戸超の建設を進めている。鉄筋コンクリートを用い、屋根の補強(レトロフィット)に重点を置くことで、カテゴリー5のハリケーンに耐える設計とする。

学校やコミュニティセンターも、太陽光発電と貯水設備を備えた、ハリケーンに強い緊急避難所となるよう改修が進められている。

同様に、橋梁や東海岸道路のような主要道路などの重要インフラも更新されており、流木や瓦礫の越流により適切に対応できるよう、より高い橋の建設が進む。排水機能も強化され、路体流出の防止が図られている。

ハリケーン「マリア」の際に発生した全面停電は、今後数年にわたり、より持続可能なエネルギーを優先する必要性をドミニカに突きつけた。

「持続可能・レジリエント・エネルギー計画」は、太陽光、水力、地熱に加え、既存の天然温泉も活用しつつ、2029年までに再生可能エネルギー比率90%を目標としている。

都市部では地下送電線も整備されており、送電網の完全停止リスクを大幅に軽減すると見込まれている。

「島内の降雨、洪水、地震活動をリアルタイムに追跡できる、実用的な水文観測網と地震観測網を初めて整備した」と、環境科学者でWild Beacon Consultingのサステナビリティコンサルタントであるジェニファー・ブランドン博士はForbesのインタビューで語った。

水の安全保障に対応するため、西海岸では100万リットル超の新たな貯水能力を追加し、インフラも自然災害への耐性が高まるよう強化された。

食料安全保障を高める取り組みとしては、「気候レジリエンス・プロジェクト」および世界銀行が支援する緊急農業生計スキームが、効率的な灌漑や耐性のある作物品種といった気候スマート農法の導入を農家に促している。

より強靭な作物にはカカオ、根菜類、コーヒーなどが含まれ、気候の変動が激しい事象の影響を受けやすいバナナ・プランテーションへの依存を減らす狙いがある。

現在、ドミニカは公共部門のレジリエンス投資のおよそ15%を、投資による市民権プログラムで賄っている。加えて、将来の災害発生時に迅速な資金供給を可能にする災害準備基金を構築するとともに、カリブ海大災害リスク保険ファシリティのような保険スキームにも参加している。

「これらの小さな島嶼開発途上国は気候変動にほとんど寄与していないが、最大の排出国である先進国に比べ、しばしば最も早く、そして最も深刻に影響を受けている」とブランドンは指摘した。

だからこそ、こうした小島嶼開発途上国(SIDS)がCOPのような重要サミットで発言権を持つことが決定的に重要だと、彼女は強調した。

「それは文字通り、国の将来にとって生死に関わる問題である。また、国際通貨基金(IMF)のような存在が彼らにとって生命線としていかに重要か、という理由でもある」と彼女は説明した。

政策改革は重要だが、持続するレジリエンスには自然生態系と地域住民も組み込まれなければならない。

自然生態系と地域社会は重要インフラとして機能する

気候事象への曝露が頻繁な島嶼国として、ドミニカは森林、生物多様性、サンゴ礁といった自然資本が中核インフラとして機能し、自然を基盤とする解決策を発展させ得ることを認識してきた。

健全な森林は洪水や土砂崩れのリスクを大幅に低減し、サンゴ礁は高潮からの防護を提供する。豊かな生物多様性は食料システムの均衡にも寄与し、エコツーリズムの推進力にもなる。ゆえに、これは不可欠である。

島の3分の2がすでに自然植生に覆われていることから、ドミニカは沿岸生態系と森林を、波浪や強風に対する緩衝帯として保全する取り組みを進めている。

同様に、農家が作物の多様化、水管理、土壌保全を通じて耕作地を最大限に活用する気候スマート戦略を採用することは、食料安全保障を確保し、農村の所得を守ることにつながる。

在来植物の栽培拡大は、斜面を安定化させることで土砂崩れの予防にも役立っている。

ドミニカはまた、人口の3分の1をカバーする32のコミュニティレベルの災害管理計画を策定した。これには、自然災害時の地域の対応力、協力、心理的レジリエンスを高めるために開発されたコミュニティ自助のボランティア運動「クドメン・ドムニク」プログラムも含まれる。

カリナゴ・コミュニティのような先住民コミュニティをこうした取り組みに参加させることは、気候レジリエンスを地域の知識と教育に深く根差したものにする。特定の植え付け方法などの伝統的な環境知と、現代のサステナビリティ技術を融合させることで、レジリエンスは社会的結束を伴う運動へと変わっていく。

アールト大学ビジネススクールのサステナビリティ・マネジメント教授ミンナ・ハルメは、「ドミニカ政府は、気候カタストロフィがもたらした被害を回復するために『自然とともに』取り組む道を示している。こうした自然を基盤とする解決策は、長期的に極めて重要だ」と指摘した。

「それは気候カタストロフィへの対処に役立つだけでなく、森林の生物多様性を強化する。それは、害虫やその他、増加しつつある被害に対する森林のレジリエンスの基盤でもある」と彼女は付け加えた。

さらにハルメは、資源の搾取ではなく自然と協働するというこのアプローチが、最終的には経済活動の強化にもつながり得ると強調した。

真のレジリエンスを実現できるかどうかを最終的に決めるのはリーダーシップである

ドミニカの気候レジリエンスの歩みにおける主要因の1つは、強力で能動的なリーダーシップである。大胆な誓約を、明確で実行可能な手順と説明責任で裏打ちしてきた。

自然災害の局面で、言いよどんだり、矮小化したり、婉曲表現でごまかしたりするのではなく、ルーズベルト・スケリット首相は気候変動を存立に関わる脅威だと公然と宣言した。この枠づけは、問題を漠然とした将来リスクから、「いま備え、管理すべきもの」へと明確に転換させた。

その結果、急進的な政策転換、復興基準、債務、移転といったトレードオフ、そして国際的なアドボカシーは、国家の存続に関わる課題に対処するために必要だとして正当化された。

対照的に、パキスタン、フィリピン、ハイチのようにハリケーンや洪水の脅威が類似する国々は、大規模災害後の緊急対応と救援を超えて、長期的な都市計画、気候適応、災害リスク削減へ移行することに苦戦してきた。

いくつかの事例では、気候災害が、協調的な計画と適応によって低減できる具体的リスクではなく、不可避の「自然の仕業」あるいは「神の御業」として語られてきた。長期的には、こうした枠づけが長期的なリスク低減策の緊急性を弱める可能性がある。

ドミニカはまた、単に「より早く」復旧するのではなく、「異なるやり方で、より長持ちする形で」再建するため、深い構造変革を優先した。その姿勢は、より強固な住宅基準、インフラの更新、生態系保護という形で、統治全体が明確に改革された点に表れている。

気候戦略に対する政治的コミットメントは、大規模な国際資金、パートナーシップ、可視性の獲得にもつながったが、これは他の脆弱な島嶼国では依然として難題であることが多い。

「ただ、ドミニカは運が良かった。危機の瞬間に、カリスマ性と、災害時に指揮を執る技能の両方を備えたリーダーがいた」とハルメは述べた。

さらに彼女はこう続けた。「これはすべての危機で自明ではない。運が悪い場合、現実から目を背け、近親者や一族の利益を確保しようとするだけの指導者が現れる。政治的意思こそが、きわめて重要であり、多くの国と国際協力において欠けているものである」

この勢いは続くのか

ドミニカは、世界初の気候レジリエント国家になるという目標に向けて、重要な前進を遂げてきた。先住民の知、持続可能な技術、政策改革を組み合わせることで、その戦略は同様の気候脅威に直面する他国に有用な教訓を提供し得る。

TeamPlantingの気候・環境コミュニケーション専門家であるアビゲイル・ウェルマンはForbesに対し、「レジリエンスは能動的でなければならない。災害を待っていては機能しない。ドミニカでうまくいったことは、モルディブやトンガでは異なる形に見えるかもしれないが、核となる考え方は揺るがない。気候レジリエンスは統合され、コミュニティ主導で、強い政治的意思に支えられていなければならない」と語った。

「その設計図は適応可能だ。とりわけ、地域のリーダーシップを支える公正で柔軟な気候ファイナンスが伴うなら、なおさらである」と彼女は付け加えた。

それでも、重大な障害は残る。継続的な資金調達は大きな懸念であり、再生可能エネルギー・プロジェクト、インフラ更新、環境保全計画をさらに実行する必要がある。これらのプログラムに十分な熟練労働力を確保することも、もう1つの課題だ。

「再建には費用がかかり、ドミニカはパスポート販売でそれを賄っている。これは疑わしく、リスクも高い。EUや英国のような主要地域でパスポートの扱いが変われば、ドミニカのパスポート販売収入は短期間で落ち込むだろう」とハルメは警鐘を鳴らした。

それでもドミニカは、気候変動を重要な国家優先事項として扱い、長期的な政治ビジョンが具体的な計画と実行に整合するとき、小さな島嶼国がどれほどの進展を遂げ得るかを示している。

forbes.com 原文

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