広告コミュニケーションやマーケティング・コミュニケーションの送り手側になると、ついついいろいろと説明したくなる。周囲からも「なるべく分かりやすくね」といったプレッシャーを与えられる。となると、どうしても、説明過多の状況になりがちだ。
しかし、これだけ情報量が多い世の中では、送り手側の意図とは逆に、受け手側は説明過多のものはスルーしがちになる。送り手は効果的なコミュニケーション発信をしたつもりでも、効果に繋がりにくくなってしまうのだ。欧米に比べて日本では、その傾向が特に強いように感じる。
そんな日本的な感覚からすると、“そこまで省いてもいいわけ?”と驚きを禁じ得ない広告コミュニケーションが、2025年カンヌライオンズのアウトドア部門グランプリ他を受賞したキットカットの「フォーンブレイク」だ。
Kit Kat VLM - Phone Break
まず動画を見ていただきたい。街を行き交う人々が皆、じっと手元を見ている。歩きながらでもスマートフォンを見っ放しの人が多い……という日本でもよく見かける光景かな?と一瞬思うのだが、よく見ると手元にあるのは、キットカットだ。
そしてこの街頭広告にはキャッチフレーズなどのコピーが一切ない。通常右下などに置かれる、いわゆる商品カットもロゴも存在しない。ドラマなどで耳にする“皆まで言うな”の究極の形だ。すべては“暗示”に留まっている。英語だとimplyとかimplicationと言い、広告会社の打合せなどでもよく使われるキーワードだが、ここまで暗示具合が高い表現は、あまり見たことがない。
こうした暗示的な表現の利点は、それを見て、“なんだ、これ?”とまずは目に留まりやすいこと、そして、送り手の意図に自分で気づいた受け手は自分でコミットした分、記憶や気持ちに強く残りやすいことだろう。
キットカットと言えば「小休止」
もちろん、この表現は、キットカットだから出来るものでもある。
65年の長きに渡り使われ続けて来て、日本でも浸透している「Have a break, have a KitKat,(休憩しよう、キットカットを食べよう)」というキャッチフレーズがあったからこそ、だろう。「キットカットと言えば小休止」と認識している人が多いからこそ、この超・暗示的な表現でも、「スマホ利用をしばし休もう、そしてキットカットを食べよう」という送り手の意図が伝わるのだ。
それでも、ここまで商品情報を入れないことには、躊躇するのが普通だ。しかし、例えば「キットカットを食べて、スマホを休もう」という趣旨のコピーが入っていたり、商品カットやロゴがしっかり入っていたら、そこには押し付けがましさが感じられ、スルーしたりよく見ない人が多くなるのではないだろうか。商品の形がスマホみたいだ、と気づいてこの表現を考案し、掲載まで持って行ったクリエイティブ・スタッフとクライアントには、大きな敬意を払いたい。
主にZ世代に向けた施策として、チェコのプラハで実施されたというこのアウトドア施策は、AdweekやCampaign Briefといったメジャーなメディアでも取り上げられ、オンライン上では263万人もの人に届いた、という。
皆さんが携わっている商品やサービスの認知度がどれくらいのものなのかにもよるし、日本でここまで超・暗示的なコミュニケーションを採用するのは難しそうではある。それでも、コミュニケーション施策を扱う時に、説明を尽くし過ぎず、「待てよ、皆まで言うな、って言うしな」と考えてみるのも、案外、良さそうだ。



