中国では毎月6兆円の取引
ソーシャルコマースは、中国ではすでに市民権を得ており、同国での事業を行う企業にとっては無視できない。日本の事業者は国内でソーシャルコマースを展開し、販売ノウハウを蓄積することで、いずれ中国市場や海外市場でのビジネスを展開するタイミングに向けて、地力をつけることができる。
実際にソーシャルコマースを展開できるプラットフォームとしては、TikTok Shopがある。2020年に抖音電商(中国版TikTok Shop)として中国でリリースされたもので、中国では毎月6兆円ほどの取引が行われている。日本では、これまで小売の利便性や密集度を理由として、ソーシャルコマースはおろか、EC普及率もなかなか高まらない実情があった。しかし、 TikTokを中心にショート動画が普及し、2025年6月には、EC機能を兼ね備えたTikTok Shopが日本でも開始し、ソーシャルコマース市場の口火が切られた。
開始から8カ月ほどだが、美容・ヘルスケア、日用品・生活雑貨、食品といったカテゴリーでは、ライブ配信での実演で即時購入に繋がりやすいということがわかってきている。まだ流通総額は大きいとは言えないが、毎月その規模は拡大している。
オフライン展開、訪日客人気の起爆剤にも
TikTok Shopの本質は、単なるライブコマースにとどまらず、その背後にある技術的な強みにある。TikTokを運営するBytedanceは、世界有数のAIカンパニーだ。TikTokは人の深層心理や趣味嗜好を深く学習し、世界最高峰のAI技術によって、コンテンツの最適化を図って消費者に浸透していく。このアルゴリズムがライブコマースにも転用されると、結果としてライブやショート動画経由でモノを買うという体験が広がる。こうして、ソーシャルコマースのキャズムを超えるという構造だ。
日本においても、TikTok Shopの普及によって、ソーシャルコマース市場が広がる可能性は高いだろう。実際、近年、中国企業はTikTok Shopの中国国内での運営実績を起点にASEAN等の新市場へ展開するケースが増えている。
同様に、日本でソーシャルコマースによって商品が売れるという実績とノウハウを蓄積できれば、そこで得たデータや知見を活用して越境EC等での展開国を広げることも可能だ。
さらには、日本のソーシャルコマースで有名ブランドになれば、オフラインリテールからの注目も集まる。 ASEAN市場のドラッグストアなどで人気のSKINTIFICという中国発のスキンケアブランドは、TikTok Shopで売れることによって、ワトソンズやガーディアンという東南アジアの有名ドラッグストアが無視できない存在になった。
つまり、ソーシャルコマースで売れることで、商品は自然とリテール展開も増える。リテール展開が広がると、訪日旅行者から認知・購入され、帰国後・現地で継続購入されるニーズも増える。訪日ユーザーからの人気が高まれば、ソーシャルコマースを通じて越境ECを展開して、そのリピート購入や現地浸透を狙うことも可能だ。
この循環を生み出す「オールバウンド戦略」こそ、日本企業にとっての新たなグローバル展開戦略として重要性が増している。地政学リスクは、避けたい外部要因ではあるが、戦略をアップデートするためのシグナルでもある。
揺れる時代だからこそ、成長領域と市場を再定義し、新たなビジネスモデルを組み上げていく創意工夫が求められているのではないだろうか。


