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2026.03.21 17:00

「うまくいくはずがない」──それでもMMIは、超小型ロボットでアルツハイマー手術に挑む

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トーランドCEOは、ロボットで体内の「詰まり」を解消する医療技術に長年携わってきた

トーランドは、長年ロボットを使って体内の「詰まり」を解消する医療技術に携わってきた人物だ。2021年にMMIへ加わる以前は、冠動脈の閉塞を治療するロボットを開発したコリンデュス・バスキュラー・ロボティクスのCEOを務めていた。同社は2019年、11億ドル(約1749億円)でシーメンス・ヘルスイニアーズに売却された。その前には、医療機器大手のボストン・サイエンティフィックで幹部も務めた。

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高精度の手術ロボットと使い捨て器具の販売で、継続的な収益を得る仕組み

2015年、イタリア出身の3人のロボット工学者によって設立されたMMI(正式名称Medical Microinstruments)は現在、極小のマイクロニードルやハサミを扱える高精度の手術ロボットを販売している。このロボットは、神経の修復手術や、がん手術後の乳房再建、リンパ浮腫(体液の蓄積)を取り除く手術などで使われている。「Symani」と呼ばれるこの装置を使うと、直径0.5ミリ未満のリンパ管を対象とした手術が可能になる。医師は大きく拡大された映像をモニターで確認しながら操作する。

MMIは、このロボットを1台150万ドル(約2億3900万円)で販売するだけでなく、手術で使用する極小の針やハサミの販売でも収益を得ている。これら器具は1回しか使えない使い捨てで、カミソリメーカーが替え刃で継続的な収益を得る仕組みに近い。トーランドは、MMIの売上高が2026年5000万ドル(約80億円)に達し、2025年の2000万ドル(約32億円)から2倍以上に拡大すると見込んでいる。評価額が約5億ドル(約795億円)の同社は、これまでフィデリティのほか、医療・ライフサイエンス分野の投資会社であるディアフィールドやRAキャピタルなどから総額2億2000万ドル(約350億円)を調達した。

2030年までに世界で7800万人、アルツハイマー病という巨大な市場を背景に大胆な挑戦

しかし、アルツハイマー病を手術で治療する今回の取り組みは、MMIにとってこれまでで最大かつ最も大胆な挑戦だ。その背景には巨大な市場がある。世界では5500万人以上がアルツハイマー病やその他の認知症を患っており、患者の数は2030年までに7800万人に増えると見込まれている。「中国や韓国のデータだけでは、この手術を採用する医師はいない。しかし米国で研究の基盤を築くことができれば、状況は一変する。世界全体を変える可能性がある」とトーランドは語る。

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2015年、医療ロボット企業インテュイティブ・サージカルの元エンジニア、ジュゼッペ・マリア・プリスコは、友人のマッシミリアーノ・シミ(43)にある課題を持ちかけた。その課題は、「これまでにないほど小さな手術器具を設計できるか」というものだ。イタリア・ピサのサンタ・アンナ高等師範学校で革新的技術と医療ロボティクスの博士号を取得したシミは振り返る。

医療ロボット企業の元エンジニアからの課題で、最初の試作機を完成

シミは、創業者の中で唯一現在も同社に残る人物として、MMIのグローバル研究開発担当バイスプレジデントを務めている。シミは、その依頼を受けて最初の試作機を完成させた。ピサを拠点とする少人数の開発チームはその後2年間、外科医の意見を取り入れながら改良を重ねた。「見た目はかなりひどかったが、機能はしていた」とシミは語る。当初このロボットは、外傷やがんの手術後に体の別の部位から組織を移植する再建手術で使うことを想定して開発された。

2021年1月にトーランドがCEOとして加わった時点では、MMIのロボットを使った手術はフィレンツェでの4件にとどまり、そのうち3件は脚の再建手術だった。トーランドに課された役割は、この超小型ロボットを商業化し、そのための資金を調達することだった。

ロボットの性能に驚いたエルバルディッシが、約119億円の資金調達を主導

2022年、MMIへの投資を検討していたエルバルディッシは、ロボットの実力を確かめるためイタリアを訪れた。「実物を見れば、このロボットが本当に価値を生むものなのか、それともまだ実用段階に達していないのか判断できると思った」と彼は語る。実際にロボットの操作席に座り、極めて細い血管を縫合してみたところ、その性能に驚かされたという。「私は心臓外科医だが、このロボットで扱っているのは文字通り髪の毛ほどの太さの血管だ。その側面に縫合糸を通し、結び合わせることができた」。

同年、エルバルディッシはMMIの7500万ドル(約119億円)の資金調達ラウンドを主導した。なお、彼がこれまで投資したロボット企業はMMIが初めてであり、現在も唯一の例となっている。

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翻訳=上田裕資

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