「ブラインドスポット」と「真のイノベーション」
—— 「多様性の欠如」はテクノロジーとイノベーションの分野においてどのようなリスクをもたらすのでしょうか?
マグダレーナ: 開発者が「自分が直面していない問題」に対して盲目になることで、イノベーションの機会を見過ごしてしまうことです。
例えば、自動車のシートベルトは、長い間、男性の骨格に基づいた人形でテストされてきたため、事故の際に女性を守る力が弱いとされてきました。あるいは、歩数や日々の動きを記録する活動量計がベビーカーを押す動作をカウントできなかった例もあります。これらは些細な事例ですが、「その状況に置かれていない人は、問題そのものを特定できない」という本質を突いています。そもそも問題に気づかなければ、解決策となるイノベーションも生まれないのです。
北野: こうした「ブラインドスポット(盲点)」に気づくことが重要です。私たちがこのアワードのロゴの色にこだわったのも同じ理由です。世の中に女性向けのアワードは数多くありますが、ほとんどは無意識のステレオタイプから「ピンク」を選びます。しかし、私たちのチームが提案してきたのは、力強い「ブルー」を含むマルチカラーなものでした。非常に誇りに思っています。「未来を創る者」に性別は関係ありません。強く、鋭く、探求的であるべきだというメッセージを込めたのです。
この盲点を克服したときにこそ、真のイノベーションが生まれます。2世紀前に発明された「キーボード」の原型も、実はイタリア人のエンジニアが知人の目の不自由な女性のために作られたものが源流のひとつでした。マイノリティの切実なニーズに向き合った結果、生まれた仕組みが、今や人類の標準デバイスになっています。
企業に関して言えば、マイノリティのニーズに盲目であることは、巨大な市場機会を失っているのと同義なのです。多様性は単なる「数字」ではありません。多様性は「義務」ではなく、企業が新たな機会を掴むための「力」です。それは「思考の変革」であり、「感性の変革」であり、自分の中にあるマイノリティ性を認識することなのです。
—— 最後に、「Sony Women in Technology Award with Nature」の受賞者たちに、どのような希望や期待を寄せていますか?
マグダレーナ: 今回の受賞が、彼女たちの成功と自らの貢献を信じるためのエンパワーメントになることを願っています。同時に、私たちは「コミュニティ」を作りたいと考えています。このアワードが素晴らしい才能をもつ女性たちが互いにつながり、高め合うコミュニティの核(nucleate)となることに期待しています。それが新たなロールモデルを生み出し、あとに続く女性たちを勇気づけるからです。
北野: 私たちが作ったのは、あくまで「きっかけ」にすぎません。このアワードが人々と社会全体の認識を変えることを願っています。この賞の存在が、「自分たちの分野でも同じようなことができないか」と、誰かのマインドセットに火をつける。その影響力こそが、私たちがもっとも期待していることです。
北野氏には、『Forbes JAPAN』3月号に掲載した、テクノロジー領域で世界を変える活躍をする30人を選出した「Forbrs JAPAN Women In Tech 30」にもアドバイザリーボードとしてご協力いただいた。


