目まぐるしく変化する現代で企業が成長を遂げるために、イノベーションはバズワードではない。戦略面でもオペレーション面でも欠かせない必須事項だ。
Innovation Unleashed: How to Find the Ideas That Matter and Transform Your Business(原題)の著者ビル・ステイントン氏は、イノベーションとは危機への反応にとどまらず、継続的な変化を生み出すマインドセットだと語る。エミー賞29回受賞という受賞歴を持つテレビプロデューサーとしての長年の経験を踏まえ、業界を問わず企業がイノベーション文化を育むための貴重な示唆を提示している。
ステイントン氏の視点は、毎週イノベーションが不可欠だったテレビの現場で培われたものだ。「気分に関係なく、求められればいつでもイノベーティブでなければならなかった」と彼は振り返る。「ぜいたく品ではなく、必要条件だった」。彼の番組は単に娯楽を届けるだけではなく、継続的なイノベーションの実験場でもあった。「私たちの仕事は毎週、新しいものを生み出すことだった。そうやってレガシーを築いたのだ」と語る。
テレビの現場での経験は、視点を少し変えるだけで驚くべき成果を生み得ることを示している。転機となった瞬間の1つに、若き脚本家ビル・ナイが関わった出来事がある。彼はのちに、象徴的存在となるBill Nye the Science Guyとして知られるようになる。「ビルは世界を違う見方で捉えていた」とステイントン氏は説明する。「私たちがインタビューするゲストを探していると、ビル・ナイは『時間をどう埋める?』と尋ねた。その問いがすべてを変えた。イノベーションの本質とは、正しい質問をすることだ」
好奇心と創造性をもって課題に向き合うというそのマインドセットこそ、ステイントン氏の定義するイノベーションの核である。多くのビジネスリーダーは、イノベーションをゲームチェンジャーとなるムーンショット級のアイデアと同一視しがちだが、ステイントン氏は異なる見方をする。「イノベーションはムーンショットだけではない。マインドセットなのだ。イノベーションとは、問題を新しいやり方で解決すること。価値はアイデアを生み出すことそのものではなく、どう適用するかから生まれる」。ステイントン氏にとってイノベーションの鍵は、危機のときだけに行う特別なイベントではなく、習慣として身につけることにある。
危機対応ではなく、習慣としてのイノベーション
優先事項として掲げているにもかかわらず、なぜ組織はイノベーションに苦戦するのか。ステイントン氏は、あまりにも多くの企業がイノベーションを「イベント」として扱っている点を指摘する。「『火事のときはガラスを割れ』モデルのようなものだ。危機が起きたときにしかイノベーションを起こさない。それではイノベーションのあるべき姿ではない」。彼はそれを、Photoshopのような複雑なソフトウェアを年に1回しか使わないことに例える。「日常的にイノベーションを練習していなければ、最も必要なときに錆びついている」
イノベーションは学べるものだとステイントン氏は強調する。「それが起きるのを見てきた。自分自身も学んだ。イノベーションはスキルであり、習慣である。そして私たちは生まれながらに、好奇心と問題解決への欲求という素材を持っている」。本人の経験でも、テレビ番組で毎週のようにイノベーションを求められる環境は、練習を重ねればイノベーションが第二の本能になることを示した。ただし環境も重要だ。「イノベーションを花開かせたいなら、それを促す文化をつくる必要がある。人々が安心して質問し、アイデアを出し、現状に異議を唱えられる文化だ」
イノベーションに適した文化では、役職にかかわらず誰もが発言できると感じるべきだ。「新入社員が『なぜこのやり方なのですか?』と尋ねたとき、封じ込めてはならない」とステイントン氏は助言する。「それこそが、聞くべき問いである。自分が存在に気づいていなかった問題を浮かび上がらせるかもしれないのだから」
アイデアを行動に変える
創造性はイノベーションの燃料になるが、アイデアを具体的な価値へと転換する段階で本当の仕事が始まる。「イノベーションは優れたアイデアを思いつくことだけではない」とステイントン氏は言う。「それをどう扱うかだ」。彼は、多くのリーダーが創造性とイノベーションを誤って混同していると強調する。「創造性は火花だが、イノベーションはその火花を価値あるものに変えるプロセスである」。その価値が新製品であれ、プロセス改善であれ、あるいはコスト削減であれ、目標は創造性を意味ある行動へと変換することにある。
では、リーダーは追求すべきアイデアをどう評価すればよいのか。ステイントン氏は、シンプルだが効果的なフレームワークを共有する。実現可能性、事業性、望ましさのベン図だ。「最良のアイデアは3つすべてが交わる部分にある」と彼は説明する。「問うべきは、実行可能か。財務的に成り立つか。そして最も重要なのは、人々が実際に望んでいる、あるいは必要としているものか」
さらに彼は、イノベーションを解き放つためのシンプルで見落とされがちな鍵があると付け加える。それがストーリーテリングだ。「リーダーはストーリーを通じてアイデアを伝える必要がある。人は図表や利益率ではなく、ストーリーに反応するようにできている。想像力をかき立てる物語を語らなければならない」。ステイントン氏は自身のキャリアを振り返り、ビル・ナイのようなストーリーが複雑なアイデアを理解しやすい形にし、興奮を生み出したことを思い起こす。
イノベーション文化を育てる
ステイントン氏の基調講演が示すように、ストーリーテリングを受け入れ、創造性の価値を一貫して強化するリーダーは、よりイノベーティブな職場をつくり出す。「リーダーは、イノベーションがシリコンバレーだけのものではないことを理解しなければならない。会計士にも、弁護士にも、医師にも、そしてあらゆる業界にも必要だ」とステイントン氏は言う。「イノベーションとは問題を新しいやり方で解決すること。そして私たちにはそれを行う力がある」
ステイントン氏との対話から得られる最終的な示唆は明快だ。イノベーションは一部の選ばれた人のものではない。より良い問いを立て、リスクを取り、新しいアイデアを受け入れる意思があるなら、どの組織の誰もが育てられるマインドセットである。ステイントン氏はリーダーに対し、チーム内に眠る未開拓の創造的潜在力を認識し、イノベーションが日々の仕事のルーティンとして定着する環境を整えるよう挑んでいる。
変化が絶えない世界で成功するリーダーとは、イノベーションを習慣として育む者である。好奇心を涵養し、大胆なアイデアを後押しし、進歩の混沌を受け入れるリーダーだ。



