北米

2026.03.14 18:11

億万長者が学校をつくるとき──テック界の教育ムーンショットの末路

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昨年、私たちは新しい近所へ引っ越した。引っ越しには何であれ慣らしが必要で、例えば新しい犬の散歩ルートを見つけたり、子どもを学校へ通わせるため最寄りのバス停を探したり、食料品をどこで買うかを考えたりする。幸い、食料品の買い物には困らない。新居から数分の場所にラルフズがあり、10分も走ればコストコとトレーダー・ジョーズがある。トレーダー・ジョーズといえば、人気のロールド・チリ&ライム・トルティーヤチップスやダークチョコでコーティングしたアーモンドの本拠だ。だが買い物客は要注意である。トレーダー・ジョーズのショッピングカート用エスカレーター上部に配置された律儀な従業員によれば、ギアに欠けた歯があるせいで、最近3台のカートが下りの途中でひっくり返り、食料品があちこちに散乱して、機構に甚大な混乱をもたらしたという。

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ところが、さらに近場の選択肢がもう1つあることが分かった。反対方向へ車を走らせると、正面に「アマゾン・フレッシュ」の文字が貼り付けられた食料品店が目に入った。プライムの忠実な顧客にとっては朗報だ。私は新しい買い物体験に胸を躍らせ、駐車場へ乗り入れた。

それは間違いなく新しかった。私がこれまで訪れたどの食料品店とも似ていない。まず、何も見つけられない。通路は正気を疑うようなアルゴリズムで整理されているように見えた。しかも表示は不正確、あるいはまったくない。商品は棚に乱雑に積み上げられていた(乱雑、であってピグリー・ウィグリーではない。ピグリー・ウィグリーは、それと比べれば近藤麻理恵のマスタークラスのようなものだ)。そして、その山にある中身が奇妙だった。どのブランドも見覚えがない。アマゾン・フレッシュがプライベートブランドを展開しているからではない。どれも正規品ではないように見えた。食品会社が自社の本来のブランド名を、この小売りの地獄絵図に出したくないかのようだった。ある食料品コンサルタントは、アマゾン・フレッシュの品ぞろえを「折衷的」だと表現した。さらに買い物を難しくしたのは、「フレッシュ」が誤称だったことだ。青果の大半はひどい状態で、腐っているか、腐りかけに見えた。肉は怖くて買わなかったが、他の客は「デリ食品が……正しくラベル表示されていない、あるいは……『賞味期限』を過ぎて意図的に販売されている」と記録に残している。

アマゾン・フレッシュの要はテクノロジーだった。買い物客がJust Walk OutTMできるスマートカート、つまりレジ待ちから解放してくれるスマートカートである(食べ物そのものは、明らかに二の次だった)。ところが私が訪れたとき、そのテクノロジーは動いておらず、どういうわけかレジ係が掲示されている割引を適用できなかった。私はソ連を訪れたことも、そこで買い物をしたこともないが、アマゾン・フレッシュを訪れた後では、その両方を経験した気分である。

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だから、1月にアマゾンが米国のアマゾン・フレッシュ店舗60店すべてを閉鎖すると発表しても、少しも驚かなかった。驚いたのは、閉鎖の理由を「本当に際立った顧客体験」を結局見いだせなかったことに帰したアマゾンの声明である。何年たっても、私は際立ったアマゾン・フレッシュの顧客体験について悪夢を見続けるかもしれない。

巨大テックは、なぜ自分たちなら何でもできると思うのか。おそらく、それが億万長者の創業者たちの考え方だからだ。彼らは食料品の買い物をする——少なくとも以前はしていた——だから、より良い食料品店を設計できるに決まっている、と。だが、ひどい食料品店は午後のひととき(あるいはエスカレーター)を台無しにするかもしれないが、誰かの人生を台無しにする可能性は高くない。学校とは違う。そこにリスクがある。テック億万長者は学校へ通った——あるいは少なくとも中退した——だから、より良い学校を設計できると思ってしまうのである。

すべては2013年に始まった。当時、シリコンバレーで最も注目されたスタートアップの1つがAltSchoolだった。元グーグル幹部が創業したAltSchoolは、テクノロジーを活用した個別最適化学習でK-12教育を再構想しようとする破壊者の系譜に連なる最新例だった(例として、Edison Schools、Knewton、ニューズ・コープのAmplify)。AltSchoolは、ピーター・ティールのような億万長者から約2億ドルを調達し、最初の「フルスタック・スクール」をつくろうとした。同社はグーグルやフェイスブックからエンジニアを採用し、学年ではなく学習の進捗に沿って、カリキュラム、評価、進捗追跡を提供する統合ソフトウェア基盤を構築した。

素晴らしい話に聞こえるだろう。だが、アマゾン・フレッシュとトレーダー・ジョーズのエスカレーターが示すように、物理的なキャンパス運営はソフトウェアをつくるより厄介である。保護者は、過度なスクリーンタイム、判読しづらい進捗レポート、子どもが生きたプロダクトテストに使われることを歓迎しなかった。教員は、ソフトウェアによる中抜き、絶え間ないデータ入力、構造化された製品フィードバックの要請を歓迎しなかった。シリコンバレーの投資家は、K-12のテックスタートアップが他のテックスタートアップのようにスケールできないことを歓迎しなかった。各拠点を取得し、許認可を得て、建設しなければならなかったからだ。さらに重要なのは、高い授業料を設定しても、定員60人の「マイクロスクール」のユニットエコノミクスは、都市部の一等地では成立せず、テックスタートアップのプロダクトチームにかかる間接費を賄うには程遠かったことである。

AltSchoolがあまりに良いアイデアに見えたため、他の億万長者とうまくやれないイーロン・マスクは、単独でやることを決めた。こうしてAd Astraが誕生した。2014年、マスクは子どもの教師の1人を雇い、数学と科学にプロジェクト型学習を取り入れることに焦点を当てたマイクロスクールを立ち上げさせた。マスクはこう語っている。「通常の学校が、自分がやるべきだと思うことをしているようには見えなかった。だから、では自分たちに何ができるか見てみようと思った。学校をつくったほうが良くなるかもしれない、と」

Ad Astraは、ロサンゼルスで最も裕福な地区であるベルエアにあるマスクの自宅で運営を始めた。最初のクラスは、自分の子ども5人に加え、スペースX従業員の子ども3人で構成されていた。AltSchoolと同様、成績(学年)はなかった。学校はやがてスペースXへ移転し、生徒たちは火炎放射器をつくったり、TEDトークを行ったりできるスペースを得た。不要とされたのは、音楽や語学のように、テクノロジーが間もなく無意味にする科目だった。さらに不要とされたのは、スペースXの一般社員の子どもたちで、その大半は子どもを入学させるために誰に話せばよいのか分からなかった。しかしマスクの子どもが成長して通常の高校へ進学すると、Ad AstraはあっさりとスペースXから追い出され、イーロン・マスクの遺伝子の担い手のためのこの虚栄プロジェクトは終焉を迎えた。

負けじと、2016年にはマーク・ザッカーバーグが自らの学校を立ち上げた。Primary Schoolは、イースト・パロアルトとサンレアンドロのキャンパスで、子どもに対して学校と医療サービスを統合して提供しようとする取り組みだった。授業料無料の私立校であるPrimary Schoolは、小グループ指導を通じた社会情動的学習に重点を置いた。生徒の体験はテック寄りではなく、一般的なChromebookを超えるものは、成果の追跡と、教育・医療にまたがるデータ統合に限られていた。

これら3つの億万長者の学校はいずれも、いまは存在しない。AltSchoolは2019年にキャンパスを閉鎖し、名称をAltitude Learningに変更して、学習管理システムの他校へのライセンス提供へと方針転換した。それはソフトウェアを売却して縮小・清算するまでの2年間にとどまった。スペースXから追い出された後、マスクのAd Astraも、プロジェクト型学習のオンラインスクールへと方針転換した。

Primary Schoolは昨年春まで続いたが、ベイエリアの550世帯は悪い知らせを受け取った。ニューヨーク・タイムズによれば、「保護者は学校側から、ベーグルと果物、スターバックスのコーヒーの朝食に招かれ、突然閉校を告げられたが理由は示されなかった。彼らは互いを見つめ合い、呆然としていた」という。本当の理由は、ある生徒の言葉によればこうだ。「ママ、私たちの学校にお金を出していた人が、もう私たちに出したくないんだって」

少なくともPrimary Schoolは虚栄の学校ではなかった。だが、ザッカーバーグが自分の子どもを通わせなかった理由の1つは、パロアルトの敷地内にある自宅の1つで、さらに排他的な学校を設けていたからかもしれない。ザッカーバーグにとってPrimary Schoolは「あなたのための学校で、私のためではない」ものだった。Town & Countryは、「Primary Schoolから1マイル離れた場所で、生け垣の高い壁の内側に、億万長者と妻のプリシラ・チャンが、パロアルトの敷地内の自宅で、2人の娘と他の子ども約12人のために私立学校を運営していた。そして、それは市の条例に違反していた」と報じた。ザッカーバーグの子どもがPrimary Schoolの閉校の影響を受けないことが明らかになると、PR上の問題になった。Primary Schoolは、違法でエリート向けの私立学校を隠すための隠れみのだったのか(言葉尻にこだわるザッカーバーグの広報担当者は、それは「ホームスクールのポッド……であって私立学校ではない」と主張した)。少なくともザッカーバーグには、ソフトウェアやオンラインへと方針転換するのではなく、学校を閉じるだけの分別があった。億万長者の先人たちと違って。

億万長者の学校を分類するなら、3つのタイプがある。テックのムーンショット(ティール)、虚栄の学校(マスク)、隠れみのの学校(ザッカーバーグ)だ。このサイクルは、新たな参入者によって再び始まる。ジョー・リーマントは、誰もが知る億万長者ではないが(そして——関連して——イーロン・マスクと確執を起こしたこともないが)、ソフトウェア企業Trilogyの創業者であり、やはり億万長者である。2022年、リーマントはオースティンの私立校アルファ・スクールの支配権を握り、個別最適化されたデジタル学習の約束を実現するためにAIを追加し、テキサス州ブラウンズビルに2つ目のキャンパスを開いた。AIとアルファ・スクールのテック基盤により、アルファ・スクールの生徒は現在、学業の作業をすべて2時間で終え、午後はプロジェクトや創造的関心に充てていると報じられている。アルファ・スクールにいるのは教師ではなくガイドである。ガイドは生徒の進捗を見守り、コーチし、午後の時間を支援する。ただし授業はすべてスクリーン上で行われる。いまやアルファ・スクールのキャンパスは18に増えた。先週の一般教書演説では、アルファ・スクールの生徒がファーストレディの招待客として出席した。

しかし、いくつかの暴露記事によれば、アルファ・スクールを誰もが愛しているわけではない。Wiredは、AIによる学習ペース設定やパフォーマンス指標が、生徒に過度のストレスと不安を引き起こしていると報じた。先月、404 Mediaによるアルファ・スクールの調査は、インターネットからスクレイピングした内容をAIが生成したカリキュラムが低品質、あるいは明らかに誤っていること、非論理的な評価、読解課題で生徒を混乱させる幻覚を起こすチャットボットを明らかにした。新設されたサンフランシスコ校で授業料7万5000ドルを支払う保護者は、おそらくこれを読んで驚いただろう。

スクリーン上の授業が2時間というのはニッチ市場である——おそらく高度に準備ができ、意欲も高い生徒(価格帯に照らせば、高所得層である可能性が高い)に限られるだろう——とはいえ、この最新のK-12ディスラプターには、ゲーミフィケーションや金銭的報酬など、評価すべき要素もある。アルファ・スクールは、学習成果が標準を大きく上回っているように見えると主張している。いずれにせよ、リーマントは億万長者の同輩から学び、リスクを取らないことにした。ソフトウェアを追加しているのだ。アルファ・スクールは、「EducationOS」をTimebackというブランドでライセンス提供し始めようとしている。「あなたの子どもは、1日わずか2時間で学業を制覇できる」

億万長者が学校を始めるのは、テクノロジーの可能性を証明するためであり、自分の子どもを教育するためであり、実際に自分の子どもを教育している学校の隠れみのとなる筋書きをつくるためであり、パートナーを感心させるためである(イーロン・マスクの場合は、パートナーが多数いる)。だが、彼らが興味を失うと何が起きるかは、すでに見てきた。物理的な学校は、デジタルへと溶けて消える。

学校運営は、プロダクトのローンチとは違う。学校はプラットフォームではなく、コミュニティである。コミュニティはコードのようにはスケールせず、出来の悪いプロダクト機能のように打ち切られるべきでもない。誰も子ども時代をA/Bテストすべきではないし、キャンパスをデジタルへ方針転換すべきでもない。テック億万長者であってもだ。

ハイパースケーラーがK-12教育で果たせる役割はあるかもしれない。だが学校運営ではない。総支出の5%未満にすぎないテクノロジーは、K-12教育においてまだ伸びしろが大きい。だが、教師を中抜きしたり置き換えたりするのではなく、最も刺激的な機会は、教室での学びを補完し強化すること、教師に生徒の学習に関する行動可能なデータを提供すること、生徒を評価に備えさせること、そして教室外で発生している支出が総支出の約50%にも上る——例えばニューヨーク市の学校では生徒1人当たり年間2万ドル——という現実を踏まえ、管理面の効率化を通じて、その資金を指導と学習へ振り向けることにある。

ありがたいと思えることが1つあるとすれば、ジェフ・ベゾスが、アルファベット順に並べると、アマゾン・フレッシュ、Amazon Go、Amazon Spark、Dashボタン、Fire Phone、Haven、ワシントンD.C.、ワシントン・ポスト、そして妻から逃げ出したにもかかわらず、学校を始めようとはしていないことだ。

forbes.com 原文

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