北米

2026.03.14 17:24

AIの終末論的レポートは外れるかもしれない。だが、あなたの会社を救う可能性がある

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時は2028年。国はパニックに包まれている。米国の失業率は10%に達し、大不況以来の高水準となった。株式市場は崩壊し、S&Pは2026年に付けた高値から38%下落している。

疲れを知らず、能力を増し続けるAIエージェントの普及が、経済と社会に混乱をもたらし始めた。企業は、人間を知的システムに置き換えることを、予想をはるかに上回るスピードで進めている。生活を成り立たせるため、大勢のホワイトカラーがパートタイムの仕事に流れ込んだ。賃金の崩壊は連邦税収を押しつぶし、すでに膨らみ続けている債務をさらに悪化させている。住宅ローン市場はひび割れ、消費支出は急落した。経済は自己増殖的な悪循環に入り始めている。

こうした「未来の見出し」を今週報告書として公表したのが、マクロ経済分析会社Citrini Researchだ。Citriniは、新しいフードデリバリーやライドシェアのアプリ立ち上げの障壁を崩す「コーディングエージェント」の台頭を描いた。それはDoorDashやUberのような企業のビジネスモデルを粉砕する。さらにMastercardやAmerican Expressのような従来型の決済プロバイダーも、エージェントが暗号資産とより安い取引コストへ移行することで、骨抜きにされるという。

通常なら、こうした報告書が取り上げられることはほとんどない。Citriniは無名に近い企業であり、内容も純粋に仮説に過ぎなかった。しかし今のAIをめぐる不安の度合いは、それほどまでに大きい。この報告書は拡散し、株式市場での売りを引き起こした。報告書で名指しされた企業の多くは、さらに大きな打撃を受けた。

予測より準備

Citriniの報告書が重要なのは、それが必ずしも正しいからではない。未来がどうなるかは誰にも分からない。この報告書が意味を持つのは、思考実験の力を示したからだ。たとえ実現しなくとも、投資家や経営者が備えるべき未来シナリオを提示したのである。これは、ほとんどの人が未来に焦点を当てていない世界では、驚くほど有用だ。現在に意識が向きがちな私たちの70%は、今日とは大きく異なる世界を想像するのが苦手である。そしてそれが、まったく違う未来が到来した日に備えられない理由となる。Citriniの報告書がパニックを引き起こしたのは、未来を現実のものとして感じさせたからだ。

一方で、Citriniの破滅的予測を根拠に株を売った人は、この報告書が未来の姿を示す「1つのシナリオ」に過ぎないことも覚えておくべきだ。私たちは、豊かさの新時代へと移行するような別の未来も含め、ほかの可能性を容易に想像できる。友人のZack Kassは新著『The Next Renaissance』で、AIによって変貌した世界について、はるかに楽観的な見方を提示している。彼の見立てでは、問うべきは「より良い未来を築けるか」ではない。「並外れてより良い未来を築けるか」なのだ。彼が正しいことを願う。

未来志向のリーダーは、どちらか1つの未来に賭けることが愚行だと理解している。真の答えは、予測より準備を選ぶことにある。複数の可能な世界を思い描き、どの世界が現実になっても繁栄できる道筋を考えるのだ。賢明な投資家も同じことをしている。幅広い結果を織り込んだポートフォリオを維持する。赤に全賭けはしない。

テクノロジーがテクノロジーを食い尽くすとき

この考え方を示すこれ以上の例は、SaaS(Software-as-a-Service)で起きていることだ。SalesforceやWorkdayのようなB2B向けSaaS企業は、AIがビジネスモデルを破壊するとの懸念から、ここ数カ月で大きく叩き売られてきた。アナリストはこれを「SaaS黙示録」と呼んでいる。

あるシナリオでは、管理職がAIを使って自社向けソフトを「バイブコーディング」(雰囲気でコードを生成すること)できるようになり、既製品のソリューションは過去のものになる。どんな会社でも数人のエンジニアが、必要なものをLLM(大規模言語モデル)に説明し、自社製で高度にカスタマイズされたSalesforceを吐き出させるだけで済む。

私たちの多くにとって、こうした脅威は2022年11月にChatGPTが初めて公開された時点から視野に入っていた。だが、世界の大半が危険を現実のものとして認識するきっかけになったのは、Anthropicが2月上旬に公開した新種のAIプラグインツールのリリースだった。ソフトウェアは「世界を食う」はずだった。いま市場を覆う恐怖は、ソフトウェアそのものがAIに食われるのではないか、というものだ。

しかし、さらに劇的なシナリオもある。企業が営業ソフトを必要としなくなるのは、企業が営業担当者を必要としなくなるからだ。その世界では、AIエージェントが顧客関係と販売機会を、別のデータベースを見ることなく処理する。

もちろん、もっと突飛な可能性もある。その世界では、企業そのものが存在しない。AIがすべてを処理するからだ。私たちはベーシックインカムを受け取り、AIがすべての仕事をする間、精神的あるいは宗教的な悟りを求めて日々を過ごすのかもしれない。あるいは、ピクサーの『ウォーリー』に出てくる、飲み物をすすり続けるソファの住人のような姿に行き着くのかもしれない。

懐疑的な人や過去志向の観察者は腕を組むだろう。大企業が自らの存在権を手放すとは思えない、と彼らは考える。ましてやフォーチュン500のCEOが、週末に「バイブコーディング」で作られたようなシステムに、自社の顧客アカウントや給与計算を委ねるだろうか。

おそらく委ねない……。だが要点は、私たちがその賭けをする必要はないということだ。企業がこうした疑念に効果的に対応する唯一の方法は、未来の世界で自社がどう生き残るかを想像し、投資家に対して、そのためのゲームプランがあることを示す実験やパイロット(試験導入)を始めることである。

運が良ければ、SaaS企業のリーダーはすでにそうしたシナリオを検討し始めているはずだ。LLMが進化したときに何が起こり得るかを思い描いてきた。将来にわたって価値を提供し続ける方法を再定義してきた。そして、IR(投資家向け広報)担当に投資家の不安をなだめさせるのではなく、自分たちが向かう先を示す新しいプロトタイプの構築に、すでに取り組んでいる。

たとえばAdobeは、少なくとも2021年以降、製品ラインアップにAI機能を組み込んできた。ChatGPTの登場よりはるか前のことだ。同社は第三者の著作権を侵害しない画像でモデルを訓練し、既存のクリエイティブスイートにAI機能を統合した。まだ大きな課題が残っているとはいえ、対応を怠ってきた企業と同列にAdobeを評価するのは、近視眼的に見える。

私たちの脳は私たちをだます

恐ろしいほど異なる未来を真剣に受け止めることは、多くの人にとって自然な行為ではない。私たちは、近い将来は今日とかなり似た姿になると想定するよう、脳に組み込まれている。連続性を前提にするのだ。株式市場は上がり続ける、政治の温度は上がり続ける、自分のSaaSビジネスは常に成り立つ、などと。

数年前、大手保険会社の最高執行責任者(COO)が、AIは決して人間の代理店担当者を置き換えないと私に語った。人は最も重要な金融判断をする際には、必ず人間と話したがるのだと彼は断言した。彼が正しいのかもしれない。だがそれは同時に、企業を破滅へと導く典型的な現在志向の思考でもある。安心できる見慣れた未来の1つに賭け、数多くあり得る未来に備えない、ということだからだ。

実際、人々は保険商品やその他の金融サービスを選ぶにあたり、人間よりチャットボットとやり取りすることをすでに受け入れつつある。インシュアテック企業Lemonadeでは、保険契約の90%以上が、MayaというAIインターフェースを通じて販売されている。Mayaは会話形式のフローで顧客を案内し、リスクを評価し、個別化された見積もりを提示する。

COOの友人による自信満々の予測は、より深い問題を浮き彫りにする。その罠に最も陥りやすいのは、しばしば企業を動かしている当人たちだという点である。未来について強く明確な見通しを持ち、予測を実現できる人ほど、企業内で出世しやすい。1万個の製品を売る計画を立て、きちんと達成、あるいは上回る。そうした実績は自信の証となり、昇進につながる。現在志向の世界では、そのほうが正気に見え、本人も正気でいられる。だが、未来が過去に似なくなったとき、企業は備えのない状態で取り残される。

「少しの終末」は大きな効き目を持つ

あらゆるリーダーは、自分が向かいたい方向について長期ビジョンを描くことに熟達しなければならない。ビジョンはチームを結束させる助けになる。しかし未来志向のリーダーは、未来を思い描く目的がチームを奮い立たせることだけではないと理解している。これはスーパーボウルのCMではない。要点は、潜在的な脅威を言語化し、チームから創造的な反応を引き出すことにある。恐怖は、楽観がほとんど持ち得ない形で注意を集中させる。だからこそCitriniの報告書は拡散した。

リーダーであるなら、まずチームを集め、自社を本当に殺しかねないシナリオを思い描くことから始めるべきだ。心地よいリスクだけを取り上げてはならない。笑い飛ばされがちだったり、普段は口にするには居心地が悪すぎたりするものを、あえて言語化することだ。そして、そのリスクが実際に起きた場合、どう生き残り、どう活用するかを問う。

運が良ければ、脅威がはっきり見える前にこれを実行できる。いま多くの企業は、自分たちがどう死に得るかを想像するのに、それほど想像力を要しない。だからこの瞬間は、恐ろしくもあり、同時に有益でもある。

Salesforce、Uber、Mastercardのどこかには、2022年以前からAIの脅威について難しい問いを投げかけてきたチームがいるはずだ、と期待したい。複数のシナリオでウォーゲームを行い、複数の未来に賭けてきたはずだ、と期待したい。そしてそのシナリオには、あなたや私が午後のひとときで、エンタープライズ級ソフトウェアやデリバリーアプリ、決済ネットワークを作り上げられる世界も含まれているはずだ。もしそうであるなら、2028年において彼らは、いまようやく考え始めた企業よりはるかに強い立場にあるだろう。生き残る企業は、未来を正しく当てた企業ではない。早くから備えた企業である。

forbes.com 原文

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