経営・戦略

2026.03.13 20:54

数兆ドルの資産が危機に──アジアのファミリービジネスが直面する承継問題

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ウィリアム・ルーイは慈善活動家でポッドキャストのホスト。1921年創業の香港の九龍巴士(Kowloon Motor Bus Company)の4代目後継者でもある。

ファミリービジネスはアジアの経済エンジンを力強く支える存在であり、グローバルなビジネスコミュニティとの対話を通じて私が感じるのは、その規模がしばしば過小評価されているということだ。

EYとザンクト・ガレン大学が2025年にまとめた「グローバル500ファミリービジネス・インデックス(Global 500 Family Business Index)」によれば、世界最大の家族所有企業500社の年間売上高合計は約8兆8000億ドル(約1320兆円)にのぼる。興味深いことに、アジアはこれら最上位企業の18%を占めており、そこから推計すると、アジアを拠点とするファミリービジネスだけで1兆5800億ドル(約237兆円)の売上高を生み出していることになる。

この規模感を理解するために言えば、この売上高は国家の名目国内総生産(GDP)に匹敵する。世界銀行は2024年のオーストラリアのGDPを約1兆7600億ドル(約264兆円)、スペインを約1兆7300億ドル(約260兆円)と推計している。

しかし、大きな問題が1つある。経済的な存在感が大きいにもかかわらず、アジアの多くのファミリービジネスは、世代間のすれ違いに起因する課題に直面している。私が「事業承継ギャップ」と呼ぶものだ。私の経験では、承継に備えられている家族は想像以上に少なく、現在、資産のかなりの部分を失うリスクにさらされている。

多くのアジア企業が備えられていない移行

この経営リーダーシップの課題は単独で捉えるべきではない。アジア全域で所有、支配、影響力を塗り替える、より広範な世代間の資産移転と同時進行で起きているからだ。

しばしば「グレート・ウェルス・トランスファー(Great Wealth Transfer)」と呼ばれるこの現象により、人類史上最大規模の資産が世界中の家族の間でまもなく移転されようとしている。私の世代であるベビーブーマーやそれ以前の世代から、ミレニアル世代、X世代、Z世代といった若い世代へ、数兆ドル規模の資産が引き継がれる。マッキンゼーは、この移転のうち約5兆8000億ドル(約870兆円)が2023年から2030年にかけてアジア太平洋地域で起きると推計した。

アジア全域にわたるこの資産移転の重みを踏まえても、多くの家族がこの現象に向き合う準備を整えていないように見えることには驚かされた。

シュローダーがアジア太平洋の主要なファミリーオフィス60社を対象に実施した調査によると、回答者のうち70%は資産移転について定期的に会議を行っている一方で、レガシープランを文書化しているのは30%にとどまる。実際の事業承継計画に目を向けるとギャップはさらに広がり、正式な文書を最終化している家族は23%しかいない。

なぜアジアは独特の脆弱性を抱えるのか

考え直してみると、私自身がアジアのファミリービジネスの後継者である以上、資産移転や事業承継に対する多くの企業の準備不足は、驚くべきことではないのかもしれない。100年以上の歴史を持つ香港のファミリービジネスである九龍巴士の正式な相続に至った事情は、まったく前例のないものだった。

私にとって承継は、周到に計画された移行などでは決してなかった。むしろ、父が早逝した後、引き受けざるを得なかった責任である。私が1997年に正式にその役割を受け入れた時、19歳だった。長期的な存続と成功を可能にしたのは、事業の構造と、変わらぬ家族の価値観をその中に織り込んだことだった。

だが、それは何十年も前の話だ。当時の香港には「グレート・ウェルス・トランスファー」という流行語は存在しなかった。私の観察では、この概念が近年になって主流化したのは、主として欧米のメディアが促す言説を通じてである。

進行中の資産移転への認識は高まっているにもかかわらず、今日のアジアの創業者の中には、ゼロから築き上げた事業の支配を手放すこと、すなわち事業の引き継ぎについて明確に語ることに、なお強い抵抗を示す人がいるのを目にしてきた。

アジアに根付く年長者への深い敬意は、このためらいをさらに強める。アジアの多くの地域では、年齢は知恵と同義だ。そのため若い世代は、年齢ゆえに、自分たちの準備が整っていることを上の世代に納得させるのが難しくなりがちである。次世代が準備万端であっても、意思決定権の意図的な移管が遅れることがある。さらに悪いことに、引き継ぎの話し合いは、静かに先送りされていく。

なぜ「承継」は「移転」と同じではないのか

年長の世代が次の一手を決めたとしても、なお障壁はある。私の経験では、家族は資産移転を事業承継と取り違えがちで、その結果、株式、信託、資産は比較的容易に引き渡されてしまう。だがそれは、リーダーシップや事業の継続を保証するものではない。

承継後、後継者はしばしば、複雑な組織の責任を負う立場に置かれるが、年長者から明確な委任を得られていないことも多い。そうした局面で初めて、信頼性、的確な判断、信頼とは、時間をかけて徐々に獲得する資質である——通常は年長者本人の緊密な指導のもとで、時に極度の市場圧力の中で——という事実に気づくのである。

事業承継とは、事業運営を通じて家族のレガシーを維持することだ。移転と異なり、日程を決めて終わるような出来事ではない。意図した通りに機能させるには、はるか前から準備すべき計画によって形づくられる、長いプロセスなのである。

次世代が見直しを迫る理由

アジアのファミリービジネスの世界には、前進を示す明るい兆しもある。継続性は、家族固有の使命を理解する信頼できるプロフェッショナルが主導する、高度で意図的な仕組みの助けを借りて、丁寧に設計されなければならない——そう認識する家族が増えているのを感じている。

これは、私が見るところ、今日の承継がめったに単純ではないからこそ、いっそう価値を増している。若い家族メンバーの多くは別のキャリアを選び、継承された役割に疑問を投げかけ、世界観や価値観の違いをめぐって上の世代と衝突することをためらわない。

この摩擦は現実であり、しばしば居心地の悪いものだ。しかし同時に、それが家族に対し、承継とより正直に向き合うことを迫っている。所有と経営を分離し、リーダーシップを「当然のもの」としてではなく「獲得されるもの」として位置づけるために、ガバナンスの枠組み、ファミリーオフィス、そしてより明確な役割定義が必要だ。

この先の移行が円滑に進むことはないだろう。だが、それはすでに始まっている。承継を迅速な移転ではなく、資産のスチュワードシップのための慎重なプロセスとして扱うアジアの家族は、すでに先を行っている。そしてそれこそが、私に希望を与えている。

forbes.com 原文

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