サイエンス

2026.03.20 18:00

蚊に刺されやすい人の「におい」? そのメカニズムと医学的意義

Shutterstock.com

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自分は、まるで誘蛾灯のように、ほかの人よりもずっとたくさんの蚊を引き寄せている、と感じた経験はないだろうか? それは、あなたの妄想ではないし、単なる不運でもないかもしれない。実は、一部の人々が本当に、磁石のように蚊を集めることを示す査読済み学術論文は数多く存在している。

原因と目されているのは、体臭の化学的組成、(温度を含む)皮膚の状態、それに皮膚表面に生息している微生物の組み合わせだ。これらは、「蚊に刺されやすい人は血が甘い」や「グレープフルーツ・ダイエットをすれば蚊に刺されにくくなる」といった迷信とは違って、厳密に統制されたラボでの実験や化学的分析から得られた知見に基づいている。

蚊を引き寄せる人とそうでない人がいる理由が、どうやって科学的に解明されつつあるかについて、以下に解説していこう。

蚊は、においを頼りに狩りをする

メスの蚊は(吸血するのはメスだけだ)、誰を刺し、誰を避けるかをランダムに選んでいるわけではない。蚊がターゲットの居場所を特定する際に利用する、感覚に関連する手がかりは複数あり、例えば以下のようなものだ:

・呼気に含まれる二酸化炭素(生きて呼吸している動物が近くにいることを示す)
・体温と視覚的コントラスト
・おそらく最も重要なポイントとして、ヒトの体臭。複数の揮発性物質が複雑に混ざったもので、個人ごとに異なる。

蚊が主に嗅覚を頼りにして狩りをするというのは、数十年前からの定説だ。しかし、2022年に学術誌『Cell』に掲載された画期的な研究により、嗅覚に基づく蚊のターゲット選択が、ヒトの皮膚のにおいに含まれる特定の化学的シグネチャーと結びついていることが、ようやく裏づけられた。

同論文において研究チームは、ネッタイシマカ(学名:Aedes aegypti)に一貫して選ばれる人口集団を特定した。特筆すべきは、選ばれやすい人がランダムでも不安定でもなく、数カ月から数年のあいだ、比較的一貫していたことだ。

ネッタイシマカ(Shutterstock.com)
ネッタイシマカ(Shutterstock.com)

『Cell』論文の中心的知見は、蚊を最も引きつけた実験協力者が、皮膚から高レベルのカルボン酸を放出していたというものだ。有機分子の一種であるカルボン酸は、皮膚常在微生物によって皮脂が分解された時にできる。

この研究ではまず、協力者にナイロン製の腕カバーを数時間にわたって装着させ、その人独自の皮膚のにおいを生地に染み込ませた。そのあと、蚊に2枚の腕カバーのどちらかを選択させるラボ実験を行った。

その結果、少数の人々が、その他大勢よりもはるかに多くの蚊を引き寄せることが、すぐに明らかになった。実験試行の一つでは、一方に集まった蚊の数が、他方の100倍以上に上った。分析により、蚊にとって最も魅力的だった皮膚のにおいには、有意に多くのカルボン酸が含まれていたことが判明した。

注目すべきは、ある種の嗅覚障害をもつ蚊でさえも、皮膚のにおいにカルボン酸を多く含む人と少ない人(すなわち、蚊にとって魅力的な人と、そうでない人)を区別できたことだ。このことから、カルボン酸が蚊のターゲット選択において、極めて強力な手がかりであることが示唆される。

蚊が利用する嗅覚的シグネチャーは、何によって決まるのか?

カルボン酸レベルの個人差は、単にランダムな分布に従うわけではない。カルボン酸のレベルは、遺伝子、皮膚常在微生物叢、身体の化学的特性の組み合わせによって決まり、完全にその人に固有のものだ。具体的には、以下のような相互作用の結果といえる:

・DNAは、皮膚から滲出する皮脂量のベースラインを定める
・皮膚常在微生物が皮脂を分解し、におい成分を生成する
・におい成分(汗そのものではない)が多いほど、蚊が強く誘引される

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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