長年コンサルティング業界に身を置き、アクセンチュアでは要職を務めた市川博久。一方で、日本のIT業界の多層構造に強烈な違和感を抱いてきた。
彼が立ち上げたRubicon9は、あえて「IPOを目指さない」独資経営を貫く。資本の論理に縛られず、ITの「供給側」からの変革に挑む同社の挑戦に迫る。
2025年9月、世界有数のコンサルファーム出身者からなるRubicon9が創業。同社の代表取締役社長である市川博久(以下、市川)の原体験は、アクセンチュア時代に立ち上げたITインフラアウトソーシング事業、クラウド事業、サイバーセキュリティ事業にある。その間、IT業界が抱えるさまざまな課題を間近で見てきたが、いびつな業界構造への強烈な違和感が付きまとった。
日本のITマーケットは、Tier1である大手のIT事業会社が、大企業を顧客としてサービス提供をするピラミッド構造で固定化されており、企業数の99.9%を占める準大手・中小企業には、ITの恩恵が十分に行き届いていない。また、大手Tier1の下請けとして開発や実装を担う多くのIT事業会社は、エンジニア派遣に依存したビジネスモデルとなっており、優秀な人材を抱えていても中長期的な収益が上がりづらいのが実態となっている。
「ITサービスの供給側からこの構造を変えなければ、日本の国力そのものは引き上がりません。そして、大きな変革のうねりをつくり出すためには、Tier1のIT事業会社だけではカバーしきれない広大な市場に対し、多くのIT事業会社が、直接顧客の課題解決に伴走できる強力なプレイヤーへ進化することが肝要です」(市川)
理想論で終わらせない。実効性のある変革へ
「IPOは目指さない」。市川はそう明言する。
「上場企業となれば、どうしても業績や株主資本主義の力学にさらされ、短期的な利益追求を優先せざるをえなくなります。しかし、我々が目指すのは、中長期的な視座に立った産業構造の変革と、経済合理性が働きにくい社会課題へのアプローチです。あえて独資による経営を貫くことで、ミッションやビジョンに対して100%忠実な意思決定が可能となる。これこそが、他社にはまねできないRubicon9最大の独自性だと考えています」
同社が目指すのは、顧客に伴走し、市場の課題に応えるために必要な「個」の強さと、純度の高い理念を維持し、熱量高く挑み続けること。この地に足の着いた経営スタイルが、理想論で終わらせず、実効性のある変革へと昇華させている。
「Rubicon9には、長年IT業界に精通し、事業の立ち上げ経験が豊富なメンバーが複数います。顧客に伴走し、変革の核である供給側から既存のビジネスモデルを見直し、変わっていくことで日本全体のIT利活用は加速し、ひいては停滞する日本の国力を再び引き上げることにもつながるはずです」
市川が語る背景には、日本企業が欧米企業に比べてIT利活用やDXの取り組みが遅れている点がある。例えばSaaSの利活用を比較した場合、日本は1社あたり10種類程度なのに比べて、北米は数百レベルで活用しているという統計がある。北米企業が競争領域にITを道具として積極的に投入しているのに比べ、日本企業はまだ一部でしか活用されていないのだ。
IT 市場のカタリストとして変革を後押し
加えて今、円安の相場環境も追い風となり、海外のPEファンドは日本のITマーケットへのポテンシャルや魅力から、投資先として熱視線を送っており、その動きは活発化している。これらはIT利活用を促進し、日本の国力を引き上げるための機運が高まっているとも言える。
こうした状況からPEファンドの投資先の企業価値向上につなげるため、Rubicon9は実効性のある改革が実行できると市川は語る。
「具体的な支援としては2点あります。1点目は、目下の稼ぐ力を高めるためにEBITDA Growthを目的とした営業力強化の取り組み。そして2点目は、非連続な成長を促す新規ソリューション構築によるMultiple Expansionの取り組み。この2点を共に実現することこそが、我々の見据える支援であり、強みをいかんなく発揮できる領域です」
「形成途上」の市場で非連続な成長を遂げる
さらにRubicon9では、本業で得た利益や人的リソースから全体の2割を社会課題の解決に充てる方針も掲げている。成功モデルが確立されている「仕上がっている市場(Established)」で得た人・モノ・カネ・時間といった経営リソースを、あえて方程式や正解が見えない「形成途上市場(DEJIMA)」に投じている。「仕上がった市場」を飛び出して、本業とはかけ離れた活動を通じてえられる経験・スキルは何にも代え難く、本業にも還元できるという。
「従来の仕組みでは接点のない人々が出会い、意見をぶつけ合うことで、新たな価値が創出され、日本経済の活性化に貢献できると考えています。成功モデルが確立した市場に集中すればある程度の成長は見込めますが、非連続な成長は遂げられません。形成途上の市場にこそ、新たな価値創出の種があふれています。我々のそうした活動はDEJIMAと名づけています。具体的には、地域の自治体や公益団体と協力したまちづくりや、健康増進&医療費削減のためのヘルスケア施策の検討、地方創生に資する人材教育支援、そしてFoodTech関連のスタートアップ企業のバリューチェーンづくり支援など、プロジェクトは多岐にわたります」
Rubicon9の事業基盤にあるのは、IT市場における「カタリスト(触媒)」としての役割を果たすという明確な姿勢だ。自社の急拡大や規模の追求をせず、IT事業会社を中心とする供給側パートナー企業の競争力向上に貢献し、協業による市場インパクトを最大化することに重点を置いている。
「当社だけで業界再編や社会課題の解決を図れるとは考えていません。大切なのは同じビジョンを共有できる仲間を増やして変革のムーブメントをつくること。そのためにもこの覚悟を共にし、変革の最前線に立つ『同志』の方との出会いを楽しみにしています」
壮大なビジョンを掲げ、大きな一歩を踏み出したRubicon9だが、そこには「常識を打破し、変革の火を灯す。」というパーパスを掲げる同社の揺るぎない意志が見える。
Rubicon9
https://www.rubicon-9.com/
いちかわ・ひろひさ◎アクセンチュアでエンジニア経験を積み、ITアウトソーシング事業を社内起業。クラウド事業およびサイバーセキュリティ事業を創出し、執行役員に就任。M&Aを含む成長戦略を統括。25年にRubicon9を創設し、世界有数のPEファンドおよび戦略ファームなどのアドバイザーも務める。NPOや行政と協働する社会起業家としての顔も持つ。



