EUの執行機関である欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、ロシア産エネルギー資源への回帰を「戦略的失策」と呼んだ。ドイツのメルツ首相は「制裁緩和を検討する理由はない」と宣言した。だが、イランの攻撃でカタールの液化天然ガス(LNG)輸出施設からの供給が停止したため、欧州のガス価格はわずか1週間で75%も急騰した。ロシア北極圏ヤマル半島産のLNGは先月、全てEU諸国に向けられた。これはEUが過去数年間にわたり供給源の多様化を訴えてきたにもかかわらず、依然としてロシアに依存している実態を示している。プーチン大統領は場の空気を的確に読み取り、欧州の買い手との長期的なエネルギー協力の再開を提案した。さらに、EUによる来年のロシア産天然ガスの完全な禁輸措置発動前に買い占めを誘発しようと、残存する欧州向けの全ての天然ガスをアジア向けに転用すると警告した。
第三に、ロシアの財政に起きる変化だ。ロシアの石油・ガス収入が連邦予算に占める割合は、2021年の45%から昨年には約20%に縮小した。もし現在の原油価格高騰による思わぬ利益が持続し、制裁が緩和されれば、ロシアは交渉を経ることなく、ウクライナでの軍事作戦を継続するための財政的余裕を取り戻すことになる。
ロシアに必要な計算
とはいえ、この思わぬ利益はある重要な点で過大評価されている。英ロイター通信の試算によると、世界的な原油価格が急騰していても、ロシアの予算の実際の財源であるルーブル建ての原油価格が予算目標を達成するには、今月上旬の水準から50%以上上昇する必要がある。対ドル為替相場は77.65ルーブル前後まで上昇しており、連邦予算で想定していた92.20ルーブルとは大きな差が生じている。ルーブル高はドル建ての収入を減少させるが、これはほとんどの報道が見落としている点だ。
また、ロシアの輸出基盤は依然として弱い。今月初旬、ロシア南部のノボロシースク港へのウクライナ軍のドローン(無人機)攻撃により、原油輸送が1週間停止し、週間輸出量は日量264万バレルと昨年2月以来の最低水準に落ち込んだ。
問題は、ロシアが今四半期に収支を均衡させるかどうかではない。西側諸国がロシアに対して持つ非軍事的影響力の主な手段である制裁が、中東の危機を無傷で乗り切れるかどうかだ。インドに対する30日間の免除措置は来月上旬に期限切れとなる。延長されるか、拡大されるか、あるいはひっそりと恒久化されるか、答えが示されるだろう。
制裁体制は劇的な宣言で崩壊するものではない。制裁は、個々にみれば妥当と思われる免除や例外、現実的な調整を経て浸食されていく。米国はガソリン価格管理の強制力を緩和し、欧州はエネルギー供給確保のために再関与し、インドは物理的な不足を補うために輸入を正常化しているが、これらの当事者にはいずれも制裁体制を解体する意図はない。収束は意図にかかわらず作用する。ロシアにとって唯一重要な計算は、ここ数日間の中東の危機によって生じた亀裂を、永続化するまで十分に長く開いたままにできるかどうかだ。


