サイエンス

2026.03.22 18:00

ヒトに「繁殖期がない」理由、進化生物学者が解説

Shutterstock.com

Shutterstock.com

エルク(大型のシカ)は秋に、アカギツネは春に発情期を迎える。しかし人間の場合は、繁殖行動を起こす前に、枝角を生やしたり、春の花が咲き誇るのを待ったりしない。

advertisement

私たち人類にとっての「交尾」は、決まった季節の短い期間だけに限られている行為ではなく、1年を通していつでも可能な、柔軟な営みだ。こうした在り方は、生物学、社会、環境における進化の深い変遷によって形づくられてきた。

それでは、私たち人類が進化の過程で繁殖期のルールを破ったのはなぜか、そして、人間の生殖リズムに関する本格的な進化生物学研究でどんなことが明らかになっているのかについて説明していこう。

「人間の繁殖期」に関する神話

生物学者の言う「繁殖期」とは、動物が発情して繁殖のために交尾する、毎年決まった時期を意味する。そのようにして、子どもが生存に最も適した条件下で生まれてくるよう、調整されているのだ。例えば、子ヒツジは春に、子ジカは初夏に、カンガルーの子どもは晩冬に生まれてくる。

advertisement

明らかにヒトは、こうした季節的なパターンに当てはまらない。進化の観点から見るとヒトは、科学的な専門用語でいう「周年繁殖動物(continuous breeders)」の一つだ。ヒトは、1年のどの時期であっても、実質的に繁殖することができる。発情周期や、特定の繁殖期を持つ哺乳類とは異なり、ヒトの女性は、生殖が可能な時期のあいだ、およそ28日周期で排卵するし、男性は絶えず精子を作り続ける。

ヒトに繁殖期がないことの大きな理由の一つは、排卵が隠蔽されていることにある。繁殖期がある哺乳類の大半は、メスが自らに受精能力があることを示す合図を出し(性器の周辺が腫れたり、においや行動が変化したりする)、交尾受容性が高まっていることをオスに知らせるのが一般的だ。それとは対照的に、ヒトの女性には、受精能力があることがひと目でわかるような外見的な兆候がない。

直感に反するように見えるかもしれないが、排卵の隠蔽は、非常に重要な進化的な特徴であり、有益なものでもある。ヒトは、排卵をわかりにくくすることで、繁殖の目的を変化させた。つまり、短期間で繁殖相手を競い合うことを止め、長期的にパートナーと絆を築いて社会的に連携していくようにしたのだ。

とはいえ、研究によれば、ヒトには厳格な繁殖期はないものの、微妙なかたちの季節的な生殖パターンは存在するという。ただしそれは、生物学的な繁殖期と同じものではない。

1995年に『The Quarterly Review of Biology』で発表された古典的なレビュー論文によると、人口集団のほぼすべてで、出生数に季節的な変動が見られ、それは主に、受胎頻度の変化が背景にあるという。もっと具体的に言えば、気温や栄養状態、日照時間といった環境要因が、生殖ホルモンと行動にささやかな影響を与えている可能性がある。にもかかわらず、ヒトは1年を通じて受精能力を保ち続けている。

重要なことに、人類学者と進化生物学者は以前から、ある点について考えが一致している。生殖能力を決めるのは生物学的な仕組みだが、「実際にいつ」繁殖行動を起こすのかというタイミングを最終的に決定しているのは、文化や環境であるという点だ。

例えば、統計を見ればわかるように、ヒトの出産は、クリスマスや大晦日、バレンタインデーといった主な休暇や祝日から9カ月後に集中している。そうした時期になると、カップルがいつも以上に、余暇の時間や親密なひとときを過ごすからかもしれない。

2017年に『Scientific Reports』で発表された研究が、この説を裏付けている。性的関心に関するオンライン検索の傾向と、気分に関する指標を並べて分析したところ、ヒトの性周期は、生物学的な要因よりも、文化や社会の雰囲気に突き動かされていることが確認できたという。具体的に言うと、性的関心が高まる時期と、祝日や文化的なお祝いの時期が一致する傾向があったのだ。

次ページ > 進化が、ヒトの周年繁殖を後押した理由

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事