進化が、ヒトの周年繁殖を後押した理由
では、ヒトがその進化の過程で、厳密な繁殖期を持たなくなっていったのはなぜなのだろうか。とりわけ、ほかの多くの動物にとっては季節繁殖が非常に有効な戦略であることを考えると、この疑問は自然なことだ。進化生物学の研究によれば、その理由は、人類が歩んできた歴史と生活戦略の両方に隠されている。
・ヒトの赤ちゃんは無防備な状態で生まれてくるので、親は長期にわたって世話をする必要がある:ヒトの赤ちゃんは、ことのほか他に依存する存在であり、何年も世話をしてもらわなければ生きていけない。それに比べて、ウマやゾウといった早成性の動物の赤ちゃんは、生まれて間もないうちに、自力で動き回れるようになる。子どもが無力に生まれ、無防備な状態が長く続く種の場合、親は、一時的な季節繁殖に力を入れるより、カップルの絆を保って共同で子育てする方が有益だ。
・生活環境が快適であるため、繁殖する上で季節的な制約をあまり受けない:野生動物の多くにとって、繁殖が成功するか否かは、食料が豊富にあるか、好ましい天候かなどの外的な条件で大きく変わってくる。一方の人間は、文化と技術を革新的に発展させ、住居を得たり、火を使ったり、農作物を育てたり、食料を保存したりできるようになったため、食料や天候などの環境が変動しても対応できる。要するに、食料が最も豊富な時期にあわせて繁殖しなければならない、という制約がないのだ。
・社会的な構造、ならびにパートナーとのつながりが存在する:私たちヒトの祖先が作り上げた複雑な社会的構造は、生殖の形に大きな影響を与えた。霊長類においては、広がりのある社会的ネットワーク、ならびにパートナーとの長期的な協力体制があるため、安定した環境で子育てができる。ヒトの場合は、この仕組みがさらに顕著だ。パートナーと長期的に結束して共同で育児をするようになったことが、一定の繁殖期が不要になった最大の要因だろう。
興味深いことに、こうした習性を持つのはヒトだけではない。ボノボやチンパンジーといった一部の類人猿も、厳格な繁殖期を持たず、ヒトと同じように1年を通じて性活動を行なっている。とりわけボノボにとっての交尾は、繁殖だけが目的ではなく、社会的な絆を強めたり、緊張を緩和したりする働きもある。
ヒトに繁殖期がないのは、進化が人類の生殖的な生活史を書き換え、生物学的な可能性と、文化的・技術的なイノベーションを両立させたからだ。ヒトは、進化によって排卵を隠蔽し、つがいとして深い結びつきを持ち、周年繁殖するに至った。それは、ヒトの子どもが長期的な世話を必要としたからにほかならない。
祝日や勤務パターン、社会的な祝祭などの文化的なリズムによって、性活動と出生率が明らかに集中する現象があるとはいえ、それらは文化がもたらした影響であって、生物学的な意味での繁殖期ではないことに留意する必要がある。
結局のところ、ヒトに繁殖期がないことは、人類が進化の過程で、生物学な仕組みと文化をいかに融合させてきたかを示す数多い事例の一つと言えるだろう。繁殖という営みを、きっちりと決まった季節に行われる義務的な行為から、1年を通じた柔軟な選択肢へと変えたこの進化を形作ったのは、私たち人間の在り方と生き方なのだ。


