内閣府「GSC構想」の運営支援法人に東大IPCと博報堂が採択された。東大IPC代表取締役社長・植田浩輔と博報堂執行役員・吉澤到、 そこに連携する東急不動産執行役員・黒川泰宏。3人が描く国内発スタートアップの未来とは。
内閣府「グローバル・スタートアップ・キャンパス(GSC)構想」における先行的活動の、事業化支援および人材育成(フェローシップ)の2分野を対象とした運営支援法人として、東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)と博報堂が採択された。
一方向的な技術流出から、双方向の人材交流へ。エコシステムの転換を目指す3人のキーパーソンに話を聞いた。
──GSC構想における先行的活動とはどういったものでしょうか。
植田浩輔(写真中。以下、植田):世界水準の人材育成や事業化支援を通じて、日本発の特にディープテック領域のスタートアップが国際的に活躍できるエコシステムの構築を目指す取り組みです。博士号取得者や若手研究者が起業に際して直面する課題として、「グローバルネットワークへのアクセス不足」「海外ベンチャーキャピタルとの接点の限定性」「事業化ノウハウの欠如」が挙げられます。東大IPCではこうした課題解決に向け、これまでの一方向的なアプローチから、インタラクティブで“段差”のないエコシステムへの転換を目指して先行的活動に取り組んできました。
──今回、東大IPCと博報堂が立ち上げ・運営を担う新ブランド「Go Abroad To Scale(GATS)」において、東急不動産とも新たに連携することになりました。各社に期待することをお聞かせください。
植田:東急不動産様には、単なる「場所の貸し出し」ではなく、広域渋谷圏全体をひとつのエコシステムとして機能させるプラットフォーム力があります。そこで期待するのは、広域渋谷圏での「動的な実証フィールド」の提供です。研究者や起業家、投資家が日常的に交ざり合う環境をつくることで、ディープテックが社会に溶け込むための舞台を創出していただきたいですね。
黒川泰宏(写真左。以下、黒川):これまで東急不動産ではディープテック領域のスタートアップを育成・支援する日本最大級のコミュニティ拠点「SAKURA DEEPTECH SHIBUYA(SDS)」や、世界トップクラスの海外大学や研究者と連携し起業家の創出・支援を行う「TECH-Tokyo」を開業するなど、広域渋谷圏においてスタートアップ共創の場を生み出してきました。渋谷はビジネスの拠点であると同時に、多様なカルチャーが交ざり合う場所でもあります。このエリアの特性を生かした「まちづくり」に取り組んできた弊社だからこそ、本プロジェクトでも世界との接点創出に貢献できると自負しています。
植田:どんなに高度な技術も、生活者に受け入れられなければ文化にはなりません。そこで博報堂様には、日本を代表する企業やメディアネットワークと新技術を結びつける“ハブ”の役割を期待しています。
吉澤到(写真右。以下、吉澤):博報堂は広告会社という枠を超え、産学官の多様なプレイヤーとともにクリエイティビティで社会課題を解決し、新産業を創造するプラットフォームへと進化しています。その一環としてミライデザイン事業ユニットでは、大学や大企業と共同で「一般社団法人WE AT」を立ち上げるなど、大学発スタートアップを軸としたエコシステムづくりに注力してきました。こうした活動を通じて実感しているのは、日本には世界トップクラスの研究シーズがありながら、その価値や市場ポテンシャルが十分に、特に海外の投資家に伝わっていないことです。
これまで培ってきたブランディングやマーケティングの力を発揮し、日本の技術を世界の投資家に魅力あるかたちで届けたいと考えています。
日本のポテンシャルが世界に解き放たれる
──それぞれの領域で強みをもつ3社が連携することの意義を教えてください。
吉澤:スタートアップの成長には、大学、企業、金融、国や自治体、海外投資家などさまざまな強みをかけ合わせた取り組みが不可欠です。その点、私たち3社がその起点となって多くのプレイヤーを巻き込むことには大きな意義を感じています。
目指しているのは、経済的価値の創出だけではなく、気候変動や人々の健康といったグローバルな社会課題の解決です。世界の人々のウェルビーイングを実現するという大きな目標を達成するうえで、各社の強みを生かすことは重要だと考えています。
黒川:私たちが推進する「まちづくり」においては、建物や土地といった“ハード”のみならず、街がもつ空気感を育む“ソフト”の整備が非常に大切です。弊社の強みは、「場×投資×共創」を組み合わせ、起業家や企業を成長フェーズに応じて切れ目なく支援できること。「SDS」を通じて築いた200を超えるグローバルな産官学ネットワークが、実証と事業化を連続的に生むエコシステムを実現しています。
植田:東大IPCのディープテックへの深い理解と、博報堂様の技術と社会をつなげる「翻訳力」、そして東急不動産様の包括的な「街づくり」とグローバル連携のノウハウ。それらをかけ合わせることによって達成されるのは、スタートアップに限らず、産業の垣根を越えた多様な企業が集う新事業創出モデルの確立です。
日本のアカデミアがもつ「知」を集積し、その研究成果をグローバルな新産業へと昇華させるための「橋渡し役」として機能することを目指しています。
──最後に、取り組みを通じて実現したい未来のビジョンをお聞かせください。
植田:世界中の才能と技術が交ざり合い、国境を超えた人材交流が起こるグローバル・イノベーション・ハブへと進化した日本の姿を描いています。
これまで通り一方向的に技術を享受したり流出させたりするのではなく、国内産業全体を世界標準へとアップグレードする。そのなかでも特に日本の強みであるディープテックをグローバル市場でスケールさせたいと考えています。
吉澤:世界のビジネス成功例に追随するだけでは、これからの国際競争をリードすることはできません。日本が勝っていくためには、“お家芸”である科学技術や先端研究で勝負する道しか残されていないと実感しています。そのために、海外の例とは異なる日本らしいスタートアップエコシステムの構築を実現したいと思います。
黒川:イノベーションの創出には、多様な人材、偶発的な出会いが生まれる場、失敗を許容し資金や時間を循環させる仕組みが不可欠です。グローバルな視点から新たなリソースがもち込まれる今回のGSC構想は、日本の産業育成に多大な刺激を与えると確信しています。それにより、広域渋谷圏、ひいては日本の可能性をもう一段上のフェーズに押し上げることができると考えています。あらゆる壁をなくし、魅力的な研究や技術を発信することで、日本人が持つポテンシャルを世界に解き放つ。広域渋谷圏を「知の集積地」として磨き上げ、その実現を目指していきたいです。
東急不動産
https://www.tokyu-land.co.jp/
くろかわ・やすひろ◎東急不動産 都市事業ユニット渋谷事業本部 執行役員本部長。2017年からスタートアップ事業に従事し「Plug and Play Japan」の渋谷への誘致などに携わる。22年から現職。
うえだ・こうすけ◎東京大学協創プラットフォーム開発 代表取締役社長。科学技術振興機構や民間企業を経て、2017年より同社に参画。CFO、経営企画担当パートナーを兼務し、22年から現職。
よしざわ・いたる◎博報堂 執行役員 ミライデザイン事業ユニット長。クリエイティブ局を経て、2019年から新規事業を推進。産学官連携によるスタートアップ支援などに携わる。25年から現職。



