民間主導でアートマーケットを拡大してきたドバイ、ルーブル・アブダビやグッゲンハイム・アブダビなど世界的美術館の誘致を進めるアブダビ、そして「ビジョン2030」のもと石油依存経済から文化・芸術へと舵を切るサウジアラビア。その側で、カタールは長期的な文化・芸術戦略を一貫して進めてきた。
カタールのプライオリティは、「文化のインフラの成熟度」と「時間軸」にある。中東でアートの存在感が急速に高まるなか、初の「アート・バーゼル・カタール」がドーハ中心部ムシェイレブ地区のM7およびドーハ・デザイン・ディストリクトで開催された(プレビューを含む会期は2026年2月3日〜7日)。
旧市街再生が生んだ文化地区を舞台に
ドーハの文化拠点ムシェイレブ地区。ガラス張りの超高層ビルが立ち並ぶ新市街とは対照的に、伝統的なイスラム建築様式を継承しながら旧市街を再生したこのエリアは、「ヒューマンスケールの歩ける街」をコンセプトに開発された都市再生プロジェクトだ。中東でも珍しい持続可能な都市開発モデルとして注目を集めている。
2つの会場をつなぐ開閉式の屋根を持つバラハ・ムシェイレブの周囲には、ラグジュアリーホテルやレストラン、デザイン施設が点在する。アート・バーゼル・カタールの開催は、この地区が新たな文化拠点として成熟しつつあることを象徴する出来事といえる。
プレビューの日、会場入口には長い列ができ、高揚感が漂っていた。アートフェアでは見慣れた光景だ。だが、他の開催地でおなじみのシャンパンのワゴンや、グラスを片手に歩くVIPの姿はここにはない。ギャラリストたちがブースでシャンパンを開ける光景も見られない。カタールの宗教的・文化的規範によるものだ。代わりにラウンジでは、アラブ社会における伝統的な歓待として、スパイスの香り高いアラビック・コーヒーと希少な品種のデーツが振る舞われた。



