だが、ミサイルは方程式の一部に過ぎない。機雷は、狭い水路を封鎖するためにこれまでに開発された最も効果的な手段の1つだ。イランは過去数十年にわたってその能力を構築しており、比較的少数の機雷でも商業用船舶の航行を停止させることができる。何十隻もの船を沈める必要はない。タンカー1隻が機雷に接触した時点で、あるいは保険会社が脅威を現実的と判断した時点で、船舶の航行はほぼ即座に停止する。
軍事立案者はこの戦略を「接近阻止・領域拒否(A2AD)」と呼ぶ。イランの目標は米海軍を正面から打ち負かすことではなく、商業用船舶が単純に進入を拒むほど危険な状況を作り出すことだ。
それこそが肝心な点だ。イランはホルムズ海峡を艦船や障壁で物理的に封鎖する必要はない。単にリスクを高くして航行を困難にすれば良いだけだ。
市場はなぜホルムズ海峡に注目するのか
ホルムズ海峡には膨大な量の石油が通過しているため、供給障害の懸念が市場を動かすこともある。
サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)をはじめとする湾岸の産油国はホルムズ海峡を迂回(うかい)するパイプラインを建設したが、同パイプラインの輸送能力は周辺の産油国の輸出能力のごく一部しか満たすことができない。こうしたことから、ペルシャ湾産原油の大部分は依然としてホルムズ海峡経由の海上輸送に依存している。
もしその流れがたとえ一時的にでも中断されれば、世界のエネルギーシステムは即座に衝撃を受けるだろう。短期間であれば石油在庫が打撃を和らげるかもしれないが、混乱が長期化すれば供給が逼迫(ひっぱく)し、原油価格は急騰するだろう。この影響はエネルギー市場をはるかに超え、世界中の輸送費に及び、インフレや経済成長にも波及する。
これが、ペルシャ湾岸地域で紛争が勃発するたびに、トレーダーが船舶の航行状況や衛星画像を注視する理由だ。ホルムズ海峡は単なる航路ではないのだ。
真の戦略的課題
他方で、ホルムズ海峡の長期封鎖はイランにとっても莫大なリスクを伴う。自国の石油輸出も同海峡を経由しており、米国や同盟国の海軍との直接対決が急速に激化する恐れもある。
しかし、戦略上の優位性は残っている。イランは国際石油市場を混乱させるためにホルムズ海峡を永遠に封鎖する必要はない。イランが同海峡に機雷を敷設し、対艦ミサイルを配備し、無人機や高速艇でタンカーを妨害すれば、商業用船舶は運航を即座に停止するだろう。米海軍がイラン沿岸部の発射基地や機雷敷設船を追跡している間、機雷を除去し安全な航行を回復するだけでも数週間~数カ月間かかる可能性がある。
これにより、危険な軍事行動の連鎖が生じる。国際石油市場が機能不全に陥り、同盟国やエネルギー依存国からの圧力が高まれば、米国はホルムズ海峡の強制的な再開に踏み切る強い動機を得るだろう。海上輸送路の確保を目的とした海軍・空軍作戦として始まったものが、ペルシャ湾岸沿いのイラン軍事施設を無力化するための作戦へと発展する恐れがある。そこで地上部隊を伴う、深刻な紛争のリスクが高まる。
イランが核兵器を使用することは決してないかもしれない。だが、同国は世界で最も重要な石油輸送の要衝を脅かすことで、すでに国際経済を揺るがしており、主要国を紛争に巻き込むことのできる戦略上の手段を掌握している。


