経済

2026.03.11 12:15

売上5割増「オニツカタイガーの聖地化」戦略 異質を掛け合わせて描く日本発ラグジュアリーの勝ち筋

オニツカタイガーカンパニー長 庄田良二

「血」と「地」が織りなす物語

ブランドの哲学と技術は土地に根付く。土地とのナラティブな結びつき、モノでは終わらない価値を体現する「聖地」は世界に多く見られる。

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ラグジュアリーブランドのブルネロ・クチネリは、イタリア・ウンブリア州のソロメオ村を本拠とし、人々が尊厳をもって働き、生活していけることを目的に経営を行う。荒廃した村を再生した物語、倫理的な経営姿勢に同社のカシミア製品を重ね合わせて「世界一美しい会社」と称され、村そのものがブランドの世界観を表していることで有名だ。

フェラーリは創業以来、イタリア北部のエミリア・ロマーナ州マラネロ市(旧:マラネロ村)に生産拠点を置く。本社の近くにサーキットや博物館を構え、村にあるホテルにまでブランドの哲学や職人の誇りが息づく聖地として、世界中のファンを魅了している。

日本でもグランドセイコー(岩手県雫石町)やニッカウヰスキー(北海道余市町)など、作り手の技が根付き、品質の可視化やブランドのストーリーといった体験価値を提供している聖地の例は複数存在する。

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ほか国内外のブランドによる聖地化例

世界中どこでも作ることのできる汎用品ではなく「なぜこの場所で、誰が、どんな想いで作ったのか」が見えることで、価格だけでは計れない価値が生まれ、価格競争から離脱した世界観が構築される。

鳥取県発祥とされる、大山友禅染や弓浜絣といった日本の伝統工芸技術を採り入れたオニツカタイガーの「NIPPON MADE」には、ブランドの「血」と「地」が織りなす物語がある。単なる生産拠点ではない、他にはない価値を創出する聖地の物語。それこそがオニツカタイガーが目指すものだ。

OIFに展示されていたデザイン画。NIPPON MADEシリーズは、「日本のブランドとして今一度、日本のモノ作りの良さを伝える」というコンセプトのもと生み出されている
OIFに展示されていたデザイン画。NIPPON MADEシリーズは、「日本のブランドとして今一度、日本のモノ作りの良さを伝える」というコンセプトのもと生み出されている

変わりゆくラグジュアリーの価値、変わらない志

「『古いけど、新しい』が、Z世代をはじめ若い人たちのオニツカタイガーの評価。私は、今を生きる若い人たちに響かないブランドには未来がないと考えています」(庄田)

かねてより庄田はこの世代の情報感度の高さを信頼し、世界のZ世代にアピールする仕掛けをしてきた。中でも「本物志向のZ世代が集まる場所」として2023年にオープンしたオニツカタイガー 銀座 イエローコンセプトストアは、その最たる例だ。

先鋭的なデザインが売りのイエローコレクションを専門に取り扱う同店舗。そこに並ぶアイテムの平均単価は、5万円を超える。しかし、ブランドの世界観を伝えるビビッドなイエローを基調にした店舗のエクステリア、インテリアをはじめ、高品質な商品とその背景にあるストーリーや歴史を通してブランドの真価を味わえることから、世界からZ世代が来店している。

オニツカタイガー 銀座 イエローコンセプトストア。ハイブランドが軒を連ねる銀座5丁目の一等地に位置し、インバウンド客で賑わう光景はお馴染み
オニツカタイガー 銀座 イエローコンセプトストア。ハイブランドが軒を連ねる銀座5丁目の一等地に位置し、インバウンド客で賑わう光景はお馴染み

市場調査・コンサルティング会社のカンター(Kantar)は、「これまでの贅沢品においては職人技や伝統が讃えられてきたが、Z世代をはじめとする若年層はそれらに存在意義や自らと共通する価値観などが組み合わされることを求めている」と分析(※)。若年層はデジタルネイティブだからこそ、広告やマーケティングの誇大表現や嘘に敏感であり、ブランドの背景を重視する。真のラグジュアリーブランドとは、「モノ」ではなくその「価値観」で体現されるもの。庄田がこれまでに打ってきた戦術、そしてOIFの聖地化はこうした意識を反映している。

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文= 本田賢一朗 編集=大柏真佑実 撮影=西川節子

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