──投資対象として注目しているのはどの分野か。
水本:チャンスがあると考えているのは、バリュー株です。特に数が増えるのはSaaSでしょう。2021年頃のSaaSスタートアップのバリュエーションは割高とされていましたが、Anthropicが発表した「Claude Cowork」の登場によって「SaaSは崩壊する」とも言われています。しかし、私はSaaSがすぐに消えるとは考えていません。売り上げが前回のラウンドから数倍になっているのにバリュエーションは変わらないという企業が、これから1年ほどで増えてくると予想しています。これらは、バリュー株として十分に投資価値があると見ています。
これまでは、シードからシリーズA、シリーズBとステージが進んでいくなかでバリュエーションの伸び率は落ちていくのが一般的でしたが、ようやくミドル以降の投資であっても、投資回収ができるチャンスが出てきたと感じています。
マルチプルマジックを狙った再編が進む
──2025年12月に、東京大学協創プラットフォーム開発を離れてアント・イノベーションズを設立した。狙いは。
水本:PEとVCの中間という立ち位置で、VC業界の常識に縛られない投資をしていきます。その一つ目の投資戦略が、バリュー投資です。
セカンダリーとして既存株主から株を割安に買い取ることに加えて、プライマリーでも投資をし、IPOをさせる。または、SaaSでは1つのプロダクトで大きな売り上げを立てることは難しくなっているので、場合によってはマジョリティ投資をして、別の機能を持った会社同士を経営統合させ、LayerXに象徴されるようなマルチプロダクト展開のスタートアップに進化させていく。こうした再編支援も行いながら大型上場できるスタートアップを育成していこうと思っています。
業界再編という点では、水面下で興味深い動きが進んでいます。これはバリュー投資ではなく、ディープテック領域で増えてきた現象なのですが、マルチプル(企業価値評価倍率)が高いスタートアップが、マルチプルが低い中小企業を買収するケースです。例えば、ゲノム編集技術を持ったスタートアップが種子メーカーを買う、遠隔医療に取り組む会社が町の病院を買うなど。中小企業は後継者問題もあって非常に安価で売り出されているケースが多い。
ここでのポイントは、マルチプルが低い企業の利益を、マルチプルが高い企業の基準で掛け算すれば、企業価値が劇的に上がるという「マジック」があることです。特にディープテック企業は今高いバリュエーションがついてるので企業価値向上に有効です。VCにとっても、一企業単体でバリュエーションを10倍、20倍に引き上げるのが難しい環境下でも、このマジックによって企業価値の非連続的な拡大を設計できるということです。
まだ広く公表されていませんが、この動きは加速していきそうです。ただし、これを実行するにはファイナンスやM&Aを理解している経営者でなければ難しいですね。


