企業のリーダーたちが抱えているのは、戦略の問題ではない。スピードの問題である。
テクノロジーが絶え間なく変化し、従業員の期待が高まり、経済的プレッシャーが増す世界において、真の課題は何をすべきか決めることではなく、組織を実際に素早く動かすことにある。
そして、多くの組織は動けていない。
Aonによるグローバル調査によると、C-suite(経営幹部)の72%が「重大なグローバルリスクに対応するために自社は十分なスピードで動けていない」と考えている。これは能力の不足ではなく、実行の不足である。
この問題は、貸借対照表に整然と表れることはほとんどない。意思決定の遅れ、重複作業、懸命に働いていても必ずしも連携できていないチーム、1つのタスクを終えるために5つのシステムをクリックして回る従業員などとして表れる。個々は些細に見えるが、積み重なると足かせとなり、組織に「摩擦」を生む。そしてそれは、今日のCEOが直面する最大級のリスクの1つへと静かに変貌してしまった。
もはや、現場のオペレーション上の不便として委任できる話ではない。これはリーダーシップの課題であり、そしてますますCIOの課題になっている。なぜなら、業務の進め方を支えるアーキテクチャが、戦略が行動へ転換される速さを直接決定するようになったからだ。
摩擦が現代企業のスピードを鈍らせる理由
摩擦は、たいてい1つの劇的な失敗から生まれるのではない。ゆっくりと蓄積していく。
時間の経過とともに企業は、数百、時に数千のアプリケーションを導入してきた。それぞれは特定の問題を解決するが、全体としては複雑性を生む。従業員はツールを行き来し、文脈が失われ、仕事が繰り返される。
そこにいまAIが加わりつつある。従業員は複数のシステムでコパイロット(AIアシスタント)を使っているが、多くの場合、それらのツール同士は連携しない。明確さを得るどころか、企業が手にするのはより多くのノイズである。加速どころか、機械速度で断片化が進む。
さらに、機能別のサイロや画一的な社内コミュニケーションが全員を同じように扱うため、組織全体で足並みを揃えることがますます難しくなっている。
Unilyの調査によれば、現場で働く従業員が重要な社内アップデートを受け取るまでに待つ時間は平均4.5日に上り、結果として年間800億ドル以上の生産性損失につながっている。一方、Unilyの「デジタルノイズ」調査では、従業員の59%が「デジタルツールが職場のストレスを増やしている」と答え、ほぼ半数が30分以内ごとに通知によって作業を中断されている。
人々が意味のある仕事をするよりも、システムを操作して回ることに時間を費やすようになると、摩擦は単なる煩わしさではなく、構造的な問題になる。
AIが従業員体験をリセットする
AIは、企業のテクノロジー資産がすでに過負荷で断片化しているタイミングで到来している。
CIOにとって本当の課題は、AIを導入することではない。AIがまた別の複雑性の層にならないようにすることだ。
筆者の会社であるProsper Insights & Analyticsの最新調査によれば、経営幹部と事業オーナーの61%が、エージェンティックAI(自律的に判断・行動するAI)という言葉を「聞いたことがない」と回答している。
それでも30%は「変革的になり得る」と考えている。このギャップは、よくあるリスクを浮き彫りにする。熱意がアーキテクチャの準備状況を上回る、ということだ。
「多くの組織が、表層的なレベルでAIを試している」と語るのは、AI搭載のデジタル従業員体験プラットフォームを手がけるUnilyのCEO、ロクディープ・シン氏だ。「しかし、断片化したシステムの上にAIを重ねても、既存の摩擦を加速させるだけだ。本当の機会は、体験がどのように設計され、管理されるべきかを、根本からリセットして再考することにある」
この違いは重要であり、AI活用型組織とAIネイティブ組織を分けるものだ。多くの組織が採用しているのは「AI活用型」と呼べるツール、すなわち既存システムの中でタスクを自動化する機能である。一方で、デジタル環境が動作する仕組みそのものにインテリジェンスを組み込み、従業員が最高の仕事をできるようにする「AIネイティブ」なアプローチへとシフトが起きている。
実務的に言えば、手作業の検索が減り、反復的な承認が減り、分断されたアップデートが減るということだ。従業員が必要なものを探し回らなくても、各人に必要な情報を先回りして提示し、迅速に行動できるシステムを意味する。AIネイティブのアプローチは、従業員体験の設計・提供・測定の仕方にインテリジェンスを埋め込み、情報をノイズではなくアクションへと変えていく。
McKinseyの「State of AI」調査もこれを裏づける。生成AIによる最大の財務的リターンは、新しいツールを単に付け足すことではなく、ワークフローを再設計したときに生まれる。
その再設計には、サイロ内の自動化を超える何かが必要だ。サイロをまたぐオーケストレーション(統合的な調整・連携)である。
インテリジェンスレイヤーの必要性
組織が成長するにつれ、デジタルの摩擦はほぼ自動的に増えていく。仕事はより多くのツール、より多くのシステム、より多くのチャネルに分散し、チームは調整とコンテキストの切り替えに時間を奪われる。仕事は難しくなる。
統合されたデジタルワークプレイス(職場環境)とは、ベンダーの統廃合の話ではない。整合性の話である。
「人々が『真実にたどり着く場所』を理解し、その瞬間に何が重要かを把握し、システムの迷路をさまよわずに行動できるとき、組織はより速く動ける」とシン氏は言う。「複数のチャネルにアップデートをばらまくよりも、優先事項と仕事のための単一で信頼できる体験レイヤーをつくる方が、はるかに効果的だ」
Unilyが名付けた「組織の速度(organizational velocity)」とは、事業のあらゆるレベルから摩擦を取り除きながら、規模を保ったまま迅速に適応し、整列し、実行する能力である。これを得ることはツールを増やすことではない。従業員が「どこへ行くべきか」「何を信頼すべきか」「どう行動すべきか」について下す判断の数を減らすことで生み出される。
CEOはいかにして真に摩擦のない企業を築けるか
いまの環境において、摩擦は中立ではない。勢いを鈍らせ、足並みを弱め、あらゆるテクノロジー投資のリターンを静かにむしばむ。
次の10年を勝ち抜く企業は、どれだけAIを導入したかでは定義されない。それをどれほど意図的に統治し、その周辺システムから摩擦を取り除けたかで定義される。
卓越した企業は、従業員体験をカルチャー施策としてではなく、戦略・テクノロジー・実行をつなぐオペレーティングレイヤーとして扱うだろう。断片化したシステムとエージェントの上位に位置する、AIネイティブなインテリジェンスレイヤーを設計し、ポリシー順守、監査、デジタルツールの棚卸しと合理化(使われ、役に立つ状態を確保するため)、人とワークフローの双方における継続的なフィードバックの構築、情報が直接アクションにつながるような設計などを実現することは、CEOが下す最も重要なアーキテクチャ上の意思決定の1つになる可能性がある。
開示:上記で言及した消費者センチメント調査は、筆者の会社であるProsper Insights & Analyticsが実施した。これは全米小売業協会(National Retail Federation)が使用しているものと同一のデータセットであり、経済ベンチマーキングのためにAmazon Web Services、Bloomberg、London Stock Exchange Groupから利用可能である。



