サイエンス

2026.03.17 18:00

なぜアイスクリームを食べると頭痛が起きる? その原因は進化生物学上のメカニズム

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「アイスクリーム頭痛」の原因は

『Brain Research Bulletin』に掲載された2003年の研究によれば、アイスクリーム頭痛の第一の説明は、頭部への血流の変化に関係しているという。もっと詳しく言えば、口蓋が冷たさに襲われると、それが引き金になって、頭蓋領域の血管が反射的に拡張する。この拡張の狙いは、血流を増やして温度を安定させることにある。

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平常の温度のときには、脳の血流は、脳循環調節機能と呼ばれるプロセスを通じて厳密に調節されている。この機能により、脳の血管を拡張したり収縮させたりして、安定した血流を維持できるのだ。だが、ごく唐突で強烈な冷たさの信号が生じると、その調節が一時的に乱れることがある。

同論文の著者らによれば、最初の寒冷刺激により血管が急激に収縮したあと、それを補うために、ほぼ即座に拡張が生じるという。この反動としての拡張は、とりわけ髄膜(脳を覆う膜)の血管で強く生じることがある。そして髄膜には、痛みを感知する三叉神経線維がたくさん分布している。

その結果、冷たいものを飲食したり吸いこんだりすると、額、こめかみ、目のうしろを発生源のように感じる、一時的だが強烈な頭痛が起きるのだ。この一連の流れ、つまり、寒冷刺激から神経反射、血管の変化、そして痛みの感知へという流れは、関連痛(痛みの刺激の源とは離れた場所で痛みを感じること)が生じる別の状況で見られるパターンと合致している。

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だが、片頭痛や緊張性頭痛とは異なり、アイスクリーム頭痛はごく短い。痛みのピークはたいてい、刺激を受けてから10~20秒くらいで、1分か2分もすれば収まる。この短さは、基礎にある反射弓の速度を反映している。

寒冷刺激が取り除かれたり消えたりすると、温度受容体は高速での発火をやめ、血管が通常の調子に戻る。痛みに関わる神経系の回路も、すぐに反応を停止する。そのおかげで、長続きする病理学的なプロセスではなく、自然に収まるつかの間の防御反射で済む、というわけだ。

進化と「アイスクリーム頭痛」

進化という観点から見ると、アイスクリーム頭痛の裏にあるような「痛みを伴う反射」は、害となるおそれのある環境条件を感じとり、それに反応する上で役立つ幅広い感覚適応の一部と言える。

『Philosophical Transactions of the Royal Society B』に掲載された2019年の研究が指摘するように、痛みなど身体に害のある刺激(侵害刺激)を検知する神経の仕組み「侵害受容(nociception)」は、さまざまな動物種の進化の過程を通して、原始的な形が保存されている。こうした仕組みは、自然選択によって形作られてきたと見られる。というのも、組織が損傷を受けるのを避ける動機になり、生存の可能性を高める行動を促進するからだ。

同研究が強調しているところによれば、急性の痛みに関わるシステム(極端な低温に対する反応を含む)は、「なんらかの環境要因によって身体の安全が脅かされている」と警告するはたらきを通じて、自然選択上の利点となった可能性が高いという。そしてそのシステムがあれば、深刻な害が生じる前に行動をやめたり修正したりすることも可能になる。例えば、有害な温度に長々と身をさらすような結果にならずに済むということだ。

こうした、「煙探知器」のように痛みを検知する原理は、たとえ一過性で取るに足らないように思える「痛みの反射的反応」であっても、危険を早期に感知するコストが、それをまったく感知しなかった場合のコストよりもはるかに小さいのであれば、生存に有利に働きうることを示唆している。

温度変化そのものを感知する能力は、重要な防御メカニズムとして、進化を通じて脊椎動物で広く保存されてきた。温度感知の基礎をなす分子的・神経的な機序は、高度に特化した受容体に頼っており、これらが、無害な刺激と痛みを伴う温度刺激の両方を神経系へと伝えている。

そんなわけでアイスクリーム頭痛は、われわれにすれば一過性で害のない現象ではあるが、その根底にある反射作用は、急性の温度ストレスによる害を最小限に抑えるという、太古からある生物の重要課題を反映している。そしてこの仕組みは、アイスクリームを食べるといった、進化の過程では存在していなかった状況であっても働くのだ。

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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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