当初、ハイアートの世界は機械学習と一定の距離を保っていた。AIという発想そのものに反するものに見えた、という向きもある。だが今やAIは、美術館、ギャラリー、そしてアーティスト自身がビジネスを行うあり方を変えつつある。AIはキュレーションの実務に用いられ、アーティストの創造的地平を広げ、市場のダイナミクスを変化させている。さらに、人々がアートと関わる方法そのものも、AIによって書き換えられつつある。
一方で、創造性と著作者性をめぐる根源的な問いが、水面下で燃え続けている。「技術的系譜(technical lineage)」という言葉が、美術館やギャラリー、オークションの語彙に入り込んだ。来歴(プロヴェナンス)を透明性高く証明するためには、作品がどのように、そして誰によって制作されたのかを評価者が判断できるよう、メタデータを利用可能にする必要がある。こうした新たな課題に対応するため、アーティストにコンテンツ認証情報を提供する企業さえ現れている。
私自身もアートコレクターであり、アート財団の会長として、これらの動きを注意深く追ってきた。AIはハイアートの世界に大きな可能性と大きな利益をもたらし得る一方で、大きな頭痛の種となり得るとも考えている。
生成AIのメリットとデメリット
アート市場は現在、指数関数的な成長局面にある。その原動力となっているのが、生成AIが持つ数兆ドル規模の可能性だ。この変化に伴い、アートビジネスの従来モデルも進化している。AIは高品質な作品を迅速に生み出すことを可能にし、その結果「希少性」という概念は完全に覆された。これにより、ギャラリーやオークションハウスは、価値の維持、アルゴリズムの権利、モデル依存型アートの長期的な存続可能性をめぐる新たな力学に直面している。
前述の所有権をめぐる問題もあり、厳格なメタデータ、著作者開示、来歴基準が求められるようになった。コレクターや批評家は、購入または評価している作品がどのように制作されたのかを知りたがっている。どのモデル、データセット、そして人間の入力が用いられたのかを知りたいのだ。そのため、説明責任を確保し意図を明確にするべく、新たなラベリング要件やブロックチェーンベースのシステムに目を向けている。AIアート作品を「誰が」制作したのかを特定することは複雑で、独創性に関する考え方に挑戦するものでもある。
さらにAIそのものの性質がある。AIは膨大なスクレイピングされたデータセットに依存しており、AIアートの世界では著作権、作風の流用、フェアユースをめぐる懸念を引き起こしている。係争中の訴訟では、アーティストが、自身の作品とアイデンティティが同意なく搾取されており、それが技能、労働、そして生計を損なうと主張してきた。こうした訴訟の判断は、おそらく所有権、報酬、そして許容されるデータセット構築をめぐる将来の規範を左右することになるだろう。法的環境はなお定義途上で、確定したものは何もないが、多くのプラットフォームはこうした批判を受け、AIによる応募を制限する判断を下している。
批判は独創性や著作者性にのみ集中しているわけではない。大規模モデルの学習には相当のエネルギーが必要であり、これはアート界で高まりつつあるサステナビリティ重視の姿勢と矛盾する。アーティストや機関は、AIの創造的な便益と、そのカーボンフットプリントを天秤にかけなければならない。総じて、AIアートは活況を呈するビジネスとなる見込みである一方、重大な問題を抱え、批判者も多い。
アーティストが将来AIを活用できる可能性
この混迷から抜け出す有望な道筋の1つが、「アトリエ型」のオープンな小規模AIモデルの台頭である。これらはアーティストが所有する小さなモデルで、個人またはキュレーションされたデータセットで学習される。個別化された創造エンジンとして機能し、AIで制作されたアートの真正性と来歴を高める助けになると同時に、結果に対するアーティストのコントロールも強める。
AIは鑑賞者、環境、ライブデータに反応する作品を支えることができるため、没入感があり複雑な体験を生み出す可能性がある。こうした新しいタイプのアートは、間違いなくコレクターやブランド、エンターテインメント業界の注目を集めるだろう。特徴は、常に変化し、常に進化する点にある。あるアーティストのコンセプチュアルな傑作は、AIの助けによって秒単位で更新され得る。
ハイアートにおけるAIの潜在的な活用例は他にも多い。例えばAIは、損傷した、あるいは未完の絵画を再構成するために利用できる。またポール・マッカートニーは、2023年にリリースされたビートルズの楽曲「Now and Then」で、AIを使ってジョン・レノンのボーカルを復元した。美術館でも、作品のケアを改善するために、AIを用いて作品の変化を検知する取り組みが進んでいる。AIは今後も、価格の算定、リスク管理、評価の精緻化において、コレクターや機関を支援し続けるだろう。こうしたプロセスはより良く記録できるようになり、アーティストとの契約でさえ、AIとブロックチェーンによる検証に依拠する可能性がある。
AIがハイアートでその潜在力を発揮するために最も必要なのは、データの出所、帰属、報酬、環境影響を包含する透明性のある実務である。これらの課題にいま能動的に向き合う者こそが、やがてこの進化する分野における信頼されるリーダーとして台頭すると、私は考えている。



