国内

2026.03.06 13:15

AI普及時代の差別化戦略 日本らしさが価値を生む|Akatsuki Ventures 石倉壱彦

2026年、日本のスタートアップシーンは新たなフェーズに突入した。政府の「スタートアップ育成5か年計画」が折り返しを迎え、起業家の層を厚くする段階から、実際に社会へインパクトを与え、企業価値の大きなプレイヤーを創出するという、「縦」の成長を追求する段階へと移行したのだ。

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では、今年のスタートアップ・エコシステムはどう変化していくのか。2026年版「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」で3位に輝き、4月16日に開催する「RISING STAR AWARD 2026」で審査員を務める、Akatsuki Ventures代表取締役の石倉壱彦氏に話を聞いた。

お金の「配られ方」に変化

──2025年の振り返りからお聞きします。スタートアップを取り巻く環境をどうご覧になりましたか。

石倉:資金調達総額自体は、2〜33〜4年前のピーク時と比べれば減ったものの、極端な落ち込みではありません。最大の変化はお金の「配られ方」です。集まるところには集まるが、そうでないところはかなり苦しい。これが2025年の最も鮮明な特徴でした。一方で、エクイティでの調達が厳しくなったぶん、スタートアップ向けのデットファイナンスに積極的な金融機関が増えていて、資金調達の選択肢自体は広がっています。

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IPOに目を向けると、東証がグロース市場の上場維持基準を「上場5年後に時価総額100億円以上」へ引き上げる方針を打ち出したこともあり、件数は減少傾向です。量より質が問われる時代に入りました。大型調達で先行投資を続けられる一部のプレーヤーを除けば、早い段階から収益の再現性を示すこと、ユニットエコノミクス(顧客一人あたりの採算)をしっかり改善すること。そうした足腰の強さが求められるようになっています。

注目が集まるAI系企業においても、資金が集まるスタートアップの傾向は変わってきています。AIだけを使って事業をするのではなく、AIと既存のサービスを掛け合わせて体験を進化させている企業に資金が集中している印象です。投資先のLayerXなどはまさにその流れのなかにいます。ただ、こうした領域は海外の巨大プレーヤーとも正面からぶつかるため、グローバルとの競争はよりシビアになっています。かつてスマートフォン向けサービスでGAFAに敗れたとき以上に、AIの領域ではグローバルプレーヤーの力が強い。AIでいかに独自の顧客体験を作れるかが問われています。

AIだけでなく、リアルな産業に根ざしたビジネスにも注目しています。日本の自然や建築技術をいかしてシェア別荘を展開するNOT A HOTELやSANUのように、海外プレーヤーにはできない日本独自の戦い方で勝てるリアルビジネスを展開する企業は、大型の調達にも成功しています。

もう一つの潮流が、ロールアップ型、つまりM&Aを積み重ねて事業を拡大していく成長モデルです。SHIFTやGENDAのように上場後のM&Aで大きく成長した成功事例が出てきたことで、同様の戦略を志向するスタートアップにも資金が向かい始めています。

--{上場企業にとってM&Aの絶好の機会}--

上場企業にとってM&Aの絶好の機会

──成長戦略としてIPO以外の選択肢が広がる中で、投資先企業や経営陣の意識に変化はありますか。

石倉:出口をIPO一本で考えない経営者は明らかに増えました。一昨年あたりから兆候はありましたが、ここ1〜2年で意識が決定的に変わったと感じています。
私たちアカツキも、2025年8月に、SNSマーケティングを主軸としたNateeという投資先を完全子会社化しました。ビジネスとしては成長しているけれど、今のIPO環境では上場のハードルが高い。そんな局面で、M&Aという次の選択肢を提示したケースです。

周囲を見ても、UPSIDERがみずほ銀行にM&Aされた件はビッグニュースでした。投資先のGreenspoonも江崎グリコとのM&Aを経て、急成長を続けています。yutoriもZOZOの傘下に入った後にグロース市場へ上場し、さらにそこからM&Aを積極展開して大きく伸びている。こうしてM&Aでグループインした後、大企業のなかで成長を加速させるケースが目に見えて増えています。

──スタートアップ側の変化を伺いましたが、お話があったようにアカツキはM&Aでスタートアップを迎える側です。M&Aは積極的にお考えですか?

石倉:上場企業の立場から言えば、スタートアップ側がM&Aにポジティブな今こそ絶好の機会です。ゼロから事業を一定規模まで作れる人材がグループインして次の成長の波を作ってくれるのは、上場企業にとって非常に大きな価値です。ただ、最大の課題はバリュエーションの目線が合わないことです。M&Aの相手となるスタートアップは、市場環境が上向いていた時期に資金調達をしていることが多い。IPOを前提に設計されたバリュエーションと、M&Aの買い手から見た水準との間にはかなりの開きがあるのが実情です。

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文=加藤智朗 編集=露原直人

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