「殺人」の末にたどり着く場所
パク・チャヌク監督は1963年の生まれで、韓国のソウル出身。韓国と北朝鮮を分断する国境警備線を舞台にした「JSA」(2000年)で、当時、韓国映画史上最高の興行成績を記録。監督としての地位を不動のものにした。ちなみに、この作品には若かりしイ・ビョンホンも出演している。
2003年には日本のコミックを原作にした復讐劇「オールド・ボーイ」で審査員特別グランプリ、「渇き」(2009年)で審査員賞、前述のように「別れる決心」で監督賞と、パク監督はカンヌ国際映画祭では3回の受賞を果たしており、「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督と並び、世界的名声も得ている。
「しあわせな選択」の原作は、1997年にアメリカの作家であるドナルド・E・ウェストレイクによって発表された小説「斧」(The Ax)。2005年に、「Z」(1969年)や「戒厳令」(1973年)などのポリティカル・サスペンスで有名なコスタ=ガヴラス監督によって、一度、映画化(「斧」(Le Couperet))されている。
その後、パク・チャヌク監督が映画化権を取得して、当初は原作と同様にアメリカを舞台にして映画化を試みたが実現せず、韓国に設定を移して製作。10数年の時を経て、当初の脚本も大幅に書き換え、原作とは趣の異なるパク・チャヌク色の濃い作品に仕上がっている。
今回の「しあわせな選択」では、パク・チャヌク監督は社会的な問題にも深く鋭く切り込んでいる。企業における非情なリストラ、斜陽産業とAIの関係、格差社会における家族の在り方など、考えさせられるテーマもふんだんに盛り込まれている。
パク・チャヌク監督は「現代の韓国における中産層の人生の最低ラインはどこなのか。どれくらい人生の営みを重ねたら、人間らしい人生と思えるのか。つまり、主人公が守りたいものは具体的に何なのか。観客が問うことのできる映画をつくりたかった」と語っている。
ちなみに主人公が働いていた製紙業界は、現代のデジタル社会のなかでは衰退をたどる産業とされている。その設定にもパク・チャヌク監督の文明論的視点が生かされており、主人公がクライマックスで「殺人」の末にたどり着く場所も実に象徴的に描かれている。
この結末が、果たして「しあわせな選択」なのかどうかは観てのお楽しみだ。


