邦題は「しあわせな選択」だが、英題は「NO OTHER CHOICE」。「他に選択がない」というような意味だが、製作された韓国での原題も後者に近い。
作品を観ると感じるのだが、邦題から受ける第一印象と英題のニュアンスはかなり異なる。両者は対極であり、ある意味で言えば邦題はシニカルなタイトルとも受け取れる。
なぜなら、語られる物語はけっして「しあわせ」ではなく、自らの就職活動を実らせるために、次々と「殺人」に手を染めていく中年男性が主人公だからだ。
監督は前作「別れる決心」(2022年)で第75回カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞したパク・チャヌク。ミステリアスなタッチの恋愛作品からは一転して、「しあわせな選択」ではリストラという悲劇に見舞われながらも、家族の長として満身で奮闘する主人公をブラックコメディとして描いている。
映画のなかへと引き込む秀逸な演技
物語はある家族のガーデンパーティーから始まる。一家の主であるマンス(イ・ビョンホン)は、郊外に建つ美しい家の広い庭で、妻の誕生日祝いとして会社から贈られたウナギを焼きながら、現在の豊かな暮らしに対して、「夢を叶えた」という充足感に満たされていた。
マンスの一家は、テニスやダンスを趣味としている妻のミリ(ソン・イェジン)と、彼女の連れ子である息子のシウォン(キム・ウスン)、そしてチェロの才能に恵まれた娘のリウォン(チェ・ソユル)の4人家族だ。血は繋がっていないものの、長男との仲も悪くない。
まさに幸せを絵に描いたような家族だったが、マンスに突然、悲劇が訪れる。彼はすでに25年も製紙会社に勤務していたのだが、会社が外資に買収されたため、優秀な管理職であったにもかかわらずリストラの対象となってしまう。
マンスは家族のため、再就職先を見つけることに奔走するが、スーパーマーケットのアルバイトくらいしか職を得られず、ようやく1年余りが経過して別の製紙会社の面接を受ける。しかし、緊張しすぎたせいで失敗してしまう。
以前の会社の退職金でなんとかぎりぎりの暮らしを続けていたが、そんな状況のなかで住宅ローンの督促状が届く。さらに娘のリウォンの才能を生かすためには、高額なレッスン料が必要であると知らされる。
困難に直面しておろおろと動揺するマンスだったが、妻のミリは気丈にも趣味をやめて、テニスで知り合った若い歯科医のもとで働くことに。そして彼女はマンスが愛着を抱いている自宅を手放すことをも提案する。



