リーダーシップ

2026.03.19 15:15

元総理通訳が糸島で「適応型リーダーシップ」展開の理由。外交と組織の意外な接点

黒川公晴氏(Learner's Learner代表、ミネルバ認定講師、元外務省所属外交官)

「余白」は感情に注目すれば手に入る

━━日本での展開なのに、なぜ英語で教える必要があったのでしょう。

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黒川:ミネルバはどうやったら人間の脳が情報を効率的に吸収し、記憶し、取り出せるかということを、神経科学や心理学、行動科学などのエビデンスベースで研究していて、それに基づいてカリキュラムやファシリテーション技法を緻密に設計しています。

ですが当時はミネルバも新しく、日本語化がまったくできていませんでした。教材も授業も全部英語で、ミネルバが実施する講師トレーニングも英語で受けなければ先生になれません。しばらくの間は英語で授業を行いましたが、裾野を広げるためにも少しずつプログラム全体を日本語化していきました。

その後、広く日本企業向けに展開しよう、ということでミネルバとパートナーシップを結び、本格的に日本語へのローカライズを進めていったのです。

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─今も英語でレクチャーすることはありますか。

黒川:たとえば日本のグローバルメーカーで、各国のVP(副社長級の幹部)を全員集めて、時差を調整しながらオンラインで英語で実施することはあります。また、ミネルバとは別に、日本人がグローバルの現場でリーダーシップを発揮するための「コミュニケーション」に特化したプログラムも立ち上げました。海外駐在者や海外とのやり取りが多い企業人向けに毎週英語でやっています。

━━リーダーシップ開発に取り組んできて、今、リーダーシップとは何だと考えていますか。

黒川:我々の定義は極めてシンプルで、「個人が自分以外の他者に対して与える前向きな影響力そのもの」です。人間は家庭、組織、社会と、他者と関わり合いながら生きている以上、自分の影響は意識してもしなくても及んでいく。そこに自分なりの意思と意図を込めて、前向きに他者に影響していくことそのもののことだと思っています。

具体的には、自分なりの価値観に基づいて世の中を見て、「これは問題だ」と自分で発見する。「もっとこうあったらいいのに」と理想を立てて、自分で打ち手を考えて、周りを巻き込みながら変化を作っていく。このプロセス全部がリーダーシップです。

この感覚は子どもの頃から養っていかなくてはいけないと考え、最近は私塾や公立小学校と提携してミネルバのメソッドを用いた教育も始めています。

物事をどう見るか、自分の感覚をどう言語化して問題を定義するか、友達を巻き込みながら理想に向けて変化を作ってみる─その感覚を絶やさずに成長していくことが大事だと思います。同時に、人生の先を行く我々大人がそういった「リーダーシップ」の実践を見せ続けなければいけない。だから企業向けのリーダーシップ開発も手がけている、というのが今やっていることの全体像です。

━━ミネルバの教育も「余白」も「プレイフル」も、すべてつながっているように感じます。ただ、忙しいビジネスパーソンにとって「余白を作る」のは難しいことです。どこを起点にすればいいのでしょうか。

黒川:まず物理的に時間を作ることは大事ですが、本質はもっと内的な話です。「内省」が重要ですね。どんなときに自分の感情は動くのか、自分の中にどんな無意識の当たり前─「パラダイム」─があり、それがどのように行動に影響しているのかに気づくことが、余白を見出す第一歩だと思います。

たとえば、「リスクを取りたくない、安定が大事」「結果さえ出していればあとはどうでもいい」というパラダイムで駆動されている人がいたとします。無意識に安全な方向に走り、利己的な選択を取り続ける。しかし、実はどこか息苦しい。そこで、その無意識の「当たり前」を探求し、受け容れていく中で、実は「冒険したい自分」もいるし、「人を助けたい自分」も同時にいるんだなと気づく。

ここが「余白」なんです。反射的に理屈をつけるのではなく、自分の行動パターンや根底にある当たり前に気づくことで、今までのパターンで行くのか、異なる自分を試してみるのかという「意図性と選択性」が生まれる。これは心の余白からしか生じません。

キーワードはやはり感情です。私たちは「感情を持ち込むのは未熟者」という教育をされてきていますが、感情に敏感にならないと、パターンに動かされ続けてしまう。自分で自分の行動を選んでいる感覚を持つためにも、感情を大切にした内観が大事なのではないでしょうか。

元総理通訳に聞いた要人の「口癖対策」と歴史の目撃、「通訳はファシリテート」の意味 に続く


黒川公晴(くろかわ・きみはる)◎Learner's Learner代表、ミネルバ認定講師。外務省所属の外交官としてワシントンDC、イスラエル/パレスチナに駐在。2013年に帰国後は安倍晋三、菅義偉元首相の英語通訳を務める。2018年独立以降、コンサルタントとして国内外の企業の組織・人材開発を支援。リーダーシップ育成、ビジョン・バリュー策定、カルチャー変革、学習型組織作り、事業開発等のサポートを行う。2021年からは米国ミネルバと事業提携し、日本企業向けのリーダーシップ開発プログラム「Managing Complexity」を展開、自身も講師を務める。著書に『総理の通訳が語る─世界で戦うための英語戦略』(ジャパン・タイムズ刊)、『ミネルバ式 最先端リーダーシップ 不確実な時代に成果を出し続けるリーダーの18の思考習慣』(ディスカバー・トゥエンティワン刊)。

文=加藤智朗 取材・構成=石井節子 撮影=曽川拓哉

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