経営・戦略

2026.03.18 10:15

マイクロソフトに『フリック入力』を売った発明家の「ビッグテックを本気にさせた」特許戦略

AdobeStock

「僕」は何を重視したか

さて、こういった条件下で、僕が重視したのは、

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・無視されない

・つぶされない

・節税

この3つでした。

まずは、有名な弁理士・弁護士・会計士とチームを組んで「無視されない」布陣を作りました。

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クローズド・オークションで──

そして、「つぶされない」ために僕が選んだのは、前述の選択肢のどちらでもない「C.売却」でした。

「B.ライセンス」を得るために「A.差し止め」の訴訟を起こせば、企業側が本気で「つぶし」に来ても不思議ではありません。

でも、「C.売却」すなわち、「僕の特許ですが、そちらに売ってもいいですよ」と言えば、自分のものになる特許をわざわざつぶしたくはないので、「では、解決はお金で」となり得ます。

もちろん、訴訟すれば、もっと巨額の富が得られるかもしれない。でも、「訴訟人生」を免れることはできないでしょう。

加えて、ここで「節税」対策になるのですが、日本では特許を個人で売ると、累進課税で最大50%を徴収されますが、会社ごと売ると、株の譲渡益課税で約20%ですみます。

なので、特許を会社ごと売るという形にしました。しかも、「クローズド・オークション」、つまり、複数の企業に買い価格を言ってもらい、その中の最高額、および最高条件で売却する「秘密入札」を選びました。

各社の反応

さて、各社の反応はどうだったでしょう?

A社:完全無視。

B社:「会社ごとはいらないので、特許だけ譲渡してほしい」

3社め、「会社ごと買います」と言ってくれたのがマイクロソフトでした。日本法人にある程度の権限があって、こちらの事情をちゃんと理解してくれたのです。「特許を売るためだけの会社」という説明も納得、信用してくれました。

なお、日本の会社も金額は提示してくれましたが、外国の会社に比べると少額でした。

B社のオファー(会社はいらない、特許だけ)も提示金額はよかったのですが、特許のみの譲渡だと税金が重くなるので、お断りしました。

また、これらは書面ですんなり決まったわけではなく、各社の会議室に呼び出され、アメリカ人の役員たちを相手に英語で、無効審判をチラつかせられたりしながらの冷や汗タラタラの駆け引きを何度かした後、決着したものです。

ということで、マイクロソフトに売却。一件落着です。

この件では、一つの特許に頼らず、周辺特許も数多く用意して「ポートフォリオ化」したのも勝因でした。このことによって、買い手に対して圧力をかけつつ、特許の価値を保持できたと思います。

このような経験を経て、今では様々な企業の顧問弁理士も行い、発明を生み出すところから権利化、マネタイズ、知財戦略、M&Aまで支援しているほか、小中高校、大学や企業で、講演会を行っています。


小川コータ(おがわ・こーた)◎発明家、弁理士、作曲家。弁理士法人IPX所属。慶應義塾大学法学部政治学科卒、2006年に弁理士登録。2009年、東京工業大学(現・東京科学大学)イノベーションマネジメント系研究科で技術経営の修士号を取得。AKB48、ももクロなどに楽曲提供、「小川コータ&とまそん」ボーカルとしてライブ活動も行う。著書に、発明を生み出すための思考法を小学生でもできるほどわかりやすく体系化した『発明で食っていく方法、全部書いた。(フリック入力をマイクロソフトに売却して人生100回分稼いだ発明家が明かす、発想法からマネタイズまで)』がある。高祖父の岩垂邦彦はNEC創業者。

書き起こし・構成・編集=石井節子

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