「進歩性」をどう主張するか
この拒絶理由に、どう対応するか。
ここで、発明家の脳から弁理士の脳にスイッチします。
一つの手法として、「AとBを組み合わせると、こんな特別な効果があるんです」と説明できれば進歩性を主張できる場合があります。
たとえば、ラジオとカセットを組み合わせたラジカセ。ただ組み合わせただけと考えると進歩性はありませんが、
・配線不要でラジオ音声をノイズなく録音できる
こうした効果を説明すると、「なるほど」と評価される可能性が少し出てくるかも知れません。
さらに、最初の特許出願の中に書いてある内容の中で権利を限定する形に補正することで、特許を取ることができる場合があります。上の例では、権利範囲を「タイマー付きラジカセ」に補正し、
・タイマーで番組を予約録音できる
という更なる効果を主張するのです。これでさらに少し可能性がアップします。
ただし、最初の出願に「タイマー」が書いていないと後から足せません。ここがとても重要です。
そんなわけで、特許出願には緻密さと計画性が求められます。僕も緻密に拒絶理由の対応をしていきました。

上の図は僕が出願した図面の一部です。右の図にポイントがあります。ガイド表示は十字に同じサイズの正方形が開いているのですが、当たり判定は起点からの距離と方向で行っています。これは現在のスマホのフリック入力に使われています。皆さん、使っていて気づいてないかもしれませんが、とても重要な技術なのです。
たとえば「に」を打つとき、「な」を最初に触る瞬間は見る必要がありますが、そこからシュッと左に指を動かすとき、ガイド表示を見ずに目をつぶっても打てます。
それに、早打ちしようとする時、「な」のど真ん中を触れるとは限りません。「な」の右下を触ってしまうかもしれない。でも、「に」を打つために左に動かす動きは、「に」のガイド表示に入る必要はないんです。
ぜひ、ご自身のスマホで試してみてください。「な」の右下から左に指を動かす時、「に」まで入らなくても「に」が入力されるはずです。
つまり、タッチするところは絶対座標、ガイド表示も絶対座標、しかし離すところは相対座標なんです。この工夫がないと早く打つことはできず、誤入力が続出して使い物にならないのです。
この部分に進歩性が認められ、特許を取得することができました。
その後、特許を「分割」しました。1つの特許に派生したアイディアを盛り込んで出願していたのですが、細かく見るとそれぞれ別の発明であると認められ、それらを独立して権利化するために分けたのです。

結果、10件以上の特許になりました。これらは後に各社のフリック入力に使われていました。これらをまとめて、後にマイクロソフトに譲渡することになります。
大学院では、フリック入力をどう権利化しマネタイズするか、そのビジネスモデルを修士論文としてまとめました。


