経営・戦略

2026.03.18 10:15

マイクロソフトに『フリック入力』を売った発明家の「ビッグテックを本気にさせた」特許戦略

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越えたかった「めんどくささの山」

さて、せっかく弁理士になったものの、クライアントの開発者はだいたい理系出身なので、「文系の弁理士はナメられるのでは」と、理系のバックグラウンドの必要性を感じ始めた頃……。東京工業大学(現在の東京科学大学)の大学院の二次募集がたまたまあったので、社会人入学の枠で滑り込みました。

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その後、携帯電話の文字入力を革新するアイディアに取り組んだのが2007年頃。その当時はスマホはなくガラケーの時代。多くの人は数字を何回も押す「押しボタン式」で文字を入力していました。

一方で、僕はポケベル入力という方法を使っていました。たとえば「25」と打つと「こ」になる。2回で文字が入力できるので、実はとても速い。でもこれは、覚えるのが面倒です。すなわち、覚える人が少ない → 使われない → 機能が搭載されない、という悪循環でした。多くの人は「めんどくささの山」を越えられないんだ、と痛感しました。

そんな中、当時すでに、 「そのうち電話と電子手帳が一体化した端末が出るだろう」という予想がありました。でも、今の文字入力方法のままの一体端末だったら使う気がしないと思ったんです。

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じゃあどうするか。自分で考えるしかない。

そこで、日本語の五十音を素早く入力でき、かつ「めんどくささの山」を越えやすい新しい入力方式を模索しました。

最初の試みは、従来の押しボタンの配置のなじみ深さを維持する、すなわち「スイッチングコストの低減」でした。つまり、ユーザーに違和感なく新しい入力法を受け入れてもらう工夫です。これが「フリック入力」の原型となります。

フリック入力の画面って、 「あ・か・さ」「た・な・は」と3×4で並んでいますよね。従来の入力方法と同じ配置です。

もし、いきなり全然違う並びだったら、その時点で使われません。

だから、見た目のなじみやすさを重視しました。そしてさらに、文字に触れば十字のガイド表示が出て、何をすれば良いか直感的にわかる。これらがスイッチングコストを下げる工夫でした。

このアイディアを、弁理士になった僕は2007年4月に自分で特許出願しました。就職した特許事務所の所長に相談したのですが、「全然使われない方法だと思うけど、練習になるから自分で書いてみたら」と言われたのです。大学院に入学したばかりの頃です。この頃はアメリカでもiPhoneはありません。もちろん「フリック入力」という言葉もありませんでした。

特許図面も全部自分で書きました。さらに、当時存在していたWindows Mobile(シャープ製のタッチパネルを備えた端末に搭載されていた)を使い、フリーソフトを作れる人に頼んでフリック入力のプロトタイプを作ってもらいました。

さて、特許審査では、まず新規性が見られます。「同じものがすでにある」と言われたらアウトです。

さらに厳しいのが進歩性。 「Aという技術とBという技術を組み合わせたら、あなたの発明はできてしまいますよね」と言われると、これもアウトです。

つまり、今までにないものでも、既存技術の組み合わせで思いつくなら特許は取れない。

要するに、かなりハードルが高い。特許出願の95%に拒絶理由が一度は届きます。フリック入力についても、進歩性を否定する拒絶理由が届きました。

次ページ > 「進歩性」をどう主張するか

書き起こし・構成・編集=石井節子

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