バイオテック向けのAIインフラ構築。がんをむさぼり食う細菌。コールドブリューを最適に作る方法。今週号の「The Prototype」では、それらを含む盛りだくさんの内容を届ける。受信ボックスで読みたい人は、こちらから登録を。
大学、バイオテック企業、大手製薬会社の研究室を問わず、AIモデルは創薬に新たな可能性をもたらしている。
ただし、そうしたモデルの利用はチャットボットを使うほど単純ではない。タンパク質構造の予測、化学反応の最適化、あるいは新薬研究に関わる無数の作業など、モデルは一般に異なるタスクに合わせて調整されている。さらに多くの場合、追加のトレーニングが必要で、機械学習に関する一定の高度さも求められるが、多くの生物学者にはその素養が欠けている。
そこで登場するのがTamarind Bioだ。同社は、科学者が複数の機械学習モデルをシームレスに使えるようにするソフトウェア基盤を構築した。イメージとしてはWindowsのようなOSであり、科学者は各モデルを「別のアプリケーション」として扱える。さらにこのプラットフォームは、研究者がワークフローをプログラムし、自身のデータでモデルを学習させ、さらには自分たちの研究室に統合して、発見を検証する実験を行うことまで可能にする。
共同創業者のDeniz Kaviによれば、同社のソフトウェアは科学者がAIを「インフラ側や配管(plumbing)のこと、あるいは日々向き合う必要のない煩雑なソフトウェア作業を気にせずに」使えるようにする。
科学者がAIの面倒事に関わりたくない——それがTamarindの起源だ。最初のソフトウェアは、Kaviが共同創業者のSherry Liuとともに、スタンフォード大学の自分たちの研究室向けに手がけたプロジェクトだった。研究室の同僚がAIツールを使いやすくすることが狙いで、「要するに、私たちが使っていたいくつかのモデルを動かすためのウェブサイトだった」と彼は言う。「それが口コミだけで広まっていった」
関心の流入を受け、KaviとLiuは2年前にTamarindを創業した。同社はY Combinatorでインキュベートされ、そして本日、1200万ドル(約18億円)のシリーズA資金調達を行ったと発表した。これにより累計調達額は1360万ドル(約20億円)となった。Kaviは、Tamarind Bioは創業当初からほぼキャッシュフローがプラスであり、実のところ資金はさほど必要としていないと語る。世界各地のアカデミックな研究室だけでなく、Boehringer Ingelheim、Bayer、Mammoth Biosciences、Adimabといった製薬・バイオテック企業の研究室でも利用されているためだ。
とはいえ同社は投資家の関心を追い風に、現在12人の人員を倍増させ、ソフトウェアの改良を進めるとともに、直近1年で700%に達した成長への対応も図る計画だ。
シリーズAを主導したベンチャーキャピタルDimension Capitalの投資家Nan Liは、この成長指標で最も注目すべき点は、営業スタッフなしで達成されたことだと言う。「プロダクトが圧倒的に優れているから伸びているのであって、大量のベンチャー資金を調達したからでも、著名すぎる創業者がいるからでもない会社の物語だ」と彼は私に語った。
Liは現時点でTamarindの有力な挑戦者は見当たらないと見ている。最大の競合は、バイオテック企業がモデル運用のために自社内で構築しているソフトウェアだという。だがそれも脅威ではない。そうした「自家製版は脆い」ため、いずれTamarindの解決策への需要が生まれると彼は言う。
Kaviにとっては競争よりも、同社のツールによって新しい治療法や医薬品に取り組む科学者が何を実現できるかのほうが重要だ。彼は「ヒト臨床試験の前に、あらゆる計算が行われる単一の場所になりたい」と語る。
今週の発見:がんを食べる細菌をプログラムする
ウォータールー大学の研究により、土壌細菌が一部のがん治療の鍵になる可能性が示された。
Clostridium sporogenes(クロストリジウム・スポロゲネス)と呼ばれる細菌種にとって、腫瘍の中心部は増殖に理想的な場所だ。腫瘍には細菌が食べられる死細胞が多く、中心部は無酸素空間である。酸素はクロストリジウムを死滅させるため、これは好都合である。だが細菌が中心部から離れるほど酸素に曝されやすくなり、がんを完全に一掃する前に死んでしまう可能性が高まる。
朗報は、研究者がクロストリジウムの系統を遺伝子工学的に改変し、酸素が豊富な環境でも生存できるようにして、腫瘍細胞を食べ続けられるようにしたことだ。やや問題なのは、患者に治療として細菌を投与した際、意図せず別の部位に入り込むと感染症につながり得る点である。
この問題を解決するため、研究者は第2のバッチに、腫瘍内で増殖を開始して初めて酸素耐性遺伝子がオンになる遺伝子の「安全スイッチ」を搭載した。さらに、このスイッチの検証として、酸素耐性遺伝子ではなく蛍光タンパク質を生成するように組み込んでテストした。
次のステップとして研究チームは、2つの遺伝子を1つの菌株に組み合わせ、がん細胞に対する試験を開始する計画だ。期待どおり、腫瘍に対して致死的であるかどうかを確かめる。
軍事AIの信頼性はどこまでか?
国防長官Pete Hegsethは、AI大手Anthropicに対し、国防総省が求める「同社ソフトウェアをあらゆる合法目的に使用できるようにすること」に従うよう金曜までの期限を設けた。現状、Anthropicは自社モデルの自律型戦争や国内監視への利用を認めていない。
Anthropicが今週行った安全方針の変更では、同社として現実的に単独で実行できることと、業界や政府の合意が必要なことを切り分ける必要があると述べた。また、AIはいま「反規制的な政治環境」のもとで開発されており、「AI競争力と経済成長が優先され、安全重視の議論は連邦レベルで有意な推進力を得ていない」と主張した。
軍事用途に関してAIモデルの現時点の信頼性を考えると、厳しい現実に直面する。とりわけ国防総省(DOD)が、私に「朝食にトーストへバニラ味のギリシャヨーグルトを厚塗りして卵をのせろ」と勧めてきたのと同じモデルを使っていることを思えばなおさらだ(最悪だ)。今週はさらに、MetaのAI安全責任者が、暴走したAIエージェントによってメール受信箱を丸ごと失ったという一件も起きた。これは、緊迫した戦闘状況——あるいは機微な計画策定の場面でAIを使うことへの信頼を高めるどころではない。
状況はさらに悪い。今週、プレプリントサーバーArXivに公開された論文で、キングス・カレッジ・ロンドンの研究者は、主要AIモデル同士を模擬戦のウォーゲームで競わせた。結果はどうだったか。人間よりはるかに攻撃的だったのである。絶望的な状況でも降伏しにくいだけでなく、緊張緩和もほとんどしなかった。ゲームの95%で、モデルは核兵器に訴えた。(誰か至急、三目並べで学習させてくれ。)
現代のAIシステムが驚異的なツールになり得ることは確かだ。だが適切に使うには、強固なガードレールと厳格なガバナンスが不可欠である。とりわけ生死に関わる場面ではなおさらだ。そして現時点では、国防総省——そして他の多くの組織——がそれをどう実現するつもりなのかは、まったく明確ではない。
ホットテイク:投資家は医療AIがスケールすると当たり前のように考えている
毎週、投資家に各業界のトレンドについて見解を聞いている。今回は、低侵襲医療に注力するヘルスケア・スタートアップへ投資するIntuitive VenturesのシニアパートナーTerri Burkeの考えを紹介する。
いま過剰にあおられているものは?
ヘルスケア経済から乖離したヘルステックのバリュエーションだ。AIが付いているものは何であれ、保険での支払い獲得、臨床ワークフローへの統合、そしてパイロット顧客(その90%はスケールしない)を超えた拡大といった、医療の複雑な現実をうまく乗り越えられるという前提が置かれている。
いまもっと語られるべきことは?
冠微小血管機能障害である。これは胸痛や、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の主要因で、数百万人に影響する一方で、実質的に治療法がない。私たちの投資先であるVahaticorは、この疾患を新たな方法で理解し、治療するための臨床試験を進めている。
5年後、私たちは何について話しているか?
ケアが行われる場所だ。病院から外来へというシフトは劇的に加速する。単純な処置にとどまらず、いまは病院が必要だと考えられている複雑な介入も含まれる。経済性がこの移行を強いる。医療は、すべてを病院ベースで提供することを負担できず、患者も病院にいたくないからだ。5年後、外来センターでどこまでできるようになっているかに、私たちは驚くはずである。
注目トピック
自動運転ソフトウェア:英国企業Wayveは、事業拡大に向けて15億ドル(約2200億円)の投資を調達した。同社は、さまざまな車両に組み込める「プラグアンドプレイ」の自動運転ソフトウェアを開発しており、自社で車両フリートを構築する必要がない。この戦略は「最もスケーラブルなビジネスモデルだ」と、同社CEOは同僚のAlan Ohnsmanに語っている。
次世代データセンター:Microsoftは、データセンターの銅配線の代わりに超電導体を使うことを検討している。実現すれば電力要件を低減できる。(潜在的な効果は大きいが、冷却のため液体窒素が必要になる。)一方、スタートアップのSophia Spaceは、宇宙にデータセンターを構築する取り組みで1000万ドル(約15億円)を調達した。同社は、宇宙での計算における最大の課題の1つ——熱を逃がすこと——を解決できるシステムを開発したとしている。
プロのサイエンス・ティップ:コールドブリューは一晩かけなくても作れる
自家製でコールドブリューを作るなら、目安として16〜18時間ほど浸すというルールを知っているだろう。だが科学が示すところでは、そこまで時間は要らない。すべては挽き目のサイズ次第だ。最近の研究によれば、極めて細かく(30メッシュ)挽けば、約6時間で豆からの抽出を最大化できる。ただし化学的に優れていることが、常に風味の良さを意味するわけではない。研究者が最もおいしいとしたのは、20メッシュで約8時間抽出したものだった。それでも良い知らせだ。就寝直前に仕込み、朝には飲めるということになる。
今週、私を楽しませているもの
いま読んでいるのは、Operation Bounce House。著者はMatt Dinnimanで、Dungeon Crawler Carlシリーズの作者でもある。前提はかなりシンプルだ。SFの未来、傭兵会社が地球政府に雇われ、植民地惑星の住民を立ち退かせる。その方法は何か。遠隔操作で巨大ロボットを動かし、「テロリスト」を殺す機会を人々に購入させるのだ。さらに(もちろん有料で)カスタマイズの追加オプションも用意されている。最近のツアーでDinnimanに会った際、彼はCall of Dutyのロビーで口汚く罵り合うティーンエイジャーたちに着想を得たと語っていた。読み進めたのはまだ半分強だが、止められない。笑える一方で陰鬱で、そして非常にタイムリーでもある。



