経営・戦略

2026.03.04 18:57

価値に基づく価格設定──SaaS企業が知るべき戦略とは

AdobeStock

AdobeStock

市場のリーダーには強い価格決定力がある。ロレックスの腕時計の価格は、製造コストだけでなく、プレミアムブランドとしての製品ポジションに大きく左右される。だが、それがすべてではない。

advertisement

すべてのスタートアップ創業者やCEOは、エンドユーザーにとっての知覚価値という観点で考えるべきである。実際のところ、バリューベース・プライシングとは、提供する価値に比例した価格設定を行うことだ。これは測定可能で差別化された価値を創出するあらゆる企業、特にSaaS(Software as a Service)製品に当てはまる。

バリューベース・プライシングとは何か

バリューベース・プライシングは、化学品や専門機械といった製品に、それがもたらす経済的インパクトに比例した価格を付与する産業向けB2Bの文脈で体系化された。

顧客にとっての経済価値(Economic Value to the Customer:EVC)という概念は、次善の代替案の価格に、自社製品が提供する利得の価値を上乗せして価格を決めるべきだとする。機械が1万ドル高い一方で、工場の労務費を5万ドル削減できるなら、差別化価値は4万ドルである。

advertisement

バリューベース・プライシングはEVCを活用し、顧客に対して自社製品が生み出す利得のうち、望ましい取り分(実際には10%〜50%の間が多い)を獲得する価格設定を支援する。価格決定のヒューリスティックとして、次の式で表すことができる。

価格=次善の代替案の価格+(獲得割合×差別化価値)

次善の代替案のコストが年間2万ドルで、自社製品がエラーに起因するコストを1万ドル削減できるとする。差別化価値の30%を獲得すると決めた場合、計算は次のようになる。

先ほどの式に数値を当てはめると、2万ドル+(0.30×1万ドル)=2万3000ドルとなる。

なぜバリューベース・プライシングはSaaSに有効なのか

シンプルな「コスト+マージン」モデルでは取りこぼしが生じ、競争ベースのアプローチは価格下落を招きかねない。同様に、精緻な従量課金の方式はユーザーにとって公正で透明である場合がある一方、ユースケースやユーザーセグメントによって価値実現が大きく異なることを捉えきれないことが多い。

バリューベース・プライシングは、他のアプローチの長所を取り込むことを目指すモデルである。課題は、顧客ニーズを深く理解し、価値を定量化し、ユーザーをセグメント化することだ。SaaS企業は、バリューベースの価格決定を行ううえで独自の優位性を持っている。

ほとんどの場合、投資対効果(ROI)は容易に算出でき、顧客セグメント、セールスサイクル、その他の指標に関するデータも豊富にある。顧客の感情やその他の無形価値の役割がはるかに小さいB2B SaaS製品は、その好例である。

当然ながら、顧客に価値を提供し、透明な価格戦略を持つSaaS企業ほど、価値を重視する顧客を引きつけやすい。そして多くの場合、こうした顧客はライフタイムバリュー(LTV)の高い顧客でもある。

高LTV顧客をターゲットにするには

顧客LTVとは、ユーザーが企業と関係を持つ期間を通じて生み出す純収益の合計から、その提供コストを差し引いたものである。高LTV顧客は戦略的存在であり、多くはエンタープライズアカウントで、SaaSスタートアップの存続に不可欠だ。あらゆる価格戦略は、こうした顧客のニーズに適応できるよう調整されるべきである。

プロキシサーバー市場を含む多くのSaaS市場では、主要プロバイダーはいずれも、エンタープライズ向けのカスタムなバリューベース価格のティアを提供している。その目的は高LTV顧客の獲得であり、バリューベース・プライシングはそのための重要なメカニズムを提供する。

• 顧客は価値に対して支払う意思がある。製品からより大きな経済価値を得る顧客は、それに比例してより多く支払う意思がある。価格を成果に連動させることで、この差異を獲得できる。

• 市場拡大の実現。バリューベース・プライシングを採用したSaaS製品は、その価値を適切に伝えられれば、顧客ロイヤルティを失うことなく価格を引き上げやすい立場にある。

• 更新率の向上。バリューベース・プライシングは、製品価格と知覚価値を一致させることで更新率の改善につながり得る。価格の公正さを生み、払い過ぎだという感覚を軽減する。

• 価格交渉の転換。バリューベース・プライシングは、営業チームが機能リストや値引きではなく、事業成果と財務インパクトを起点に提案することを可能にする。高LTV顧客もROIを評価しているため、営業パフォーマンスの向上につながる。

バリューベース・プライシングの導入方法

SaaSでよく使われるヒューリスティックに、いわゆる「10倍ROIルール」がある。顧客は、製品に支払う金額の少なくとも10倍の価値を受け取るべきだという考え方である。しかし本当の問題は、製品が生み出す価値を理解し、それを定量化することにある。ニッチごとに状況は異なるため、普遍的な手順を示そうとする試みは、概して同様の単純化にとどまる。それでも、いくつかの指針はある。

顧客インタビュー、ケーススタディ、利用統計、入手可能なあらゆるデータを用いて価値発見のリサーチを行うことが不可欠である。金銭価値として定量化するには、製品の影響について追加の仮定が必要になる場合がある。多くの場合、許容できる価格帯に関するアンケートを取り入れる方がシンプルなアプローチとなる。

プライス・センシティビティ・メーター(価格感度測定)などの手法は、最適な価格ポイントと許容価格帯を特定するのに役立つ。顧客の価格選好は、製品の知覚価値を判断する最良の手がかりであることが多いが、ユーザーセグメントによって評価は異なり得る。

セグメンテーションにより、低収益セグメントを切り捨てることなく、支払い意思のばらつきを取り込む差別的な価格設定が可能になる。機能だけに依拠すると、顧客が製品から実現している価値を見落とすことがある。顧客は少数の機能しか必要としなくても、それがもたらす価値に対して高い金額を支払う意思があるかもしれない。

最後に、バリューベース・プライシングの導入には組織的な変革が必要になる場合がある。プロダクトオーナーと開発者は製品価値の向上を優先すべきであり、マーケティングと営業チームは、その価値を透明性を持って伝える方法を見出すべきである。バリューベース・プライシングの導入は、企業に顧客第一の志向をもたらすはずだ。

結論

バリューベース・プライシングは、B2B SaaS企業にとって便利で効果的な価格戦略であり、CEOや価格担当マネージャーが知らず知らずのうちに実践していることさえある。これは新しい概念ではないが、新しいのは、市場トレンドに応じて追跡・調整可能な透明な価格モデルを用いて、意識的かつ体系的に実行することである。

forbes.com 原文

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事