縮む市場の中で見えてきた風景
ところでコンピュータが普及し、ネット上で情報が流れることが当たり前となった現代において、日本の筆記具市場が構造的に縮小しているという認識を持っている人は多いはずだ。筆者も同じだった。しかしこの仮説は、半分正しく半分間違っている。
確かに、少子高齢化とデジタル化の進展で「書く」機会そのものは減少している。統計的にも筆記具の数量は減少傾向にある。しかし石川は、その裏側で起きている変化に目を向けている。
少子化により、一人の子供にかけられる教育投資は確実に増加している。
「スマートフォンのゲーム課金に使わせるくらいなら、良い筆記具を買ってあげたいという親心が、2000円、3000円、場合によっては5000円クラスのシャープペンシル市場を作り出し、まさに飛ぶように売れている。また米国ではデジタル化が進んだからこそ、手描きのイラストをSNSにアップして世界に発信するという新しい需要が生まれた。コロナ禍以降、アート&クラフトの市場は日本でも拡大を続けている」
つまり数量そのものは減少傾向にあるが、単価が上がっているため、売上で見ればコロナ禍での需要減によるダメージから回復し、国内だけを切り出しても増加を続けているのだ。
例えば人気のジェルボールペン、サラサのプラスチックボディを顧客の前で取り出して使える高級感を持つラインナップに拡張(サラサグランド)する。多軸ボールペンのブレンを、さらに多機能・高付加価値化する。環境配慮の文脈では、明治製菓のカカオ殻からボディ素材を作るコラボレーション商品も展開しているという。
さらにグローバルに目を転じれば、筆記具市場はむしろ拡大基調にある。
中国では政府の指定でジェルインクペンが学校教育に使われ、学生一人あたりの消費量は日本の約3倍。ゼブラは中国市場専用にローカライズしたブランドを展開し、ここ数年成長を続けている。米国では40年前からの進出で一定のブランド認知を確立しており、48色のノック式カラーペンやラインマーカーであるマイルドライナーがアート&クラフト市場で支持を集める。
「日本製の筆記具は品質で世界一だと絶対的な自信を持っている。今後も東南アジア諸国の教育水準が上がってくる中で、私たちの製品が選ばれる機会は増えると思っています」
インドネシア、インド、さらにはアフリカ──人口が増え、教育投資が拡大する地域は、筆記具メーカーにとってのフロンティアというわけだ。
「書く」の先にあるもの
石川がもうひとつ、軸となる経営方針として掲げるのが「新規事業への挑戦」だ。その中核にあるのが、T-Penと呼ばれるデジタルペンと「kaku lab.」という実験的プロジェクトである。


