石川太郎が社長を継いだのは2022年。創業117年目のことだ。外から見れば「筆記具一筋の老舗」だが、内側から見れば世代ごとに大きな賭けを繰り返してきた企業だった。そうした創業系ならではの認識が、石川の経営観の土台を形作っている。
本業のど真ん中であるボールペン事業で、THE ZEBRAのような挑戦を続けることで、組織全体に「いつかは自分たちも」という空気が醸成される。一つの突破口が次の挑戦を呼び、その経験が組織の体質そのものを変えていく。
時間はかかる。しかし、オーナー企業であるゼブラには、四半期ごとの業績評価が経営判断の軸とならざるを得ない上場企業とは異なる時間軸の経営ができる。
では、どのようにして、その経営感を組織に実装していくのか。
トップダウンからミドルアップダウンへ
歴代の経営者が共通して持っていたのは、強烈なトップダウンのリーダーシップだった。創業者がペン先の国産化を決断し、2代目がボールペンへの転換を断行し、3代目が海外進出を主導した。いずれも、経営者自らが決めて自ら動くスタイルだ。
しかし、石川はそのスタイルを継承しなかった。
正確には、そのまま継承するだけでは、時代に取り残されると感じたからだ。ゼブラが掲げる経営理念は“和と挑戦”。歴代の経営者はその“挑戦”をトップダウンで体現してきたが、石川は同じ理念を異なる方法で組織に根づかせようとしている。
「変化が激しい時代に、トップダウンだけで引っ張り続けるのは限界がある。組織全体で、自然と現場から挑戦の意志が醸成されるような構造にしたかった」
社長就任と同時に掲げたのが「ミドルアップダウン経営」への転換だ。トップダウンに対してボトムアップという言葉もある。しかし、「何か違う。ウチには合わない」
誰もが知るゼブラのブランドだが、企業の規模としては中堅といえるだろう。この規模であれば、部課長クラスが経営幹部と、企業経営の将来像を共有できる。一方、経営幹部の意図を読み取れる位置にありながら、現場の手触り感も理解できる。
経営幹部と業務の現場。双方の思想を理解できる唯一の層を組織の駆動軸として組織作りを行うことで、130年の老舗企業に成長の“ヘッドルーム”を生み出した。
理念を掲げるだけでは組織は動かない。最初に手をつけたのは人事評価。従来の人事評価に「どこまで新しい挑戦しているか」を明確に組み込み、部課長向けにより高度な研修プログラムを新設。その中で人材を適材適所に配置し、抜擢した人材に組織を走らせる。
また固定しがちだった海外駐在員を3年のローテーションで制度化し、幹部候補社員が赴任先で得た経験を組織に還元する仕組みも整備した。会議や予算管理の手法も整理し、それまでトップに集中していた決裁権限の各層への委譲も積極的に進めた。
「権限がトップに集中していると、意思決定をみんなしなくなるんですよ」
権限が上に集中すればするほど、中間層は判断を避け、上に伺いを立てることが仕事になる。石川は、その構造を意識的に解体したのだ。


