AI業界では現在、莫大な開発費を投じる米国の先行企業と、低コストで猛追する中国企業との間で激しい競争が起きている。その最中、OpenAI、Anthropicといった米国のトップ企業が、自社の最先端AIモデルの能力を中国企業に不適切に「抽出」されていると相次いで告発した。
米国企業が問題視しているのは、中国企業による「蒸留(distillation。ディスティレーション)」という学習手法の利用である。蒸留とは、先行する高度なAIモデルに大量のタスクを処理させ、その出力結果を自社の安価なAIの教師データとして学習させるアプローチを指す。米国企業は、中国側が数万ものアカウントを通じて自社AIにアクセスし、自社モデルから価値を吸い上げ、知的財産権を侵害していると非難している。
しかし、こうした米国側からの知財権侵害の警告や告発があるにもかかわらず、中国の投資家たちの反応は対照的だ。今年に入り、香港市場での新規株式公開(IPO)や未公開株への投資を通じて、中国のAI企業には巨額の資金が流れ込んでいる。米国のモデルとほぼ同等の性能を持ちながら、はるかに安価でオープンウェイトモデルを提供する中国企業を、香港市場は高く評価しているといえるのだ。
結果として、疑惑の渦中にある中国企業の創業者たちは次々と巨万の富を築き上げた。一方でこの状況は、莫大な計算資源と開発コストを前提とする米国のAI業界全体に、「今後も現在の高い価格設定を維持できるのか」という、価格決定力に関する重い問題を突きつけている。
OpenAIとAnthropic、DeepSeekなど中国のAI企業による「蒸留」攻撃を公式に主張
先月、OpenAIとAnthropicは、中国のAI企業が「蒸留」と呼ばれる手法を使い、両社の独自モデルから機能(コーディング、推論、その他の振る舞い)を不適切に抽出し、自社の競合モデルの学習に利用していると公に主張した。
2月23日付プレスリリースでAnthropicは、DeepSeek、MiniMax、Moonshot AIが、約2万4000件の不正アカウントを通じて、同社のClaudeモデルに約1600万回プロンプトを投げたと述べた。2月12日には、OpenAIが米下院の対中戦略競争特別委員会に書簡を送り、DeepSeekが同様にOpenAIのモデル出力を用いて不適切に自社モデルを訓練したと申し立てた。
グーグルの脅威インテリジェンス部門も、Gemini標的の攻撃を警告
グーグルの脅威インテリジェンス部門(GTIG。Google Threat Intelligence Group)は、社名こそ挙げなかったものの、2月の報告書で、Geminiを標的にした「蒸留」攻撃が増えていると警告した。
名指しされた企業は不正行為の疑いについて公にコメントしておらず、Forbesのコメント要請にも応じなかった。しかし、より大きな論点は見過ごしがたい。これら中国モデルのいくつかは、今や米国の同等モデルとほぼ同等に優れている。多くはオープンウェイトモデルである。大半はより安い。そして、その組み合わせが、業界全体の「高コストで成り立つ経済性」への信認を蝕み始めている。
「こうしたモデルを作るのは簡単ではありません。蒸留は、そのプロセスを一足飛びに追い越す方法です」と、グーグルの脅威インテリジェンスグループのチーフ・アナリスト、ジョン・ハルトクイストは指摘する。
Leonis Capitalのベンチャーキャピタリストで、かつてOpenAIの信頼・安全に携わったジェニー・シャオは、さらに率直だ。「オープンウェイトモデルは、事実上乗り越えるべき性能を示すキルライン(最低限の基準ライン)です」。



