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2026.03.03 16:08

6G時代に向けた通信業界の大転換:エージェント型AIでネットワークが自律化へ

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通信業界のAI推進は、より重要な段階に入っている。チャットボットや分析ダッシュボード、特定領域に限定された自動化ソリューションを試行錯誤してきた数年を経て、AIの活用はネットワーク管理、ソフトウェア開発、カスタマーサービスへと統合されつつある。通信向けAI市場は2030年までに年平均成長率38.8%で拡大すると見込まれており、業界が本格導入へと舵を切っていることを示している。

世界の通信事業者は、障害を予測し、ネットワークインフラを動的に最適化し、ますます分散するネットワークにおける複雑なプロセスを自動化するソリューションの開発に取り組んでいる。目標は完全自律化だ。人間のネットワークエンジニアが対応する前に、ネットワーク自らが意思決定し、是正措置を実行できる状態である。例えばBharti Airtelは、ネットワークとサービスのプロセス管理にエージェント型AI(自律的に判断・行動するAIシステム)を用い、平均修復時間を30〜50%、運用コストを20〜25%削減したと報告している。

業界は、AIを機能の1つではなく新たな基盤レイヤーとして、ネットワークをゼロベースで作り直し始めている。NVIDIAの「2026年版 通信業界におけるAIの現状(State of AI in Telecommunications)」レポートによれば、通信業界でAIを利用している割合は2025年の49%から66%へと増加した。インフラのレベルでは、NVIDIAとNokiaが取り組むAIネイティブな5Gおよび新興の6G無線アクセスネットワーク(RAN)といったパートナーシップが、AI生成トラフィックの急増と自律的なネットワーク管理を支えることを目指している。同様にGoogle Cloudは、Vodafone Italyのデータプラットフォーム「Nucleus」とTelenorのクラウド移行を支援しており、両社は業務全体に生成AIをスケールさせている。

欧州とアジアでは、Transatel、Ericsson、NTTドコモなどの企業が、予測分析、生成AI、エージェント型システムを、SIMライフサイクル管理やIoTオーケストレーション(統合管理)から、RAN最適化、カスタマーサポートに至るまで、あらゆる領域へ組み込みつつある。

洞察から実行へ

これまで通信業界におけるAI導入は、記述的分析と予測分析が中心だった。通信会社は機械学習アルゴリズムを適用し、異常の検知、トラフィックの予測、顧客行動の分析を行ってきた。こうした活用は可視性を高めたものの、分析と実行の間に「閉ループ(分析→実行→検証)」を形成することはほとんどなかった。ところが、認知・推論・実行を自律的に担うソフトウェアエージェント、すなわちエージェント型AIシステムの登場により、通信会社はネットワーク機能や運用プロセスを直接オーケストレーションできるようになりつつある。

欧州に拠点を置くセルラーIoT企業Transatelは、AIによる異常検知を用いて、企業向けおよび消費者向けデバイスにおけるSIMカードの利用パターンを分析している。機械学習アルゴリズムが、不規則なトラフィックスパイク、ローミングの問題、消費パターンを事前に特定し、課金の不整合が生じる前に顧客が必要な調整を行えるようにする。予測モデルは顧客とデバイスの行動を先読みし、渡航向けデータプランやIoTサービスパッケージの動的な変更を可能にしている。

TransatelのCEO兼共同創業者であるJacques Bonifay氏は、筆者にこう語った。「異常検知、クラスタリング、予測といったAI対応機能は、特に国際的なオペレーションや多次元のトラフィックパターンを管理する際、MVNO(仮想移動体通信事業者)やIoT接続プロバイダーにとって極めて重要になる。我々の狙いは、QoS(サービス品質)からQoE(体感品質)へ移行し、顧客体験が意思決定を左右する状態を実現することだ」

Bonifay氏によれば、同社はエンジニアリングのワークフローにも生成AIを統合しており、開発者はコードのひな形作成、データベース作成、翻訳、自動リファクタリングにAIを活用している。AI主導のテストにより、QAの人員を増やすことなくユニットテストやクロスプラットフォームの検証シナリオ、課金シミュレーションを生成・実行できるほか、本番ログを対話的にクエリすることでインシデント解決までの時間を短縮している。

さらにBonifay氏はこう付け加えた。「責任あるAIへのアプローチは、GDPRおよび世界的なプライバシー規制への厳格な準拠、ならびにプライバシー・バイ・デザインの考え方に基づいている。顧客データの厳格な分離、強固な匿名化の実践、AIプロバイダーとの契約上の保護措置を徹底している」

同社は最近、Oracle Communicationsとの提携を通じてインフラ戦略を拡大し、Oracleのクラウドネイティブな5Gシグナリングコアを統合して次世代の接続サービスを支えている。300社以上の国際的なモバイルキャリアとの関係を活用し、TransatelはOracle 5G Standalone(SA)コアの主要コンポーネントを展開して、グローバルな事業領域全体で信頼性の高い接続を強化する計画だ。これにより、コネクテッドカー、航空、産業オートメーションにまたがる数百万のIoTデバイスを支える。

自律型ネットワークへ向かうEricssonの推進

AIはネットワークを最適化するだけではない。通信インフラの設計と実装のあり方そのものを変えつつある。AIのワークロードは高帯域、信頼性、低遅延を要するため、従来の有線ネットワークやWi-Fiネットワークでは産業環境での要件を満たせなくなっている。

Jaguar Land Roverは英国ソリフル工場で、従来の有線ネットワークをEricssonと構築したプライベート5Gネットワークに置き換えた。新たなネットワークは施設内でほぼ900Mbpsの速度を提供し、AI主導のロボティクス、デジタルツイン、リアルタイムの生産分析を支えている。IoTセンサーやビジョンシステムが継続的にデータをストリーミングし、予知保全と品質分析に役立っている。

Ericssonでエンタープライズ向けワイヤレスソリューションの責任者(SVP)を務めるÅsa Tamsons氏は、筆者にこう語った。「現代の生産環境では、モバイルロボットや、システム間のリアルタイム連携、接続された資産に向けた大規模なソフトウェア配布が発生する。無線ネットワークに知能が組み込まれると、接続性は適応的になり、リソースをリアルタイムに再配分し、ミッションクリティカルなワークロードを優先できる」

Ericssonはまた、AIで駆動するrApps(RANアプリケーション)をCloud RANプラットフォームに統合し、状態監視、トラフィック分散の最適化、障害の自己修復を実現している。エージェント型AIレイヤーが高次の目的を解釈し、ネットワーク調整を自律的にオーケストレーションすることで、閉ループ自動化が手作業の介入を最小化する完全自律の「レベル5」ネットワークへと近づいている。

Tamsons氏はこう述べる。「AIを活用する組織にとって、レジリエント(強靭)な接続性は今や必須条件だ。推論はますます物理プロセスの近傍で行う必要がある。エッジでデータを処理することで、企業は遅延を減らし、帯域を温存し、上流の接続性が制約されても運用を維持できる」

NTTドコモは「AI-to-AIネットワーク」を構築している

日本最大の通信事業者であるNTTドコモは、初期の6G実証実験で「AI-to-AI協調」と呼ぶ取り組みを試している。この概念は送信側と受信側の双方に機械学習モデルを配置し、信号劣化に対抗して動的に協調することで、次世代ネットワークにおけるスループットを改善するものだ。

NTTドコモ 6G技術部の上席執行役員兼部長である大戸裕之氏はこう語る。「AIがネットワーク全体を自動で制御する完全なゼロタッチネットワークを実現することが目標である。人間とAI、ロボットが協調できる世界を実現するためには、ネットワークを根本から再設計する必要がある」

ドコモはすでに、実運用にエージェント型AIを組み込んでいる。2026年2月4日、同社はAWS Bedrock AgentCore上に構築したエージェントベースのAIプラットフォームを展開し、100万台を超えるネットワーク機器からのデータをリアルタイムに分析した。同システムは、ネットワークのトポロジー(構成)グラフにマッピングされた複数のAIエージェントをオーケストレーションし、異常を検知し、根本原因を切り分け、復旧手順を推奨する。これにより、複雑な障害に対する対応時間を50%以上短縮した。

同社はNTTとの協業により、6G時代に向けて処理をネットワークレイヤーに直接埋め込む「インネットワーク・コンピューティング」アーキテクチャも実証した。GSMA Open Gateway APIを用いて、リアルタイムの動画解析でおよそ90%の精度を達成し、XR(拡張現実)、センシング、自律的なネットワーク制御といった低遅延アプリケーションを支えている。

6Gと分散インテリジェンスへの道

6Gの標準はまだ策定途上にあるものの、事業者はAI、接続性、分散エッジコンピューティングのはるかに深い融合を予測している。将来のネットワークは設計段階から知能を備えることが期待され、動的な周波数管理、用途に応じたネットワークスライス、デバイスレベルでの予測最適化を可能にする。

Tamsons氏はこう述べる。「AIが分散環境全体で分析から運用上の意思決定へと移行するにつれ、ネットワーク性能とオーケストレーションは基盤となる。6G標準が進化するにつれて、AIとセンシングのより深い統合がネットワークレイヤーそのものに組み込まれ、より自律的な最適化と、接続とコンピュートの緊密な協調が可能になると見込んでいる」

AIが分析から自律的な意思決定へと移るなか、通信ネットワークは知能的でプログラマブルなプラットフォームとして再構築されている。6Gが視野に入る今、接続性は受動的なインフラから戦略的な制御レイヤーへと変わりつつある。事業者と企業の双方にとって、ネットワークの知能は競争優位の基盤として急速に重要性を増している。

forbes.com 原文

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