AIは日本の循環経済を加速できるか━━「リサイクル大国」の次なる構造転換

エレン・マッカーサー財団(EMF)CEO ジョンクイル・ハッケンバーグ氏(提供:エレン・マッカーサー財団)

第3章|AIは「ごみ分別の高度化」を超え、循環のOSになり得るか

いま、循環経済領域で語られるAI活用の多くは、廃棄物分別や施設運用の効率化に集中している。実際、EMFとの対談でも、廃棄物を高精度に分類するCleanHubやGreyparrotといった事例が紹介されている。画像認識やデータ解析によって、回収効率や純度を高める取り組みは確実に前進している。

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しかし、日本が直面している本質的課題は「分別精度」ではない。循環が構造としてつながっていないことである。

では、AIを「循環のOS(オペレーティングシステム)」として使うとしたら、何が可能になるのか。

例えば、全国規模の資源フローの可視化と価格形成の高度化。

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自治体、回収業者、再資源化事業者、メーカーのデータを横断的に統合すれば、どの地域でどの素材が滞留しているのか、どの再生材が不足しているのかをリアルタイムで把握できる。これは単なる統計ではない。物流、価格、CO₂排出、需要予測を同時に重ね合わせたダイナミックな地図である。これにより価格の安定も得られよう。

あるいは、重要鉱物の国家レベル循環シミュレーション。

EV電池や電子機器に含まれるリチウム、ニッケル、コバルトが、何年後にどれだけ廃棄段階に到達するか。回収率を何%高めれば、輸入依存度はどれだけ下がるか。

こうしたマクロかつダイナミックなシミュレーションは、人手に頼っていれば難しい。複数の政策シナリオを並行計算し、「資源安全保障として最も合理的な循環設計」を示すことができないか。

さらに、欧州のように製品設計そのものへのフィードバックも可能となるかもしれない。ある素材を1%変更するだけで、10年後の回収効率がどう変わるか。ネジの規格を統一すれば解体時間が何分短縮されるか。AIが回収現場データを設計部門に返すことで、「循環前提の設計」が具体的な数値として可視化される。

だが、ここで現実に立ち返らなければならない。AIは統合データを前提とする。しかし日本では、自治体ごとにデータ形式が異なる、循環事業者の大半が小規模でデジタル投資余力が限られる、全国規模で横串を通す資源データ基盤が存在しない、という構造的制約がある。

政府は地域循環モデルを志向しているが、AIによる最適化はスケールを前提とする。分散型のままでは、AIは部分最適の高度化に留まる。

したがって、日本でAIを循環経済の中核に据えるためには、少なくとも三つの前提条件が必要である。

1. 廃棄物種別、量、品質、物流情報の共通フォーマット化による、自治体横断のデータ標準化

2. 全国規模のデジタル資源台帳の整備による製品・部品単位で循環情報を蓄積する基盤構築

3. 小規模事業者を接続し、データと資源を統合できる民間主導のハブとなる事業体の育成

結びにかえて|問われているのは「技術」ではなく「設計思想」である

ハッケンバーグ氏が語る通り循環経済においてAIが果たす役割は大きい。ただし、日本の課題は、AI技術ではなく、構造の分断である。データと制度と事業構造が整えば、日本の循環経済の実現が見えてくる。分断された回収・再資源化・設計・調達を、ひとつの国家戦略として再構成することが可能か、今後に期待したい。


今回ご紹介した記事の全文はBrunswick Social Value Reviewに掲載されている。また、日本語のホームページはBrunswickの東京のページに掲載した。ぜひご一読いただきたい。

文=唐木明子

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